11、お前を、深い海の底に沈めてやる……!
人質にされていたのは買い物に行っていたリペルであった。
「リペル!」
「リペルちゃん!」
大事な存在であると認識すると先ほどのことが無かったように立ち直り始めた。リペルの首に息ができないほど締め付けない程度に腕をかける。
「さあ! これであなた達は僕に手出しできなくなった!」
「くっ」
セドリックの舌打ちをどうやら悔しくて打ったと勘違いしたらしい。首謀者は調子に乗っている。調子の乗っているがリペルの安全はある程度確保している。
「おやおや、さっきまでの威勢はどうしました?」
そんなことを言いつつも逃げられるようジリジリと門の方へ少しずつ移動している。
「しょうがない」
「?」
首謀者は頭の上にクエスチョンマークを掲げる。
「クリスさーん。出番ですよー」
「はい」
リペルの首にかけられていた腕を手で引きちぎった。
リペルが地面に倒れ込む前に紫と緑の旋風によって保護された。
首謀者はあまりの手早さにしばらく呆気に取られていたが、腕が引きちぎられたことの痛みが出てきたようで地面へと倒れ、痛みで悶え始めた。
「い、痛い! 痛い!」
「あなたが人質を取らなければ捕獲のはずだったんですがね。民間人、さらに言えばうちの薬師見習いの女の子を取るとは」
「だから、腕の一つぐらいは差し出してくれないと、割に合わないじゃないか」
もはやどちらが犯人かわからない形相である。
「まて、まて! 僕はヤーライだよ! 島に住んでる! ほら!」
「そうか」
そして足を槍で刺した。
「ああああああああ! 足が! 足が!」
「うるさい」
首謀者にビンタした。これこそフルボッコである。
「ヤーライは嘘を吐くがこれほど大きいものは言わない。それに根は真面目だからな。人に多大な迷惑をかけないぐらいで、ちょっとしたサプライズ程度のことぐらいの大きさの物しかしないぞ」
「なん、だと」
先ほども似たようなことがあった。よっぽど自分たちの変装技術に自信を持っているらしい。その分見破られたことに慣れておらず、このような反応になっているのだ。
リサは呆気に取られている首謀者の頬目掛けてナイフを突き立てる。
「ごちゃごちゃと言い逃れしようとして。肝の据わっていない男だなぁ。次はその舌切ってやろうか?」
「ひぃぃぃぃぃ」
かろうじて突き刺さることは回避したが、頬に傷がついた。
すっかり怒り心頭に発しているリサとクリスのコンビに首謀者は怯え切っている。彼らの怒りによって何をされるか分からないということに。
「なんだかロベック兄妹、狙われすぎな気がするからいっそ落ち着くまで旅に出てもらうか?」
「それにするにも本人の同意がいると思いますよ」
「それもそうなんだよなー」
それを聞いていた首謀者はリペルを抱え逃げ出した。地面に縫い付けられていた足をちぎって腕を生やし、少し離れた場所に守られていたリペルを抱え、逃亡した。3秒に満たぬ荒技である。
「あっ」
一番早く動いたクリスが叫びながら後を追う。
「待て!! 逃げるな!! 人質を解放しろ!!」
「逃げるなと言われて逃げるバカがいるものか!」
「セドリック! こいつらの見張りを頼む!」
「あ、はい!」
セドリックに指示を出し、その後をリサが追う。完全に出遅れた二人だが、リサから与えられた警備隊の人が来るまで逃げ出さないよう見張ることを優先した。
「アイザック、さっきの抜け出し方、どう思った?」
「人間のやる事じゃないのは確かだ。その証拠に足が生え直して傷口から皮膚が再生してマダラ模様になっている」
「となると人ではないことも視野に入れないとな」
話していると警備隊さんの人が護送用の馬車を用意して持ってきた。
「おい、待てやこの野郎!!」
「だから! それ! クソ痛い! やめろ!」
「辞めてたまるか!」
「じゃあ! 待て! とか! 言うなよ!」
「拒否する!」
「ふざけんなぁぁああ!」
クリスの怒声が王都中に響いている。
「クリスさん、強いなー」
「そうだなー」
「リサさん、飛んで動き回るのすごいな」
「そーだなー」
「多分ブチギレてるよなー」
「そうなんだよなぁ」
あの二人はリペルのことをとても気に入っている。その分もあるだろう。
「アイザック、空」
「はいはい」
そこでアイザックはセドリックの両腕を掴んで一度回して上に投げる。
セドリックが一番上まで到達すれば結界の応用で足場を作り、その上にふわりと降り立った。そこに目掛けてアイザックは白と黒の色がはっきり分かれた羽を出し、飛び上がる。幸い、今日は羽を出しても破れないように切れ目のある服であった。
「これで見える?」
「見える」
セドリックは遠視の魔術を使って見ているようだ。アイザックは裸眼でも目を細めるだけで見えている。
「結構建物の隙間を縫うように移動してるっぽいな」
「あー。それならちょっと相性が悪いか」
クリスもリサもどちらかと言えば直線的に動くことを得意としている。ク森などの中で動き回ることもできるが、街中のさらに細い部分では難しさがまた違う。
「ん?」
「どうした?」
「なんか、移動してる方向に何かあるけど、」
「援護だ!」
「了解」
アイザックがセドリックを抱えて首謀者に飛んで近づく。
「おい」
「ヒッ、」
「どこに行くつもりだ?」
上から来るとは思っていなかったらしい。
「言う訳ないだろ!」
「じゃあ、リペルを返せ」
「ボク達はこの子と公爵に用事があるんだ!」
「へー。どんな用事か言ってみなよ」
「そ、それは」
ぐっ、と言い淀む。
「………………公爵は管理人だと聞いたから。この子は、」
首謀者の手に力がこもる。
「言えない」
「ならば返せ」
「いやだ。これはこの子の為なんだ」
「はっ?」
言っている意味が分からない。
「それに、君たちの先生のところに預けておくからな! ちゃんと迎えに行けよ!」
「先生の居場所を知っているのか!?」
「これ以上は守秘義務だから言えないね! 自分たちで探せ!」
首謀者の前にゲートが現れた。
「あっ、待て!」
「じゃーなー! ボクは二度と会いたくもないね!」
首謀者はゲートの中に消えて行った。
「姉上、」
「大丈夫、なんとかなる。あいつらの移動先でわたしの伝手でめった打ちにしているはずだよ」
リサがセドリックの頭を撫でる。
「とりあえず、明日。話そうか」
「…………お願いします」
そこで一旦解散となった。
ゲートがあった部分をリサとクリスは念入りに確認している。
リペルがいなくなった家に帰るのも億劫だが職場に泊まり込むのは嫌だ。リペルは無事である事はなんとなく分かっているが、実感するのは寂しく感じる。
帰ろうとしたアイザックへリサが声をかける。
「あ、そうだった」
「なんですか?」
アイザックは立ち止まってリサの方に向く。
「明日来る時に君の家にいるバカを連れてきてくれないかな。廊下の前で立ってろ、って」
「…………わかりました」
そこでアイザックはソウとリサとクリスの関わりを確信して家に帰った。
リサは端にあった魔道具をポケットに入れて握りしめた。




