束縛の蛇姫ラミアメイル
次の日、ラミアメイルを探して村の南西にある森へと出発した。
森の中はとても蒸し暑く、見たことのない植物や虫が生息していた。
蔦の長い植物や、葉の部分が口のような形をした食虫植物、人の手と同じぐらいの大きさの虫が何匹も飛んでいる。
あまりの暑さに首に巻いたマフラーをとった。ここなら人もいないし、首輪を見られたところで問題ないだろう。
俺がマフラーを取るのを見ると、リーフもマフラーを外した。
正直この森の中を何日も彷徨いたくない。暑さにも参るが、ここにいたら植物や虫に殺されかねないし、未知の病気にかかりそうだ。
「中々見つからないな。なぁリーフ」
後ろを向いてリーフに話しかけるとリーフの視線は、違う場所に向いていた。
正面ではなく、三時の方向を向いて何かを凝視していた。
リーフの見ている方向を見ても植物が生い茂っているようにしか見えない。
まるで俺には見えない何かがリーフには見えているようだった。
「向こうに何かあるのか?」
「こちらから気配を感じます」
リーフはそう言うと歩みを進め、植物を掻き分けての植物だらけの場所に入って行った。
正直、葉の裏とかに変な虫とかついていたら嫌だから入りたくないが、リーフと離れすぎると頭と胴体が離れ離れになってしまうため、我慢してリーフの後に続いた。
リーフを見失わないように、植物を掻き分けて進んでいくと崖壁が見えてきた。
そこでリーフは立ち止まった。目の前には大きな穴が空いており、洞窟のようにも見える。
だが明らかに自然に生成された物ではない。何か溶解液のような物で溶かして、穴を掘ったような洞窟だ。
「これはラミアメイルの巣の入り口だな。よくわかったなリーフ」
「・・・いえ、なんとなくです」
リーフの顔を見て気がついたが、またリーフの目が青色に変わっていた。まるでアクアマリンのように透き通った青色に。
だがリーフが瞬きすると目の色はルビーのような赤色に戻っていた。
何か魔装具の能力だろうか。そんなことを考えながらも視線を洞窟へと移した。
中からは冷たい風と、鼻につくような腐った匂いが漂ってくる。
暗闇が永遠に続くような洞窟の奥は黒一色に塗りつぶされていた。
ここにいても何も始まらないため、俺とリーフは洞窟の中へと足を踏み入れた。
目が暗闇になれないせいか、洞窟の中は何も見えない。
鼻がバカになりそうなほどの腐敗臭と、何も聞こえないほど不気味な静寂。足元には少し湿った土の感覚が足の裏に残る。
ラミアメイルは夜行性であるため、日中は洞窟に身を潜めている。
狙うなら日中がいいのだが、敵の巣に飛び込むのもかなり無謀な気がしてきた。
灯りをつけたいが、そんなことをすればラミアメイルに居場所を教えるようなものだ。
突然後ろから風を切る音がした。
そしてその後、目の前でキンッという音共に火花が散った。
火花が散った灯り紛れて、一瞬リーフのナイフと蛇の胴体のような物がリーフのナイフを弾いたのが見えた。
「リーフ! 洞窟から出るぞ」
リーフを抱き抱えきびすを返すと、急いで洞窟の出口を走り出した。
振り返った瞬間にリーフの目が暗闇で見えた。リーフの目は青色に変化していた。
やはり見間違いではない、リーフの目の色が変わっていた。
だが今そんなことは後回しでいい。後ろから何かが地面を這いずる音が聞こえてくる。
追い付かれないことだけを考えながら、光が差す方向へと全力で走る。
そして洞窟の外へ飛び出すように出ると、急いで方向転換し、洞窟の入り口に視線を向ける。
ゆっくりと洞窟の中から出てきたものは人間の女性の身体だった。
いや正確には女性の上半身。その身体は蛇の鱗のようにきめ細やかな、線が鎖のように巻き付いているようにも見える。
下半身は蛇の胴体のようにウネウネと動いていた。
瞳は蛇のように縦に線を引いたような見た目をしており、頬が裂け口から蛇の舌のような細い舌が出したり、しまったりしている。
間違いない束縛の蛇姫ラミアメイルだ。
「フフッ、食べたりしないからこちらへおいで」
ラミアメイルは手を伸ばし、こちらにうっとりとした目を向ける。
たがその言葉に意味はない。ただ人間の言葉を真似ているだけだ。
魔物は人間の言葉を真似て喋る個体もいる。もちろん意味なんてわかっていない。
その言葉を発すれば人間が安心する、近づいてくるとわかっているから言葉を発するのだ。
「嘘つけよ。お前の息、血生臭せぇんだよ。人を何人食ってやがる」
剣に手を置きいつでも抜刀できるように準備するが、身体の様子がおかしい。
手に力があまり入らない。手に薄い膜を張られたように、知覚が鈍い。
「そうか・・・ラミアメイルの目を見た時に」
ラミアメイルの目を見てしまった時にすでに術中にハマってしまったことに気がついた。
ラミアメイルは俺に束縛の呪いをかけたのだ。視線を合わせた時、すでに俺はラミアメイルの攻撃を喰らっていた。
「シャァァァ!」
ラミアメイルの口が裂けるように開き、溶解液を吹き出した。
「ク、クソ」
咄嗟に右腕が前にでた。鏡戦士の籠手の鏡部分が光ると、溶解液をラミアメイルの方向に反射した。
「うぎゃああああ!!」
ラミアメイルの皮膚はまるで酸をかけられたように、煙を上げた。ドロドロと鱗と皮膚が溶かされ、ラミアメイルは苦しんでいた。
それを見ながらも距離を取ろうとするが、俺の身体はいうことを聞かなかった。
「う、うぅ」
身体に力が入らず、地面に伏してしまった。
「ヨナルノニショウチガンゲンニ」
溶けた皮膚から筋肉のような赤い繊維を除かせながら、ラミアメイルが言葉を口にした。
魔物語だろう、何を言っているかわからない。
何を言っているのかを考える思考も、徐々に奪われてゆく。
ラミアメイルが俺に手を伸ばすと、横からナイフでラミアメイルの手が切りつけられた。
俺の前にナイフを持ったリーフが立った。
「ナルスヲマャジ!!」
ラミアメイルは魔物語を話すと、口を大きく開き威嚇した。しかしリーフは一歩も引こうとしなかった。
「ラカダウヨツヒガトヒノコハニシタワラナゼナ。ルマコハテレサロコヲトヒノコ」
俺の耳にリーフの声で魔物語が聴こえた。それをリーフが言ったのか、それとも思考が麻痺していく仮定で聴こえた幻聴なのかはわからない。
意識が沈むように遠のいていく。
瞼が閉じないように目を開けるが、意識はまるで燃え尽きた灰が水に混ざり溶け込むように落ちていく。
リーフの後ろ姿を目に焼き付けながらも、俺の意識はそこで途絶えた。




