14、初(?)世界移動
一週間後、アイザックは家の鍵をリョウに預けて荷物を持ち、家を出た。ソウは話し合いをしたその日のうちにアウトルック邸に引き取られた。
準備したのは必要最低限の物が入った腰袋と手袋、着替えと紙などが入った防水仕掛けの肩掛けカバンだ。カバンの方は念のための方が分かりやすい。
家を出るとすでに集合していたらしい。三人がすでに家の前で待っていた。
「準備はできた?」
「なるべく軽くしてますよ」
「じゃ、行こうか」
ランタンを持ったリサが先頭となり、いつも霧がかっている森に向かった。森の向こうには街があり、時折入り込んで行方不明になる子供も多いことから見渡せるアイザックが度々森に入っている。その為、獣道のようなものはあるにはある。そこ以外の平原部は膝丈ほどの高さの草が生い茂って歩きづらくなっている。
「店はチャイブに頼みました。ある程度のことはできるように仕込まれてましたから質は僕の物より劣りますが、近いものなら作れますし」
「一昨日にしばらく定期的に休暇を取らせてもらえるよう交渉していたのはそういう事か」
一時的に住み込みで働く事を中断し、薬屋を週一の頻度で営業してもらえるよう取り計ってもらっている。完全にアイザック達の都合に合わせてもらっているようなものだが、本人は恩返しがようやくできると張り切っている。
「カバン一つ分ぐらいが一番良いんだけど、収められているようで何より」
「本当に必要最低限だと腰にかけてる道具入れだけになるんですけど、流石に着替えが欲しかったのでカバンにしました」
「それが一番良い選択だよ」
おっとっと、とクリスは乾いた枝を踏んだことで襲ってきた蛇を難なく掴んで木の枝に巻きつけ少し後ろの草原に置く。蛇は広がっている草の海の奥の方に逃げて行った。
「いざとなれば戦い、食べられるようにする準備ぐらいは持っておいた方が良いからね」
「誰もいない島に放り出されるような準備ですね」
「実際そういう物だしね」
つまり偶然無人島に漂流したか、通りがかった人に見つけてもらえたか、初めから送り迎えがあるか、という違いだ。アイザック達なら送り迎えがある方である。
「だから巻き込まれた人でもどれだけ生き残れるかが厳しいんだよ」
「そうなんですか」
ただただ無人島に漂流してしまった運の悪い人間は、どれだけの生き残る為の知識があるか、どれだけの安全な島に流れつける運があるか、どれだけの動き続けられる体力があるか、どれだけの発狂しない精神力があるのか、それが大切だ。生き残るのが厳しいのも納得だ。
「その点、君たちは幸運だね。前々から準備できる時間と案内役がいる」
「へー」
「さては興味がないな」
それは確かである。
あくまでもアイザック達にとって手段であって目的ではないので、本来ならどれだけ危険なことであるか話されても深く気になるほどの興味は無いのだ。
先頭で進んでいたリサが立ち止まる。
森の奥が見渡しずらいとばかりに目を細めて手を眉毛に当て盛りを見る。
「セドリック。森の中に入るけど、見える?」
「前に無効化したので見えますよ。姉上はどうなのですか?」
「見えない! 私には飛ぶことしかできないからな。クリス」
「はいはい」
クリスがリサからランタンを受け取り、先頭を交代した。
「ここからは、わたしが案内しますね」
「お願いします」
リサはクリスの腕を掴んだ。そうでないと霧しか見えないリサは逸れてしまうからだ。
「リサ様はただの人間なので霧が濃すぎて何も見えないのですよ。セドリック様が例外なだけですよ」
「それもそうだな」
ただでさえ分家から初代様の再来だ! と半分崇められている。ならばできないことはないと言うだろうが、そんな信仰心をただの人間のセドリックに押し付けないで欲しい。
「アイザック君は現地人だから平気だと思うけど」
「向こうの大杉ぐらいまでは見えてますよ」
「なら十分かな」
大杉は森の中央にある大きな杉のことだ。空からでも霧の中ぽつんと立っているのが見える。
「どこまで行くんですか? そっちは崖ですよ」
「崖の近くまで行くんだよ。あとはちょっとしたコツがいるからね」
崖のある左側に向かって進んでいく。
アイザックには見覚えがない小さめの小屋に着いた。
「つきましたよ」
「ありがとう」
クリスがリサの手をドアノブへと誘導する。ペタペタとドアとドアノブの位置を触感だけで確認する。
「いいかい、これが終わったらわたしが歩いたところしか歩いちゃダメだからね」
「「分かりました」……」
袖口から一本のナイフの刃先を出して指を切る。その血が垂れる指を扉に付ける。
『血液ヲ確認。照合シマス。残リ時間5、4、3、2、1、照合完了。鍵ヲ解除シマス』
無機質な声が響いた後、ガチャッと自動的にドアが開く。
「さあ、中へどうぞ」
リサの後に続いて二人は中に入る。後ろにいたクリスは入ったことを確認したから完全に締め切らないようレンガを挟み込む。
「姉上、なんですかこの行き先不明の転移門ばっかりの空間は」
「ここが正式な通り道だよ」
通り道、というか転移門が上下左右前後に描かれた真っ白な部屋である。流石に歩けるような部分があるにはあるが、一歩間違えればどこかに転移してしまいそうだ。ただ、まだ発動できる準備ができていないのか発動の際に出る光は無い。
「正式で無いのがあると?」
「それが言ってた裂け目を通ってきた人のことだよ」
「へー」
「雑に流すなー」
全く、と言ったようにリサは肩を落とす。
「こっちが帰りたい人を返す側ね。元のところの管理人に連絡して出先で迎えてくれるの。今回は乾いたのところに頼んであるから右のやつを使うね」
「そんなのでいいんですか?」
「いいって言われてるからいいんだよ」
リサは手にナイフを当てて血を出す。その手を右の壁に当てる。
「これで繋がったから後は入るだけ。一応はぐれたら危険だし手を繋いでおいたらいいよ」
「分かりました」
セドリックがアイザックに向けて手を差し出す。その手をアイザックは握る。
「「それでは、良い旅を」」
「「行ってきます!」」
そしてアイザックとセドリックはゲートへと足を踏み入れた。
しばらく、だいたい一週間ほど休みます。二章までお待ちください。




