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拘束奴隷と自由な傭兵  作者: 内山スク


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22/22

犬も喰わない親子喧嘩

 ここに帰ってくるのはいつぶりだろう。

 グランド王国の中心ちゅうしんにそびえたつ城を見ながらなつかしさにひたっていた。

 いけないここに来たのはなつかしさにひたるためではない。

 そのことを確かめるように腰に下げた剣を握る。


「こっちだ、リーフ」


 リーフを案内しながら城下町じょうかまち路地ろじに来た。

 そこはなんの変哲へんてつもない、ただの路地裏ろじうらだ。店の木箱きばこに、下水道に繋がる排水溝はいすいこうの扉、路地ろじに生息するネズミや蜘蛛くもが足元を走っている。

 俺は建物の裏にあるレンガ造りの壁の前に立った。

 ふるびたレンガで造られた壁に手を当て、レンガの一つを抜き取る。

 すると壁が音を立ててくずれ落ちた。


「ザインガル様・・・これは?」


「王国の隠し通路だ。王国でもくらいの高い者か、騎士団長きしだんちょうしか知らない」


 崩れた壁の奥には下に続く階段があり、道なりに進んでいく。

 ずいぶん使われていなかったせいか、蜘蛛の巣が張っていたり、ほこりだらけだ。


「何故ザインガル様はこの場所を知っておられるのですか?」


「俺は親父に教えられたんだ。小さい頃によくここ通って城下町に出たもんだよ」


「ザインガル様は騎士に戻らないのですか?」


 リーフの言葉が心に突き刺さったように感じた。その言葉はかつてルインにも言われた言葉だったからだ。

 しかし、今はもうその質問に対しての言葉は決まっている。


「・・・戻らない。リーフ、お前と一緒にいたいから」


「・・・ザインガル様」


 そうだここに来たのは騎士に戻りたくて来たわけでも、助けを求めに来たわけでもない。

 決別けつべつに来たのだ。あの親父と。

 通路の目の前にハシゴがかかった壁が見えてきた。

 ハシゴを登り、天井を押すとそこには花や木々などの緑一色みどりいっしょく庭園ていえんが広がっていた。

 グランド王国の中庭なかにわの庭園だ。ここの植え込みをどかすと隠し通路が出てくる仕組みになっている。

 俺とリーフは中庭に出ると辺りを見渡した。

 辺りには人影一つ見えやしない。


「・・・見張りがいない。妙だな」


 疑問に思ったのも束の間だった。突如キーンという音が耳に響き渡った。

 すると辺りの景色が変化し、暗闇くらやみに包まれた。

 突然光が失われ、暗闇の部屋に閉じ込められたような感覚に襲われる。


「なるほど・・・来ることはわかってたわけか」


 暗闇の中から、銀色の鎧を着た騎士達が出てくるといつのまにか周りをかこまれていた。


「やるなエブサレム。来るのはわかっていたのか?」


 俺の言葉を聴いて囲んでいた騎士達が、隊列たいれつを組み直し、奥から赤い刀身とうしんの剣をもった男が歩いてきた。


「ザインガルさん・・・残念ですよ。まさか王国を裏切るとは」


「裏切ってない。自分の意思に従ったまでだ」


 後ろでリーフがふところからナイフを取り出し、動き出そうと足を前に出した時。

 風を切る音ともに、地面に矢が突き刺さった。


「ご丁寧ていねいにカレンを後ろにひかえさせてるとはな」


 どこからかはわからないが、カレンがこちらを狙っている。

 地面に突き刺さった矢は、逃げれば射抜いぬくという警告けいこくだろう。

 ここまで読まれていて包囲ほういされているのに、襲ってこないということは何か目的があるということ。

 そしてここまで俺の行動を読んだうえで、完璧かんぺき配置はいちを考えられるのは知っている限り一人しかいない。


「で? そろそろ出てきたらどうだ親父!」


 騎士の隊列たいれつの中から、鎧がきしむ音をひびかせながらゆっくりとこちらに歩いてくる男いた。

 銀色の鎧に身を包み、威厳いげんを示すように顎鬚あごひげたくわえていた。

 目は実の息子に向ける視線ではなく、完全に敵に向けるような威圧いあつを放っていた。


ひさしいなバカ息子。何しに来た? その娘をわざわざ届けに来たのか?」


「そんなわけないだろ、クソ親父。決別に来たんだよ、そのついでにリーフを追いかけるのをやめさせに来たのさ」


「どこまでもおろかだなお前は・・・お前のかつての愛刀あいとうも悲しでおるわ」


 親父は腰に下げた剣を抜いた。その剣の刀身は骨のように白く、雪に光が反射したように光沢こうたくを放っていた。

 その剣は見覚えがある。俺が王国にいた頃に使っていた魔装具まそうぐ


「ガロンダイト・・・」


 ガロンダイト。この世のどんな物質よりも硬い素材で造られた剣。真っ向から打ち合えば剣は簡単にくだけてしまう。


「どうした? バカ息子。決意がにぶったか?」


 親父の言葉を聴いて、俺は腰に下がったただの剣を抜いた。


「そんなわけないだろ。俺が勝ったらリーフにもう関わらないとちかえ!」


「いいだろう。グランド王国騎士団長アルスの名にちかおう。まぁお前が私に勝てればだがな」


 剣を抜いたからには後ろには下がらない。

 後ろにいるリーフのためにも、そして自身から逃げ続けていた弱い自分に戻らないためにも。

 そして俺のために命を差し出した戦友せんゆうルインのためにも、負けられない戦いがここに始まる。

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