路銀のためにパイを焼く
「モンスター退治から、部屋の掃除まで何でもやりますよ。傭兵雇いませんか〜」
俺とリーフは路銀を稼ぐためにヒートリアの路上で道ゆく人達に声をかけていた。
リーフは自分で自作したのか木でできた立て札に、『なんでもやります。傭兵業』と書いて振っていた。
いつのまにそんな物作ったのだろうか。
しかし、人の目にはとまるが中々話しかけてくれない。
やり方が違うのか、正直今まで村の人から頼まれたり、モンスターの素材を売って生活していたため、路銀を稼ぐために自分から仕事くださいなんてお願いしたことない。
そんなことを考えていると一人の老人が近寄って来た。
髪のない頭に、白い髭を蓄えた腰の曲がった老爺
「あんた傭兵かね? なんでもやってくれるのかな」
「ええ、なにか仕事あればやりますよ」
「ではワシと一緒にアップルパイを作ってほしい」
「・・・え?」
老爺に連れられて、老爺の家へと向かった。家は普通の家であり、人の気配は全くない。
キッチンに案内されると、老爺は材料をテーブルに出し始めた。
「あの・・・なんでアップルパイ作りなんですか?」
「老人一人ではパイ作りはきつくてのぉ。安心しろ報酬はたんまりだす」
老爺に言われるがまま、パイ作りが始まった。
りんごを切ったり、パイの生地を作ったり始めてやることだったが慣れているのか横から老爺が指示を出してくれた。
何よりリーフが目を輝かせて、パイ作りに夢中になっていた。
そんな生き生きした、リーフを見ているとどこか俺も嬉しい気持ちになった。
そしてアップルパイ作りも終盤に入り、アップルパイをオーブンに入れて焼いていた。
オーブンに入った生地が膨らみ色が変わるのをウキウキでリーフは眺めていた。
俺は椅子に座ってそれを眺めていると、老爺が横に椅子を持ってきて腰掛けた。
「なんでアップルパイ作りと訊いたな?」
「はい、訊きました」
先ほど訊いた答えを持ってきたとでも言いたそうにしている老爺の問いかけに正直に答える。
「アップルパイはワシの妻の好物じゃったんじゃ」
老爺はオーブンを見ながら懐かしそうに、まるで昔話でもするかのように優しい声で話し始めた。
「妻が生きている時、ワシは妻が鬱陶しかった。あれをやれこれをやれとうるさくてのぉ。自由になりたいからとっとくたばってくれと思っていた」
オーブンの中のアップルパイが膨らみを増し、白い生地に焼き目がついてくる。
「妻がいなくなってワシは自由になったと思った。しかし・・・それと同時に寂しさを感じたのじゃ」
老爺の目からは涙が溢れていた。まるでその時のことを思い出しているように見えた。
「その時気がついた。ワシが欲しかったのは自由じゃなく、あの鬱陶しいと思っていた日常じゃつたのじゃと」
老爺は涙を指で拭くと、椅子から立ち上がった。
「さぁパイがそろそろ焼けるぞ。食べるとしよう」
老爺は笑みを見せたあと、オーブンからアップルパイを取り出した。
赤色の目を輝かせてアップルパイを見るリーフを見て老爺は笑っていた。
何となくだが老爺がアップルパイ作りを頼んだのは、もう一つ理由があると思った。
恐らく誰かと一緒に食べたかったのだろう。
同じ物を食べて、感想を言い合える。そう家族のような存在が。
アップルパイを食べた後、老爺から報酬を受け取った。
袋の中には金貨が十枚入っていた。
「いやこんなにいただけませんよ! パイ作っただけなのに」
「いいんじゃ。老人からの手土産じゃ受け取れ。金があっても使わないし、若い者の未来につながるなら本望じゃ」
老爺はそう笑顔で話し、突き返しても受け取ってくれなかった。
リーフは嬉しそうに貰った、アップルパイを食べていた。
リーフが嬉しそうしているところを始めて見た。
少しずつリーフが感情を取り戻しているような気がして、俺も嬉しかった。
あの老爺はまた誰もいない、家に戻るのだろうか。
またあの老爺は孤独を感じてこれから生きていくのだろうか。
その日は老爺が話したことが頭から離れなかった。




