その決意は剣よりも固く
剣と剣がぶつかり合い、激しい重低音が響き渡る。
ぶつかり合う剣同士は火花を散らす。
少しでも剣を振るう速度を落とせば、斬られると受け止めた剣の重みを通して伝わってくる。
目の前にいる俺の親父、アルス・スルクイラは俺を斬るためだけに剣を振るっている。
親父が持つ剣ガロンダイトを俺は正面から受け止めず、受け流すように剣を捌く。
「どうした? 正面から打ち合わないのか? また逃げてばかりか?」
「正面から打ち合っても剣が折れるだけだろ。そんな口車に乗るかクソ親父!」
「剣筋に性格や想いが出るというが・・・お前の剣筋は逃げるばかりで正面から打ち合おうとしない逃げの剣だ。昔から変わらないな」
確かに逃げてばかりかもしれない。
だが俺が知る中でもっもと固い剣であるガロンダイトと正面から打ち合えば、俺の剣は粉々に砕け散ってしまうだろう。
だからといって、このまま剣を受け流すだけでは防戦一方であり、攻めきれない。
そんな悠長なことをしていれば、親父の思う壺だ。
だが、もし正面から剣を打ち合って武器を失ったら――。
「ザインガル様!」
後ろから聴こえてきたリーフの声に我に返った。
そうだった、後ろにはもう下がらないと決めたばかりだったじゃないか。
リーフの声に感化されるように、剣を大きく振るう。
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
剣を大きく振るい親父目掛けて振るうが、その剣はガロンダイトに受け止められた。
だがこれでいい。
正面から受け止めて折られるなら、攻め続けるしかない。
「やっといい顔になったな。バカ息子」
「攻守逆転だぜ・・・クソ親父」
剣を再び振い、振り下ろす。
何度も、何度も、何度も――。
親父にガロンダイト振るわせないように、反撃を許さない猛撃。
それを受けても親父は表情を崩さず、剣で受け止める。
「逃げから攻めに転じるとはな。やっと覚悟が決まったか?」
「戦いの最中に話してる暇なんてないぞ親父」
「フフッつれないな、息子よ。それともルインもこういうふうに殺したのか?」
親父の言葉に剣が一瞬止まった。
その隙を親父を見逃さなかった。
ガロンダイトの一閃が俺の身体を斬り裂いた。
「くっ!!」
身体がよろめき、一歩後ろへと足が退がる。
胸から腹部にかけて斜めの線が走り、そこから赤い鮮血が飛び出した。
傷を手で押さえると、手に生温かさと手にまとわりつくような嫌な感触が残る。
傷口に残る熱さと焼けるように痛みが走る。
「ザインガル様! もうおやめください」
俺の身体に抱きつくようにリーフが俺の視界に写った。
「もうやめてください。私はザインガル様を失ってまで生きたくはありません」
「・・・リーフ」
「だそうだが、息子よ。この少女を渡せば命は助けるがどうする?」
親父は決着がついたと言わんばかりに、剣を払い刀身についた血を落とした。
リーフが俺から離れようと立ち上がった。
「まだ・・・まだ終わってないぞ」
力が抜けそうな脚で立ち上がると、俺は親父を睨みつけた。
ふらふらな脚は今にも力が抜けて倒れそうだし、眩暈もする。
傷口から出てくる血が熱い。
だがそんなことはどうでもいい。
ここで負けるくらいなら、ここで立ち上がれなければ、一生後悔するだろう。
その意思だけで何とか自分を鼓舞し立ち上がる。
「ザインガル様。無理をしては」
「リーフ・・・大丈夫だ。俺はもう逃げたくない、見ていてくれ」
「・・・ザインガル様」
ふらふらな脚を確実に動かすように、神経を集中させ一歩一歩歩き出す。
そして親父に剣が届く間合いに入った。
親父はガロンダイトを持ったまま、振おうとはしなかった。
「貴様の覚悟見せてもらった。騎士としての敬意を表して、貴様を一撃で沈めよう」
「散々言葉で揺さぶっといて、騎士としての敬意だぁ? 言っろよクソ親父」
親父はガロンダイトを構える。
俺も剣を振るう腕に残された力を込める。
二つの剣が正面から打ちつけるように振るわれた。
ガキィンという何かが壊れるような音が響き渡った。
折れた銀色の刀身の破片が宙を舞った。
俺が振るった剣が折れた。
親父のガロンダイトには傷一つついていない。
ここで終わりか。
いやまだ、まだ終わっていないだろ。
俺の決意はこんな簡単に折れるような諦めのいいものではないだろう。
「まだだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺は折れた刀身を振い、親父を斬りつけた。
折れた刀身は親父の顔に傷をつけた。
親父の表情が驚きに変わると同時に血が吹き出した。
ガロンダイトが地面に転がると親父は地面に背をついた。
「アルス卿!」
周りにいた騎士達が親父に駆け寄った。
そして俺とリーフを睨みつけ、剣を抜こうとした時。
「やめろ!!」
親父の声で騎士達は動きを止めた。
「私の負けだ、息子よ。約束だ・・・その娘から手を引こう」
「アルス卿、しかし!」
「いいのだエブサレム。騎士の誓いに偽りがあってはならない」
その言葉を聴いてエブサレムと、他の騎士達は沈黙した。
親父は仰向けになったまま、腰につけた鞘を俺に差し出した。
「餞別だ。この剣はお前が持っていけ」
親父が差し出したガロンダイトの鞘を受け取ると、地面に転がっていたガロンダイトを持ち上げ、鞘に納めた。
「・・・親父。いえ父上、ありがたく頂戴します」
「・・・お前の決意がその剣よりも固いことを祈る」
ふらふらな足取りで、歩くとリーフが俺の腕を肩に回してくれた。
「・・・リーフ」
「ザインガル様、早くお医者様に傷を見せましょう」
「あぁ・・・そうだな」
リーフに支えられながらも、何とか城から城下町に戻り治療を受けた。
心の奥にあった何かが取れたような気した。
久しぶりに心の底から満足できた戦いだったと思いながらも、ベッドの上で眠るのだった。




