〈第19話〉完熟マンゴー落下しないように網かぶせること思いついたやつ天才
広い畑の中、編み目の細かいネットに包まれたマンゴーたちが、甘いにおいをそこらじゅうに漂わせている。
収穫のピークの時期はもう過ぎたはずだけれど、それでも、緑の葉っぱを茂らせた木々の間に、これだけの数の赤い果実が並んでいるのは壮観だ。
「そこにいるのは分かってんだ、出てこいっ、清花」
僕は素早く振り返って、大声を出す。畑の奥のほうで仕事をしている人たちがこちらを見た。すぐ近くの茂みからばつが悪そうに清花が出てくる。
「ケンヂ先輩、ちょっと、なんなんですかあ。油断してくださいよお、いつもみたいに」
「いつもいつもあんなのくらうか」
「くらってるじゃないですかあ」
「だいたい寸劇の打ち合わせがしたいからってお前に呼び出されて警戒しないわけないだろ」
「なんだかがっかりですね、先輩には」
清花は大きなめがねをずり上げながら「つまんないなあ」とつぶやいた。
なんというか、笑いを一つつぶしたような、こちらが申し訳ないような気持ちになって僕は話題を変えた。
「ところで、このマンゴーって、なんでこんな網に入れてんだ」
清花は葉っぱを触りながら、僕の質問は無視して、
「そんなことより先輩、寸劇、ちゃんと出るんでしょうね」
と本題を切り出してきた。
僕は「ああ?うん」とあいまいに答えた。
「先輩って、こうやって二人とか三人で話してるときは普通なのに、どうして人がたくさんいるところだとしゃべらないんです?」
こいつはズケズケズケズケと人と人との距離を詰めてくるやつだとは思っていたが、今日は特にひどい。こんなこと面と向かって聞くか。
「別にしゃべってるって」
「しゃべってないですよお。私は先輩の魅力をもっとみんなに知ってもらいたいんです」
「なんでだよ。おまえは芸人と二人三脚で歩む新人マネージャーか」
「今のたとえツッコミはいまいちですけど、もっと、みんなの前でもそういうこと言ってくださいよ」
僕はだんだんイライラしてきて、ぶっきらぼうな答え方になる。
「だいたい、このマンゴーたちもだな。二つや三つでは大した値段にならないけど、たくさん集まってくると、あれなんだよ・・・」
なんか良い感じの話をしたかったのだけど、自分でも何を言いたいのか分からなくなってきた。
「それって一つ二万円はするんですけど」
清花が冷たく言い放つのを、僕はただぼんやりと聞いていた。




