6-1 昔
「……」
僕はイライラしていた。
少し嫌なことがあったのだ。
アプリコットを仕留めきれなかった。別にそれはいい。それはいいが。良くないのはその後だった。アプリコットへの敗北後、久しぶりに目覚めた僕を管理し、様々な物事を教えてくれた老人に対し、目も当てられぬような罵詈雑言を投げかけた。やはりアプリコットの寄生先になるようなやつはダメだ。すぐ始末しないと。
彼は許すと言っていたが、僕に許せるわけが無い。
平民のガキらしいが、そいつを雇っている家は謝罪の1つもよこさない。
さて、家ごと潰して社会的な抹殺を図るか爆殺するか……。
「おにいさん、こわいかおをしているね?」
立ち止まった。
後ろに振り向く。
幼い男の子が僕を瞬きもせず見つめていた。
「ああ、嫌なことがあったからね」
普段なら無視するが、その時は不思議なことに、その少年がなんだかすごく気になったのでつい答えてしまった。
「わたしにいってみて!わたしはすーぱーひーろーだから、すべてすくってあげるよ!」
「いや、大丈夫だ。僕は強い。君の助けなんていらない」
「おにいさんつよいの?」
「当たり前だ」
「じゃあさ!わたしがおとなになったら、りそうのせかいをつくるためにきょうりょくしてくれない?そしたら、ほんとうに、わたしがあなたをたすけてあげる」
「……理想の世界?」
◇◇
理想の世界。
さっきの少年から発せられた言葉だ。
才人だけが集まる……愚者のいない世界。
正直子供らしくない。
ただ、僕ならばその夢は叶えられるだろう。
目の付け所と運がいい。
……僕が全ての装備を使えば、の話だが。
果たしてそこまでする価値があの少年にあるだろうか?
攻撃に関する装備の解析はもう完了した。あとは、受精卵パックその他の新世界作成用キットの調査をすればメインは終わりだろうか。
「教授」
「何?今忙しいから早くしてね」
「いや、いい。無理言って悪い」
僕を助けてくれた老人こと教授は会社を作ってかなりのお金を稼いでいた。僕の装備の解析はその資金に頼ったところが大きい。会社経営を成功させているのはとてもすごいことだ。しかも大学で勉強も教えつつ。有能なのだ。
だから僕も見つけられたんだろう。
……。
「教授さ。君もうすぐ死ぬぞ」
「……分かってるよ。僕がいなくなってもお前は生きていけるだろう。まあお前に命なんて機能があるのか分からないけど」
人は自分の命に執着するイメージがあったのでその反応は少々意外だった。
じゃあなぜ伝えたのかと言えば、なんでだろうな。僕がこの老人が死ぬところを見たくなかったからなのかもしれない。
「今日さ、僕のことを励まそうとした少年に会ったんだ。本当に小さいんだよ。ほらこのくらい」
「それは小さいね」
面倒になってきたのか返事が雑になってきた。
「僕に色々なことを教えてくれてありがとう。本当に感謝している。僕に人格らしきものが芽生えたのは間違いなく教授の教育あってのものだ」
「……出てくのか?」
思えば僕の表情、言動、全て教授を参考にしたものだったのかもしれない。
「ああ。今まで世話になった。……本当に感謝、してるんだ」
「分かってるよ。そうだな、君のこれからの未来に幸あれ、だ」
その表情は頭を下を向いていたため、窺い知ることはできなかった。




