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拘束奴隷と自由な傭兵  作者: 内山スク


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7/22

猪突猛進鍛治娘

 南東に向かって半日。草原を歩き、丘を越えると白い煙が見えてきた。

 石造りの建築物に、響き渡る金属を叩く音、武器や鎧を作る熱気と共に伝わってくる人々の熱意。

 ヒートリアに到着した。


「さて、リーフ。この首輪の鍵を作る鍛治師を探さなきゃな」


 首に手を当て首輪を指でマフラーの上から叩くとリーフは頷いた。

 しかし、歩いても歩いても武器屋などしかない。しかもとても暑い。

 正直巻いているマフラーを取りたい。


「もうここでいいか」


 あつすぎて歩くのも限界だったため、目の前にあった武器屋の扉を開けた。


「あぁぁぁぁぁ! インスピレーションが掻き立てられねぇぇぇぇ!」


 女性のイラついた声が店の中から聴こえてきた。

 店の中には分厚い手袋とブーツを付けた女性が長い髪を掻きむしっていた。

 自身の髪をボサボサにしている女性を見て俺はそっと扉を閉めようとすると、女性は扉の音に気がつきこちらを向いた。

 俺と女性の目があった。

 目を細めて笑みを作って見せたため、俺も笑みを作って扉を閉め――。


「待て待て! なんかようあるんでしょう!」


「いやないです! 店間違えました。別のお店行きますので」


「いやいやいや。お客さん武器お安くしますよ。なんなら魔装具まそうぐ作りましょうか?」


「いやいいです。本当勘弁してください」


「そんなこと言わずに! 話だけでも聴いてよぉ!」


 結局、涙目で女性が扉を離さず引かなかったため、諦めて店に入ることにした。

 店の中は剣や盾、鎧などが並んでいた。見ただけでも魔装具も置いてある。


「私の名前はモニカ・シャリオン。鍛治師です」


「ザインガルです。こっちはリーフです」


 リーフはぺこりとお辞儀すると、モニカは微笑んでリーフにお辞儀を返した。


「で、聴いてほしい話ってなんですか? 急いでるので早くしてくれます?」


「うむ。よく聴いてくれました。新作の魔装具のアイデアがでないのよねぇ。だからアイデア出してほしいわけ」


 初対面の素人に魔装具のアイデアを聴いてくるとか、正気じゃない。適当に答えて帰るか。


「あー水がでる剣とかいいんじゃないすか」


 昨日見たルインのアクアブレードの能力を、そのまま言っただけだが納得するだろう。

 俺から見てもあの武器は傑作だったし、パクっても世界は広いから気づかれない。


「それ私作ったし、なしね。アクアブレードってやつ」


 まさかの制作者だった。


「え? アクアブレードを作ったのか? あなたが?」


「そうよ。あなた知ってるのアクアブレード?」


「友人がこの前使ってました」


「あーそうなの。あれ調整失敗した失敗作なのよね」


 硬龍ガンドランドの鱗をも砕ける、アクアブレードが失敗作? あの魔装具は強力な能力を持っていると思っていたが、ひょっとして重大な欠陥があるのか。

 ならルインが危ない。


「あれ使い過ぎても局所的にしか雨降らないのよね。もっとゲリラ豪雨ごううが降るぐらい調整したかった・・・」


 クソくだらない調整だった。こいつ本当にあのアクアブレードを作った鍛治師なのだろうか。


「あんたら武器持ってるでしょ? ちょっと見せなさいよ」


 モニカに言われて、俺は腰つけた剣を机の上に置いた。リーフも懐からナイフを取り出すと、剣の隣に乗せた。

 モニカはリーフのナイフと俺の剣を鞘から抜き、刀身を見始めた。その目は先ほど話していた人物とは別人のように、真剣な目つきだった。


「あんた、これひどいぐらい刃こぼれしてるわよ」


「え? ああガンドランドとの戦いの時か」


 ガンドランドの鱗を砕いたり、爪を剣一本で受け止めたりしたからか。心当たりしかない。


「こっちのナイフは手入れが行き届いているわね」


 モニカはナイフをうっとりした目で見ていると、リーフは何故か照れ臭そうにしていた。

 すると何か思いついたようにモニカは目を丸くして、俺の剣を持って奥の部屋の扉を開けた。


「インスピレーションが湧いてきたわ! あなたたち少し待ってなさい!」


「いや別のお願いがあるんですけど」


 俺の言葉はモニカの耳には届かず、そのまま奥の部屋に入っていってしまった。

 剣を持っていかれて呆然としている横で、リーフは取り出したナイフをしまい始めた。



 それから一時間経った。店の中の商品を見て時間を潰していると、急に奥の扉が開いた。


「できたわ!」


 モニカが目を輝かせて出てきた。手には鞘に収められた俺の剣を持っていた。


「はいこれ」


 モニカに剣を手渡され、剣を抜いて刀身を見てみると自分の顔が映るくらい、ピカピカに輝いていた。

 刃こぼれもなく、新品のようだった。

 だがそれ以外特に変化はない。


「俺の剣、魔装具とかに改造した?」


「は? そんなことしないわよ」


 モニカは何を言っているかわからないという顔をしていた。じゃあさっき話したインスピレーションが湧いてきたというのはなんだったのか。


「え・・・じゃあさっきのインスピレーション湧いたってのは?」


「ああこれのこと。あなたの顔見てたらインスピレーション湧いてきたのよね」


 モニカは手に持って物を俺の手に乗せてきた。

 それは籠手こてだった。右手しかないが手の甲の部分に鏡のような物がついていた。


「ミラージュ鉱石とリフレクショントータスで作った魔装具。その名も鏡戦士きょうせんし籠手こて! お礼にあんたにあげるわ」


「ありがとう・・・これどうやって使うの?」


「腕につけるのよ。その鏡の部分で飛び道具とか受ければ跳ね返せるわ。アクアブレードとか見たいな遠距離攻撃もね」


 頼んでもいないのに、サラッととんでもない物を作り出してきた。

 この人ならもしかしたら首輪の鍵を作れるかもしれない。


「お願いがあるのですがよろしいでしょうか」


「なに? 今の私は創作できて気分がいいわなんでも言いなさい」


 俺はマフラーを取って首輪を見せ、リーフのマフラーも外し、お互いについた首輪を見せた。


「この魔装具をはずす鍵を作ってほしいんだ」


「ふ〜んどれどれ」


 モニカは特に驚く様子もなく、俺とリーフの首輪をマジマジと見始めた。

 首輪を触りったり、指で叩いたりした後顎に手を当て考え始めた。


「材料は何?」


「硬龍ガンドランドと束縛の蛇姫へびひめラミアメイル」


「・・・うん、鍵は作れるわね。材料があれば」


「硬龍ガンドランドの材料はある」


 俺はポケットからガンドランドの鱗を置くとモニカは目の色を変えて、かぶりつくようにガンドランドの鱗を見始めた。


「嘘!? ガンドランドの鱗じゃない! マジ!? レアモノじゃないのよこれ!」


 鼻息を荒くしながら、ガンドランドの鱗をマジマジと見ると我に返ったのか机から離れ、コホンと咳払いした。


「じゃあ後はラミアメイルだけね。それがあれば作れるわ」


「本当か!? じゃあすぐに――」


「その前に条件があるわ」


 モニカは手を突き出し、俺の言葉を遮った。


「鍵を作るのはラミアメイルの髪が必要なの、それとは別にラミアメイルの心臓を取ってきてくれないかしら」


「そんなことならお安い御用さ」


「交渉成立ね」


 モニカと固く握手を交わした。傭兵やっていてモンスターの素材を取ってくるなんて依頼はよくあることだ。

 俺はふとあることを思いついた。首輪が取れないならせめてリーフの手枷なら取れるのではないだろうか。

 リーフの服の腕をまくり、モニカに見せてみた。


「首輪を外せないならこれなら外せるかな」


 モニカは手枷を見て、少し目を細めた。


「あなた達少し訳ありのようね」


「この子は元奴隷なんだ。この手枷だけでも取れないか?」


「ザインガル様これは・・・」


「これから生きていくなら手枷は邪魔だろ? もうお前は奴隷じゃないんだ」


「・・・・・・はい」


 何故かリーフは寂しそうな顔をしていた。いやどこか不満そうな、名残惜しそうな表情だった。


「まぁ外してみるから、あなた奥の工房に来なさい」


「わかりました」


 リーフはモニカに連れられて、奥の部屋へと入っていった。

 それから十分じゅつぷんで戻ってきた。モニカの手には外れた手枷を持っていた。

 リーフは自分の手首を触りながら、手枷がない皮膚を確かめていた。


「工房にあった材料で手枷は外せたわ」


「ありがとうモニカ。よかったなリーフ」


「・・・はい」


 リーフに呼びかけると、何故かリーフは浮かない顔をしていた。


「それより手枷代はいただくから」


「いくら?」


「金貨三枚、それか銀貨三十枚ね」


「え?まじで」


 モニカが提示した金額は払える。払えるが路銀がほぼ尽きる。

 俺は金貨を三枚取り出すと震える手でモニカに渡した。

 モニカは手の中の金貨を確認すると、笑みをこちらに向けた。


「まいど〜」


「じゃあ、ラミアメイル討伐してきたら頼むぞ」


「オーケー約束は守るから安心しなさい」


 モニカの言葉を聴くと店の扉を開けて、外に出た。


「魔装具が手に入ったり、手枷が外れたりしてよかったけど、路銀が足りないな。稼がないとなリーフ」


「はい。ザインガル様のおっしゃる通りでございます」


 リーフの顔を見た時一瞬、リーフの目の色が赤色ではなく、青色に変わっているように見えた。

 しかし再び目を見ると、赤い瞳をしていた。

 見間違いかと思い、そのことをリーフに確認することはなかった。

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