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拘束奴隷と自由な傭兵  作者: 内山スク


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18/22

自由を得た代わりに残ったもの

 教会を出発しリエルと別れて、一ヶ月が過ぎただろうか。

 途中魔物と戦ったり、盗賊と戦ったりして路銀ろぎんを稼ぎながらもやっとここまで辿り着いた。

 いや戻ってきたと言った方が正しいか。


「やっと戻ってきたぜ。ヒートリア」


 石造りの建築物と、金属を叩く音が響き渡るこの街がなつかしく感じる。

 首につけられた固い首輪に手を当てる。

 やっとこの首輪から解放される。

 思えば長く、とても生活しづらい日々だった。


「リーフ早くモニカのところにいこう」


 首輪を外せる喜びが抑えられず、ほほゆるみ顔が自然と笑顔になる。

 そんな表情でリーフを見ると、リーフは何故か浮かない顔をしていた。


「・・・はい」


 リーフは浮かない表情で静かに返事を返すと、スタスタと歩き始めた。

 何かを不満に思っているように見えたがそれがなんなのかはわからなかった。

 モニカの鍛治屋を目指して街を歩き、店の前に到着した。

 そして店のドアを開くと真夏のような熱気が外に流れ込んできた。


「なんだ! この武器は!」


 店の中から男の怒声どせい聞こえ、声が外に飛び出していった。

 中を覗くと、モニカがめんどくさそうな顔をしながら机に頬杖ほおづえをついて座っている。

 その横では怒った表情をした眼鏡をかけた男がモニカを睨んでいた。

 机の上には、銀色の弓が置いてあった。

 眼鏡をかけた男は机をバシバシと叩きながら、モニカに怒声を飛ばす。


「なんなんだこの武器は!」


「何って弓ですけど?」


 モニカが面倒そうに返事を返すと、眼鏡をかけた男はヒートアップしたように声をあらげる。


「違う! 俺が言っているのはこの武器の性能だ! なんなんだこのふざけたような武器はどうやってこんな武器作るんだ!」


「どうやって? 魔装具まそうぐなんだから魔物の素材加工すればちょちょいって作れるじゃない。それにこれそんなたいした物じゃないし」


「血の匂いを辿り、追尾する矢を放つ弓が大したことないわけないだろう! 俺が作った牙弓ボーファングよりもすごいの作りやがって!」


魔装具まそうぐなんて誰でも作れるって」


「魔装具作れてもこんなイカれた性能にできるのはお前しかいないわ! お前のこんな物作れても当たり前でしょみたいな顔ムカつくわ」


「えーでもこれまだ味覚機能とかつけてないし〜」


「味覚機能とか何に使うんだよ!」


「いや〜本当はもっとグルメな弓を作りたかったんだけど調整失敗しちゃって」


「失敗しちゃって・・・本当にお前は腹が立つな!」


「あの〜お取り込み中すいません」


 二人が話しているところ申し訳なさそうに手を挙げて部屋に入ると、二人の注意が俺たちに向いた。


「あぁ、久しぶりだね。素材とってきた?」


「取ってきたけど・・・そちらの方は?」


 目線を眼鏡をかけた男に向けると、眼鏡の男は眼鏡をクイっとあげた。


「ジャック・ハンドレー。ヒートリアの鍛治師だ」


 ジャック・ハンドレーって確か、カレンが使っていた武器の製作者だったような。

 そんな人がモニカと何を話していたのだろうか。


「なんで言い争ってたんですか?」


「こいつが鍛治師としての自覚が足りないから説教してたのだ。こいつとんでもない武器ばかり作る癖に毎回失敗作とか言いやがるからな。この弓だって売り物にならないから、破棄するというんだ!」


「え〜だって味覚機能ついてないと、美味しい血なのかわからないじゃん」


「そんなの弓につけても仕方ないだろ! とゆうか味覚機能つけたところで弓が伝える手段ないだろ」


 おっしゃる通りだ。というかまた変な武器作ってたのかこの人。


「じゃあいいよ。ジャックにこの武器あげるから店に置きなよ」


「他の鍛治師が作った武器なんて店に置けるか!」


「それより、ラミアメイルの素材ちょうだいよ。鍵も作るからさ」


 モニカの興味は完全にこちらに移った。怒った様子のジャックをほっといてこちらに近づいてきた。

 俺は布で包んだラミアメイルの髪と心臓を渡すと、モニカは目を輝かせた。


「おぉぉぉ! これがラミアメイルの素材。感激ぃ」


 ラミアメイル心臓と髪を胸に押し当て、まるで我が子のように抱き抱えモニカは目をうるうるさせて感動していた。

 そしてモニカは素材を抱いたまま、奥のドアを開けると工房に入っていくと、しばらくしてカンカンと鉄を叩く音が聞こえてきた。

 鍵を作るために作業に入ったのだろう。変なインスピレーション受けて、違う物を作らなければいいが。

 奥のドアを眺めていると、ジャックがいつのまにか隣に立っていた。


「モニカの作った道具は使いやすいか?」


 ジャックの言葉は先ほどまでのイラついたような怒声ではなく、落ち着いた声だった。

 まるで、いままで作っていたキャラを崩したような、本心から訊いているように思えた。


「・・・正直使いにくいこともありますけど、何度も命を救われました」


 右手につけた鏡戦士きょうせんし籠手こてを眺めながら答えるとジャックは優しい眼差しを向けた。


「・・・そうか」


 そう言うとジャックは店の出口に向かうとドアを開けた。


「ここにいては邪魔だからな。俺は帰るとするよ」


「ジャックさん。待ってください」


「なんだ?」


「ここに来る間にあなたの使っている武器を見ました。モニカが作った魔装具まそうぐに負けない素晴らしい魔装具まそうぐだと思いした」


「よしてくれ。俺に魔装具まそうぐは作れない」


「え?」


「君が見た武器は俺がモニカに近づきたくて、考えたすえに生み出した武器だ。全く才能のある奴には、敵わないと打ち負かされるよ」


 ジャックはそう言いながらも少し笑みを見せるとドアを閉め、店から出ていった。

 ジャックが最後に見せた笑みは悔しさや諦めというよりも、憧れに近づいていることへの嬉しさを感じる笑みに見えた。

 ジャックが出ていってから数分すると奥の工房にへと繋がるドアが勢いよく開いた。


「できたわ!」


 やり切ったような笑みを見せるモニカの手には黒色の鍵が握られていた。

 余計な物を作っていなかったことを安堵あんどしていると、モニカは店の中をキョロキョロと見渡していた。


「あれ? ジャックは?」


「帰ったよ」


「何よ。あいつお茶ぐらい飲んで行きなさいよ」


 モニカは怒ったような表情を見せるが、本気で怒っているようには見えなかった。

 もっと話したかったと顔が言っているように見える。

 モニカから鍵を受け取ると、リーフの首輪に鍵を当てた。

 この首輪に鍵穴がないため、どう外すのかわからずとりあえず当ててみると首輪はカチッと音を立てた。

 そして首輪はリーフの首から離れると床に落ちた。


「外れた!」


 リーフは首を触り、首輪が付いていない自分の皮膚の感触を確かめる。

 俺も首輪に鍵を当てると首輪は、重力に身を任せるように床に落ちた。


「やった! 外れた。ありがとうなモニカ」


「よかったわね。まぁ私も素材が手に入ったからいいけど」


「そういえばラミアメイルの心臓で何作るんだ?」


「相手を痺れさせる指輪よ。指輪からビームが出て、当たると相手を痺れさせるの! いる?」


「いやいらない」


 もうラミアメイルの束縛の呪いを受けるようなことはこりごりだ。

 モニカに別れを告げて店の外から出ると、首につけていた赤いマフラーを取った。

 もうこれも必要ない。

 誰にも縛られず、自由に旅ができる。

 鬱陶うっとうしい首輪に縛られることもなく。

 だけどそれはリーフとの別れを意味している。

 そのことはわかっているつもりだったが、いざとなると心に寂しさを感じる。

 リーフを見ると、リーフは俺の顔を見つめてた。


「ごめんな、リーフ。お前のやりたいこと見つけられなくて・・・だけどお前も自由だ。もう何にも縛られず生きられる」


 リーフは何か言おうとしたが言葉を飲み込んだ。顔を下に向けた後、俺の顔を真っ直ぐに見つめた。

 まるで脳裏に焼き付けるようにジッと見つめると、リーフは微笑んだ。


「大丈夫です・・・もうやりたいことは見つけました」


「・・・そうか」


 本当は一緒にいたい。

 もっとリーフと旅をしたい。

 そんな言葉を心の奥に押し込む。そんな資格は俺にはないと自分に言い聞かせる。

 奴隷だった少女が自由を得たのだ。

 彼女の人生をこれ以上縛る真似はしたくない。


「じゃあなリーフ・・・今までの旅はとても楽しかったよ」


「私もです」


 ハッキリとした声で自信満々に答えるリーフは出会った頃の暗い少女とは思えないほど、明るい表情をしていた。


「じゃあなリーフ。元気でな・・・」


 リーフに背を向けると、振り返ることなくその場を立ち去った。

 もし今リーフの姿を見てしまったら、決心が鈍ってしまいそうだったからだ。

 自分の気持ちを押し殺して、リーフとの旅は終わりを告げる。

 自由を得た代わりに残ったものは、心の中に溢れた寂しさと自分の心に嘘をついたことへの後悔だった。

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