表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拘束奴隷と自由な傭兵  作者: 内山スク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/22

消えない傷

 朝になると飛び出すように宿から出て行った。ルインよりも早くリーフを探し出すために。

 リーフの所在しょざいはわからないが、ひたすら探すしかない。

 旅をしてきた道順みちじゅん辿たどっていけばまた会えるだろうか。それともキルーラの関連かんれんした場所にいるのだろうか。

 わからないが、がむしゃらに探すしかない。

 どこに行くのかも決められないまま、道を走る。

 自由を手にしたはずなのに、自由に生きろとリーフに言ったのに。

 急ぐように道をけ抜けていると、目の前に誰かが立っていた。

 青い刀身とうしんの剣を手にもった金髪の男。背中を預けた戦友せんゆうであり、共に笑い合った仲間が今目の前に立っている。

 気さくな話をするためでも、共に戦うためでもない。剣をまじえ俺と戦うために俺の前に立ち塞がる。


「まだリーフは見つけてないぞ・・・」


「遅かれ早かれ戦うことになる。それに王国にさからうならここで消すまでだ」


 ルインの目は敵と相対そうたいするような、殺意に満ちた冷たい目を俺に向けていた。

 俺は腰に下げた剣を抜き、かまえる。

 友と剣を交えることになる。昨日自分で決めたことなのに、心はまだ受け入れられていない。

 いつもよりも握る剣が重く感じる。


「どうした? かかってこないのか。こないのならこちらからいくぞ」


 そんな心を見透みすかしてからか、ルインは青い刀身を振い、俺に斬りかかる。

 ルインのアクアブレードを受け止める俺の剣が震えているように感じた。

 いや違う震えているのは剣ではない、俺の手だ。

 震える手の振動しんどうが剣を伝わっている。

 次に会った時は敵同士になるとわかっていたはずなのに、俺の心はまだ受け入れられていない。


「ザインガル、お前の覚悟はそんなものなのか? そんな覚悟ではお前の望むものは何も手に入らないぞ!」


 ルインはアクアブレードから水圧すいあつの斬撃を放った。

 水圧の斬撃は俺の身体を後方へと吹き飛ばした。

 斬撃を剣で受け止め打ち返すが、目の前のルインはアクアブレードの剣先をこちらに向けていた。


「お前の求める自由とはこんなことなのか? 国を敵にまわして死ぬことがお前の求めることなのか?」


 アクアブレードの剣先から圧縮された水のせんが、飛んできた。

 水の線は岩や木を切断し俺に迫ってくる。


「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」


 水の線を打ち払うように剣を振るい、水の線をはらいのける。

 俺はルインとの距離をめるとひたすら剣を振いルインに叩きつける。

 遠距離では俺に勝ち目はない。

 接近して攻撃をし続ける。アクアブレードを使わせないようにするしかない。

 その時ふと気がついた、剣を受け止めるルインの表情がつらそうに見えることに。

 その気のゆるみをルインは見逃さなかった。


「ぐっ!?」


 俺の腹に突然衝撃とつぜんしょうげきおそった。ルインが足で俺を蹴り飛ばしたのだ。

 吹き飛ばされ、体勢を崩した俺にルインはアクアブレードの剣先を再び向けた。

 ルインは辛そうな表情を隠すように、冷たい目を俺に向けた。


「終わりだザインガル。もっとも信頼する友よ」


 アクアブレードの剣先から圧縮された水の線が放たれた。

 水の線は俺を目掛けて一直線いっちょくせんに迫ってくる。

 剣で打ち払うにも、剣を振るう時間と間合まあいがない。

 ここまでかと思ったその時だった。

 本能ほんのうとでもいうのだろうか、それとも何度も窮地きゅうちをすくった動きを身体が覚えていたのか自然と右手が前へと伸びた。

 鏡戦士きょうせんし籠手こてに水の線は命中し、水の線をかえした。

 跳ね返された、水の線はルイン目掛けて一直線に飛んでいき、ルインの右胸みぎむねを貫いた。


「ぐふっ!!」


 水の線がルインの身体を貫通するとルインはその場にたおした。


「ルイン!!」


 俺は急いで駆け寄り、ルインの傷口を手でおさえるがルインの血がゆびあいだからあふれ出てくる。


「・・・いいんだザインガル。肺を貫通している・・・血を止めたところで助からない」


 ルインは口から血を吐きながら、俺に話しかける。

 ルインの表情は先ほどの辛そな表情でもなく、冷たい目を俺に向けるわけでもない。

 穏やかな、満足した表情で俺を見ていた。


「ルイン俺は・・・俺はお前を殺す気はなかった。なれなかった! だからこんなことに・・・」


「それは違う・・・始めからこうするつもりだった」


「え?」


「始めから俺は死ぬつもりでここに来た・・・俺がここで死ねばお前もキルーラの娘も追うものは・・・いない」


 ルインの手が体温を失うように冷たくなっていく。

 ルインの皮膚も少しずつ白くなり始め、小さな火が消えていくように声が小さくなっていく。

 俺の心を表したかのように雨が降り始めた。


「流れに身を任せた者の末路がこれか・・・ザインガル・・・自由に生きろ。俺が望むのはそれだけだ・・・」


「ああ・・・」


 力が抜け冷たくなったルインの手を力強く握りしめ、自分の体温を、想いを伝えるように力を込める。


「フフッ・・・最後までお前に一太刀ひとたちも当てられなかったな・・・」


 そう言い残すとルインは糸が切れたように動かなくなった。

 雨に濡れたルインの身体は暖かさを忘れたように冷たい。

 自分の頬に流れる水が涙なのか、雨なのかもわからない。

 だがルインが放った一太刀ひとたちは確かに俺に届いていた。


「いいや届いたよお前の一太刀ひとたち・・・ここに消えない傷となってな」


 自身の胸に手を当て、ルインから受けた傷を確認する。

 誰にも見ることのできないが深々と刻まれたその消えない傷は確かに胸の中にある。

 友から受けた消えない傷を、想いを、感じながら雨に打たれることしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ