消えない傷
朝になると飛び出すように宿から出て行った。ルインよりも早くリーフを探し出すために。
リーフの所在はわからないが、ひたすら探すしかない。
旅をしてきた道順を辿っていけばまた会えるだろうか。それともキルーラの関連した場所にいるのだろうか。
わからないが、がむしゃらに探すしかない。
どこに行くのかも決められないまま、道を走る。
自由を手にしたはずなのに、自由に生きろとリーフに言ったのに。
急ぐように道を駆け抜けていると、目の前に誰かが立っていた。
青い刀身の剣を手にもった金髪の男。背中を預けた戦友であり、共に笑い合った仲間が今目の前に立っている。
気さくな話をするためでも、共に戦うためでもない。剣を交え俺と戦うために俺の前に立ち塞がる。
「まだリーフは見つけてないぞ・・・」
「遅かれ早かれ戦うことになる。それに王国に逆らうならここで消すまでだ」
ルインの目は敵と相対するような、殺意に満ちた冷たい目を俺に向けていた。
俺は腰に下げた剣を抜き、構える。
友と剣を交えることになる。昨日自分で決めたことなのに、心はまだ受け入れられていない。
いつもよりも握る剣が重く感じる。
「どうした? かかってこないのか。こないのならこちらからいくぞ」
そんな心を見透かしてからか、ルインは青い刀身を振い、俺に斬りかかる。
ルインのアクアブレードを受け止める俺の剣が震えているように感じた。
いや違う震えているのは剣ではない、俺の手だ。
震える手の振動が剣を伝わっている。
次に会った時は敵同士になるとわかっていたはずなのに、俺の心はまだ受け入れられていない。
「ザインガル、お前の覚悟はそんなものなのか? そんな覚悟ではお前の望むものは何も手に入らないぞ!」
ルインはアクアブレードから水圧の斬撃を放った。
水圧の斬撃は俺の身体を後方へと吹き飛ばした。
斬撃を剣で受け止め打ち返すが、目の前のルインはアクアブレードの剣先をこちらに向けていた。
「お前の求める自由とはこんなことなのか? 国を敵にまわして死ぬことがお前の求めることなのか?」
アクアブレードの剣先から圧縮された水の線が、飛んできた。
水の線は岩や木を切断し俺に迫ってくる。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
水の線を打ち払うように剣を振るい、水の線を払いのける。
俺はルインとの距離を詰めるとひたすら剣を振いルインに叩きつける。
遠距離では俺に勝ち目はない。
接近して攻撃をし続ける。アクアブレードを使わせないようにするしかない。
その時ふと気がついた、剣を受け止めるルインの表情が辛そうに見えることに。
その気の緩みをルインは見逃さなかった。
「ぐっ!?」
俺の腹に突然衝撃が襲った。ルインが足で俺を蹴り飛ばしたのだ。
吹き飛ばされ、体勢を崩した俺にルインはアクアブレードの剣先を再び向けた。
ルインは辛そうな表情を隠すように、冷たい目を俺に向けた。
「終わりだザインガル。もっとも信頼する友よ」
アクアブレードの剣先から圧縮された水の線が放たれた。
水の線は俺を目掛けて一直線に迫ってくる。
剣で打ち払うにも、剣を振るう時間と間合いがない。
ここまでかと思ったその時だった。
本能とでもいうのだろうか、それとも何度も窮地をすくった動きを身体が覚えていたのか自然と右手が前へと伸びた。
鏡戦士の籠手に水の線は命中し、水の線を跳ね返した。
跳ね返された、水の線はルイン目掛けて一直線に飛んでいき、ルインの右胸を貫いた。
「ぐふっ!!」
水の線がルインの身体を貫通するとルインはその場に倒れ伏した。
「ルイン!!」
俺は急いで駆け寄り、ルインの傷口を手で抑えるがルインの血が指の間から溢れ出てくる。
「・・・いいんだザインガル。肺を貫通している・・・血を止めたところで助からない」
ルインは口から血を吐きながら、俺に話しかける。
ルインの表情は先ほどの辛そな表情でもなく、冷たい目を俺に向けるわけでもない。
穏やかな、満足した表情で俺を見ていた。
「ルイン俺は・・・俺はお前を殺す気はなかった。なれなかった! だからこんなことに・・・」
「それは違う・・・始めからこうするつもりだった」
「え?」
「始めから俺は死ぬつもりでここに来た・・・俺がここで死ねばお前もキルーラの娘も追うものは・・・いない」
ルインの手が体温を失うように冷たくなっていく。
ルインの皮膚も少しずつ白くなり始め、小さな火が消えていくように声が小さくなっていく。
俺の心を表したかのように雨が降り始めた。
「流れに身を任せた者の末路がこれか・・・ザインガル・・・自由に生きろ。俺が望むのはそれだけだ・・・」
「ああ・・・」
力が抜け冷たくなったルインの手を力強く握りしめ、自分の体温を、想いを伝えるように力を込める。
「フフッ・・・最後までお前に一太刀も当てられなかったな・・・」
そう言い残すとルインは糸が切れたように動かなくなった。
雨に濡れたルインの身体は暖かさを忘れたように冷たい。
自分の頬に流れる水が涙なのか、雨なのかもわからない。
だがルインが放った一太刀は確かに俺に届いていた。
「いいや届いたよお前の一太刀・・・ここに消えない傷となってな」
自身の胸に手を当て、ルインから受けた傷を確認する。
誰にも見ることのできないが深々と刻まれたその消えない傷は確かに胸の中にある。
友から受けた消えない傷を、想いを、感じながら雨に打たれることしかできなかった。




