13、そんなの初めて聞きました。
驚きのあまり固まったアイザックにこれまたリサも驚いた。まさか聞いていないと思っていなかったのだろう。
「あれ? 本当に聞いてない?」
「聞いてないですよ」
アイザックの記憶内にはそんな事は入っていない。し、リペルも何も言っていない。
「おっかしいなぁ。ウィグルさんなら言ってると思ったんだけど」
「聞いてませんよ!?」
謎に高いウィグルへの信頼度だ。
昔は部下だったからか知らないが、そこまで信用されているとは知らなかった。あまり職場での父親の姿というのは見ていないからである。
「こう、賞状みたいなのか、カードが家に無かった?」
「あったっけ?」
「いや、俺に聞かれても知らないって」
セドリックもかなりの頻度で出入りしていたからな知っているかもしれないと思ったのだろう。残念ながらセドリックも知らなかった。知っていそうなリペルは居ないのでここで行方が分からなくなった。
「まあ、再発行できるから一週間後にとりに来てくれたらリペルちゃんと合流できるかな」
「一週間かかるんですか?」
思ったよりもかかっていたらしい。純粋な驚きが出た。
「そうなんだよ。特殊なインクやら紙やら、色々あってね。準備と制作含めて一週間はかかるんだよ」
「ほへー」
特殊なインクや紙が何かわからないが、かなり苦労する物なのだとどこか他人事のように思う。
「何を他人事みたいに言ってるのかな」
「えっ」
「リペルちゃんと合流したければ、その世渡りにならないといけないんだよ」
「えっ゛」
リペルと合流しなければならないことは確かだが今のところの唯一の手段である物が使えなくなるのは困る。
アイザックはおずおずと聞く。
「………………再発行の手間賃とかは」
「ないから安心して」
アイザックは返答に安心した。聞いている分には高そうだと思えたからだ。家の備蓄で足りるのかどうかと心配していたのだが不要と知り安堵した。
「ついでにセドリックの分も作っておこうか?」
「え、俺もですか?」
まさか自分の分も用意しようとしている姉の意図に気づかなかったようだ。
「リペルちゃんとかオリビアのことが気になるでしょ」
「それもそうですが、姉上が帰ってこない間の仕事はどうするんですか。それにいつまで空けるわけにもいかないでしょう」
「そこまで信用されてなかったか」
「自業自得ですよ」
クリスがリサの敵に回った。
「セドリックが居ない間は私が仕事をする」
「………………姉上が? 正気ですか? もしかして朝食の時の魚が発酵していたとか」
「至って正気だからね? 発酵もしてない普通の美味しい魚だったからね?」
アイザックは知らないが、朝食の魚は白身魚のムニエルであった。シェフの確認もあり、加熱されているので腐っているはずはない。
「あんまり表舞台には立ちたくないから代理でセドリックを行かせてたんだけど、こればっかりはしょうがないから」
「から?」
何をしようとしているのかという警戒心を感じる。
「仕事だけして表立つのはノールデン伯爵に頼むね」
「伯爵も暇じゃないでしょ!?」
「いやー、最近隠居してたから、暇なんじゃないかな」
「だとしても他家の人に頼むのはどうかとおもいますよ!?」
「セドリック」
「…………はい」
リサの声でセドリックが開けていた口を閉じた。
「うだうだ言ってないで、結局気持ち的には行きたいけれども領主の仕事が残っているから気がかりで迷っているんでしょ」
「…………はい」
ほぼ図星であった。
「こっちの事は気にせず休暇とでも思って行ってきなさい」
「……分かりました」
渋々セドリックが引き下がった。
「とりあえず、リペルちゃんと合流するためにいくつか世界を渡ってもらおうかな」
「それは、大丈夫なんですか?」
「渡ること自体に危険はあんまり無いけれど、出た先が危険で亡くなる例が多いかな。まあ、二人なら平気でしょ」
サバイバルの基礎、使用すべき魔術、やってはいけないことなどはオリビアに叩き込まれている。
「とりあえず、再発行した物を渡してから移動用に隠してあるゲート案内するから、一週間後アイザック君の家集合でいいかな?」
「こっちじゃなくていいんですか?」
アイザックはてっきりアウトルック邸に集まるものだと思っていたらしい。
「いいんだよ。アイザック君の家の方が近いしね」
「そんなノリでいいんですか?」
「まあ、いいんじゃないかな。ある程度自由にできるし」
「そのうち公私混同だと言われそうですけどね」
つまり管理人の権限を利用してリペルを探す旅をさせる準備をしているということだ。
「ま、許してくれるでしょ」
「ならいいんですけれどもね。大抵なんとかしろと怒られるのは僕なんですからね?」
「うん、ごめん!」
「ごめんで済んだら警備隊は要らないんですよ!」
そのネタはアウトルック家で流行っているものなのだろうか。この短時間でセドリックとクリスから聞いた言葉だ。
「ソウはこちらで預かるから安心してね」
「ありがとうございます」
外からえっ、という声が聞こえたが、無視する。今言及すれば面倒なことになる。
「じゃ、一週間後アイザック君の家の前集合でいいかな」
「「分かりました」」
それでこの日は解散となった。




