エイプリルフール
あったかもしれないしなかったかもしれない話
「正月明けから映画かよー」
「……そう言うと思ってこっち来たじゃん!」
わざわざ僕の最寄り駅までやってきた友人を迎えに駅に行った。いやー寒いな。こんな寒さで映画館行くとか正気じゃないぜ。じゃあ他にどこ行くんだって?ははは。
「なんの映画見に行くんだっけ?」
「なんで知らないんだよ。ほらこれチケットね」
「センキュー」
ドキドキ大作戦!とか書いてあって頭が痛くなってきたので文字列を読むのをやめた。
「なにこれ?」
「ちゃんとリンク送っといたよね!?なんで見てないのさ」
「わりい。ちょっと体調悪くてそれどころじゃなかったんだって」
「もう。しょうがないなぁ」
頬を膨らませて怒っているが、元が細身のイケメンだからあんましキツくないの腹立つな。
「これはねー、3年前にやってたアニメの劇場版でー」
「……」
「BLじゃないよ!」
「別にBLでもいいけど」
「えっいいの?」
「うん」
どっちだろうと興味ないし。
てかお前そういうのも見るのか。乙女ゲーム好きで同担拒否らしいからむしろ嫌ってる側の人間だと思ってたんだけど。
「それよりさー、こっちの見たい映画もちゃんとついてきてくれんだよな?」
「うん約束は破らないよ」
「助かるぅ」
そうじゃなきゃ客が女で埋まるだろう映画を見に行くなんて了承しない。
「はいチケット」
「いやありがとな」
ふふふ。僕が好きなライトノベルのアニメ映画のチケットだ!多分まだ入場特典残ってる。楽しみだ。お金は前払いで払ったから問題なし。
「ここ曲がると映画館な」
「りょ」
▫
「ポップコーンLサイズ……?」
「ん」
デカイポップコーンとコーラの組み合わせこそ至高。何も買っていない友人の後ろで学生証を取り出せ……ない。両手埋まっててポケットに手が入らないよー。
「オレ持つよ」
「センキュー」
モテる男は違うなぁ。
チケットを見せると受付のお姉さんがギョッとした顔をしていたが、友人の爽やかな笑顔で流されていた。これがイケメンパワーか。僕はネックウォーマーで限界まで顔を隠しながら目を合わせないようにしてチケットを見せた。
劇場に入ると、結構ギリギリで来たからか、既に客席がチラホラ埋まっている。やはり女性客しかいない。満席ってほどじゃないのは題材が理由かな。こういうのはリピーターありきの商売だろうし。
「つか冷静に考えたらサークルの連中と行けば良かったんじゃねえの?」
どうやらまだ暗くならないようなので、聞いてみる。
「い、いやー」
「なんかあったのか……」
露骨に焦るじゃないか。
年会費0円だから在籍してるだけで僕はほぼ行っていないサークルを思い出す。
目の前のこいつとは違う友人に誘われて入った結果、女子率70パーセント、いる男は漫画好きではあるが女子とワンチャンあればいいかなという思考が透けて見えるやな感じのやつしかいないというなんとも居心地の悪いサークルだった。絵を描きたいだけだった僕には少々受け入れ難かった。後で聞いた話によると、男は別でサークル作ってるらしかったが、最初に受けたショックと今更入って馴染めるのかという不安から結局入らなかった。
まあ友人というか知り合いは教職の講義でそこそこできたからいいかなって……。
「なんか女の子に告白されてさ」
「うん」
「断ったんだけど他の子に告白されてさ」
「うん」
「したら最初に断った女の子が泣き出しちゃって」
「うん。なんかいづらくなったって?」
「そう!」
相変わらずモテモテだなこいつ。
分からんでもない。高身長で芸能人レベルじゃないがSNSで人気になれそうなほどには顔も良くて、頭も良くて人あたりもいい。ついでに趣味も一緒。まあなかなかいないわな。えぐいモテ方するのも分かる。僕にはよく分からんが声もいいらしいからな。なんで知ってるかって多分こいつに告白しただろうやつが僕にそう言ったからである。
「そういやお前、昨年もらったバレンタインチョコに髪の毛入ってたとか言ってたよな」
「あったねそんなことも……おっと始まるよ」
▫
「なかなか面白かったなぁ。1人の女のために複数の男達が様子をおかしくし身を滅ぼしていく……まさに現代の不均衡を表しているかのようだ……」
「あの、興味ないなら無理に感想言わなくていいから」
「ちぇ」
こいつ結構口悪いよな。鍵垢が同担や推しのグッズの転売に対する罵詈雑言で埋まっていたのを思い出す。
ポップコーンを買って次のチケットをお姉さんに見せると困惑した顔をしていた。友人がニッコリ笑うとまあいっかみたいな顔になっていた。
「またLサイズ?」
「ん。こういうのは大きければ大きいほどいい」
今度はジンジャーエールで。
入場特典もバッチリもらえた。中身は……うーん嫌いじゃないけど好きでもないキャラ。まあいいか可愛いし。
「お前の方はどんな感じ?わっ」
僕が好きなキャラじゃないか。
肩口までで切り揃えられた黒髪が特徴の華奢で低身長の女の子がこっちに向かって不敵な笑みを浮かべピースしている。こういう絵だったのか。あとで上がってるだろう画像保存しとこ。
「欲しいならあげるけど」
「や。それはお前が当てたものだ。持っとけ」
「えぇ……持っててもどうしようもないんだけど……」
ランダムというのはそういうものだ。受け入れようじゃないか。
劇場に入ると、さっきとは売って変わって男性しか座っていない。男性向けのアニメ映画は大抵女性客もちらほら入ってるイメージだったからちょっとショックだ。まあな……結構下ネタキツイからな。
「前にも言ったが下ネタ多いから覚悟しとけ」
「うん。あんまり酷かったら視覚と聴覚シャットダウンするから安心して」
「そこまでかよ」
▫
「あんな低俗なもの見て笑う連中が信じられないね。これだから男は」
「お前も男だけどな」
なんか知らんが男嫌い超拗らせてんだよなこいつ。ミサンドリーってやつ?
僕もちょっと笑ったことは言わないでおくか。
「忘れようとしてたことを……!」
わなわな震えている。難儀なやつだなほんと。
「なんで自分と友達やってるんだお前」
多分お前が一番嫌いなタイプだろ僕。
「うーん、なんだろ。シンパシー?」
「……」
「ちなみになんでさっきの作品好きなの?」
「……んー、雰囲気が楽しいから、女の子が可愛いから、あとはギャグだけど世界観が凝ってるからってとこか。あれで意外とシリアスな世界観なんだぞ?主人公がいなかったらこのキャラは死んでるって作者が明言してて、実際そんな気がするだろ?」
「確かに」
僕の話なんか聞いて何が楽しいのかと思うが、機嫌が良さそうなのでまあいいかと僕は思った。




