瞳は悲しみの色に染まる
日が昇り暑い光が森の中を照らし、森の中を熱帯に変化させる。
俺とリーフは昨日ラミアメイルがいた洞窟の前まで来た。
洞窟の前には昨日戦った痕跡が残っており、溶けたような土や蛇が這いずった後があった。
洞窟の前に立ち、その辺に落ちていた小石を手に持った。
そしてその小石を振りかぶって洞窟の中に投げつけた。
小石は矢のような速度で飛んでいくと、岩に当たったのか反響する音が聞こえてくる。
そしてゴスッという重い音が洞窟の中から聞こえてきた。
洞窟の中から女性の上半身が暗闇を突き破るように勢いよく飛び出してきた。
蛇の下半身を持ったその生物の顔の半分は溶けたように荒れ果てていた。
「ウロヤノコナーェッテイ!」
ラミアメイルは魔物語を喋り激昂しながら額を抑えていた。
恐らく先ほど投げた小石が額に当たり怒っているのだろう。
腰から剣を抜き構えると、横にいるリーフもナイフを取り出し臨戦態勢に入った。
ラミアメイルも目を充血させながら、こちらに細長い蛇のような舌を出して威嚇してきている。
ラミアメイルと目を合わせないようにしながら、俺はラミアメイルに斬りかかった。
「ウオォォォォォォォ!」
ラミアメイルの尻尾を斬り落とそうと剣を振り下ろした。
ガキィンという重低音が身体に伝わってきた。まるで金属よりも固い物に弾き返されたような感覚が腕を伝い、身体に響いてくる。
ラミアメイルの鱗が剣を弾き返した。
「くっ! ガンドラントの鱗も軽々壊せたのになぁ」
自分の首元についた首輪を触り、硬さを確認する。
鉄のような首輪とは似ても似つかない感触。しかし、この首輪の頑丈さは嫌といういうほど理解している。
「なら上半身はどうだ!」
今度は剣を両手で握り、力を込めて振りかぶる。
次に狙うのはラミアメイルの上半身、脇腹だ。
「ウオリャ!」
剣は空を斬った。ラミアメイルが剣を避けたのだ。
しかし、剣はラミアメイルの脇腹を少し掠った。
しかし掠った場所はわずかに皮膚が凹んだだけで、ラミアメイルにダメージが与えたとはいえない。
まるで粘土に石を落としたように凹むだけで、すぐに元の形に戻ってしまった。
「ハハッ困ったな、これは」
ラミアメイルには物理攻撃が一切通用しない。しかも今の俺には攻撃手段が物理攻撃しかない。
鏡戦士の籠手で溶解液を跳ね返して倒す手もあるがラミアメイルがもう一度同じ手にかかってくれるとは限らない。
仮に引っかかってくれたとしてもそれは罠の可能性が高い。
思考を巡らせていると、リーフが後ろから飛び出してきた。
リーフは目では追えないスピードで動き回るとラミアメイルの目を切り裂いた。
「アギャァァァ!」
ラミアメイルは断末魔を上げて、目を抑えた。
流石に目までは固くなかったようだ。
リーフは戦うとしている。なら取る選択肢は一つだ。
両手に力を込めて剣を握ると、再びラミアメイルに剣を振り下ろす。
ガキィンという音が響き、ラミアメイルの鱗に弾かれるがそんなことは関係ない。
剣を何度も何度も振り下ろす。
この戦いに必ずリーフと共に勝つ。そう誓った時点でもう逃げるという選択肢はない。
「シャァァァ」
剣を振るのに夢中になっていたため、反応が遅れラミアメイルの蛇の尾が脇腹に直撃した。
「グハッ!」
腹に重い衝撃が走ると、気がついたら時には木に打ちつけられていた。
背中と脇腹に痛みが走り、腹の底から昇ってくる胃液が口の中を満たす。
「プッ」
口の中の胃液を吐き出すと、胃液は少し赤い血が混じっていた。
恐らく肋骨が食道のどこかに刺さったか、臓器のどこかから出血している。
今の一撃でここまでやられるとは想像してなかった。
「ザインガル様!」
リーフは走って駆け寄ってきた。普段のような無表情ではなく顔は心配と不安に包まれたような、悲しそうな表情を浮かべていた。
「・・・大丈夫だ、リーフ。まだ戦えるから」
「ザインガル様・・・」
脇腹を抑えながら、立ち上がるがうまく足に力が入らない。
リーフが身体を抑えて支えてくれるが、リーフの小さく細い身体では支えるのがやっとだ。
「リーフ・・・俺が死んだら俺の首を切り落として逃げろ」
リーフは目を丸くした。普段のリーフなら考えられないぐらい今日は表情が豊かだ。
「首輪は取れないが、首を落とせば首輪を持っていけるだろ・・・だから俺が死んだら――」
「嫌です!!」
リーフの力強い否定が言葉を遮った。
リーフの目からは涙が流れていた。ルビーのように赤い目が、空の色のような青い目に変化していく。
「もう・・・目の前で大切な人を失うのは・・・一人になるのはもう嫌です」
ラミアメイルがこちらの声に気付き、突進してきた。
大きな口を開けて俺たちを飲み込もうとしている。
「リーフ・・・逃げろ」
「・・・・・・ザインガル様。これから私がやることに言及するのはやめてください」
リーフはそう話すと、俺に背を向けてラミアメイルの前に立った。
リーフは右手に力を込めると右手が宝石のようにキラキラと輝き、硬質化した。
そして突進してくるラミアメイルの身体の真下に潜り込むと、ラミアメイルの胸の中心を右手で貫いた。
ラミアメイルはリーフに串刺しにされると動きを止めた。
リーフの血濡れた手にはラミアメイルの心臓が握られていた。
拍動するラミアメイルの心臓はリーフの手の中でその拍動を止めた。
リーフは自分の倍の体格はあろうかというラミアメイルの身体を持ち上げ、胸から手を引き抜いた。
ラミアメイルの身体は脱力したように地面に倒れ伏した。
「リーフ・・・お前はいったい何者なんだ?」
恐怖や嫌悪からの言葉ではない。好奇心とも少し違う。
単純にリーフが何故こんな芸当ができるのか、もっとリーフを知りたいという意味での言葉だった。
その言葉を聞いて、リーフは悲しそうな見せるとすぐに笑みを見せた。
貼り付けたような笑みでなく、悲しさを誤魔化すような笑みをこちらに向けてくる。
そしてただ一言告げた。
「・・・私はただの暗殺者の娘でございます」
悲しさに染められたような青い目をこちらに向けて笑みを見せる彼女にこれ以上のことを言及することはできなかった。




