表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

第7話 賑やかな午後

 ……………


 森本さんが石田さんに近づいた。


「はじめまして、田中くんの彼女さん~」


 彼女のからかうような視線に、僕は背筋が寒くなった。

 でも、それだけではなかった。


「二人はどれくらい付き合ってるの?」


 石田さんは潤んだ目で僕を見た。まるで真実を話していいか、許可を求めるように。


 僕は構わなかった。たぶん、彼らなら理解してくれる。


「言いたければ、言えばいい」


 彼女はほっとため息をつき、話し始めた。


「申し訳ないんですけど…実は、私たち、本当に付き合ってるわけじゃないんです。ただ…」


 …………… ………… ………


 彼女は最初から全てを説明した:どうやって話し始めたのか、そしてその後何が起こったのか。


 話し終えると、沈黙が部屋を満たした。誰一人として言葉を発しなかった。


「…これが、今までの全てです。最初に嘘をついてしまって、ごめんなさい。どうか、誰にも言わないでください」


 彼女は頭を下げた。


 他の者たちは数秒間顔を見合わせ、それから含み笑いを浮かべた。まるで今、秘密を共有したかのように。


「許してあげる」


 森本さんのその言葉に、石田さんは顔を上げた。


「ただし、その秘密を守ってほしければ、あなたは部活に入部すること」


 森本さんの笑顔は無邪気に見えた…でも、明らかにこの状況を利用していた。


 石田さんにとって、それは失敗だったように感じられたはずだ。


 彼女は黙り込み、何と答えればいいかわからなかった。


「大丈夫です。実は─── 皆さんに話そうと決めた時から、入部しようと思ってたんです」


「───そうなんだ」


 森本さんは微笑み、本棚の方へ向かった。


「はい、ここにサインして」


 石田さんの前に用紙を置いた。彼女は数秒間それを見つめ、まだ驚いている様子だったが、やがてゆっくりと表情が変わった。迷いなくペンを取った。


「わかりました。書きます」


 書き終えると顔を上げた…と同時に、抱きしめられた。


 森本さんが妹にするように彼女を包み込んだ。石田さんは驚きで体を強張らせた。


「文芸部へようこそ、ユキちゃん! じゃあ、みんなを紹介するね」


 石田さんは緊張しながらうなずき、他の者たちはじっと彼女を見守っていた。


「市川レンです。部長をやってます。気軽にしてください」


「はい、よろしくお願いします、部長」


 次に、黒木さんが少し近づいた。


「黒木シオリです。田中くんと同じ、ただの部員です」


 最後に…


「私は副部長の森本カンナ。でも、カナちゃんって呼んでね、いい?」


 石田さんはまだ少しぼんやりとうなずいた。まるで自分がどこにいるのか、まだ理解しきれていないかのように。


 それから、彼女は慎重に僕に近づいた。


「田中くん、お願いがあって恥ずかしいんですけど…今日も、昨日みたいに一緒に帰ってもらえますか?」


「───え? ああ、構わないけど…急にどうしたんだ?」


「────後で話すね、いい?」


 彼女は心配そうだった。待つしかないようだ。


 ***


 授業が終わり、僕は彼女の家へ向かっていた。


 彼女のアイデアだったが、僕にも少しだけいてほしいと言われた。彼女はあまりしつこくは言わず、それが少し変に感じられたけど、それでも承諾した。


 歩いている間、頭の中には疑問が積み重なっていった。そして、ついに家に着いた。


 玄関の前には、昨日会った彼女の弟と、彼女にそっくりな女性が立っていた。


 考えるまでもなかった。彼女の母親だろう。


「こんなこと言うの申し訳ないんですけど、お母さんがあなたに会いたいってしつこくて…それで…」


「断れなかったんだな…」


 彼女は無言でうなずいた。


「あなたのことは何も話してないんです。ただ、晃が勘違いして、それを話しちゃっただけで…」


 彼女の頬は赤らみ、隠すようにうつむいた。それでも、僕の後ろで彼女がかすかに震えているのがわかった。


 僕たちは彼らの前に立ち止まった。彼らは面白そうな笑みを浮かべて僕らを見ていた。


「おお~、うちの可愛い娘と付き合ってるって言う子は、君かい?」


 僕は石田さんを見た。彼女はまだ顔を上げていない。だから、選択肢はあまりなかった。


「はい。田中ユウトと申します。はじめまして、石田さんのお母さん」


 彼女はうなずき、娘の方へいたずらっぽく微笑んだ。


「ふふふ、どうやらうちの子も大人になったみたいね。よかったらお茶でも飲んでいかない? 少しお話ししたいの」


「お母さん! そんなこと言わないで。それに、田中くんは忙しいんだから」


 彼女は僕を早く逃がそうとしているようだったが、待たせるのも悪いし、考えてみれば、ここにいるのも悪くなかった。


「少し時間はありますから…」


 石田さんの母親は小さく飛び上がって喜び、僕を玄関の中へ押し込み始めた。石田さんは慌てて、どうすればいいかわからない様子だった。


 結局、彼女は諦めて、僕の決断を受け入れた。


 ぶつぶつと独り言を呟きながら、彼女は僕たちの後ろを歩き、僕は家の中へ引きずり込まれた。


 中に入ると、居間に通された。きれいに飾られていて、あの懐かしい家庭の香りがした。


 女の子の家に入るのは初めてだった。少し緊張した。


 僕たちはソファに座り、彼女の母親は台所へお茶を入れに行った。隣に座った石田さんが、僕の耳元に顔を寄せて、できるだけ小さな声で囁いた。


「なんで入っちゃったんですか? 忙しいんじゃなかったんですか…?」


「断ったら悪い気がしたんだ。それに、時間もあるし、問題ないよ。それに、今何か考えておかないと、後でややこしくなるかもしれないし」


「そういうことか…だから入ることにしたんですね…」


 僕はうなずいた。


 その時、彼女の弟が近づいてきた。


「お姉ちゃん、普段あんなに内気なのに、彼氏がいるなんて、すごいなぁ~」


 言い終わる前に、石田さんが彼の口を塞いだ。


「な、何でもないから…そ、そんなことないから」


 彼女の声は震えていた。必死に平静を装おうとしていたが、弟はなんとか振りほどいた。


「ねえねえ、二人はいつから知り合ったの?」


 石田さんと僕は顔を見合わせた。同じ話をすべきかどうか、考えているようだった。


 幸い、質問は彼女に向けられていたので、僕は黙っていた。それでも、彼女が一人でうまくやれるかどうか、確信は持てなかった。


 友達に言ったのと同じ話をすればいいが、ここではもっとリスクが高かった。慎重に答えなければならない。


「私たち…中学からの知り合いなの。ただ、最近話し始めただけで」


「じゃあ、最近付き合い始めたってこと?」


 石田さんは慎重にうなずいた。


「え~…怪しい~」


 彼女は冷や汗をかき始めた。次の質問で追い詰められるかもしれない…そう思われたが、その時、彼女の母親が戻ってきた。


「晃、お姉ちゃんを責めすぎだよ。ごめんなさいね、ユウトくん、嫌な思いをさせてしまって」


 石田さんのお母さんがちょうどいいタイミングで現れた。こういう状況は、この家では日常的なのだろうかと思った。


「いいえ、大丈夫ですよ、石田さんのお母さん。全然嫌じゃないです」


 本当は違ったが、それを言う意味はなかった。


「『晴香さん』って呼んでね。あなたは娘の彼氏なんだから、そう呼んだほうがいいわ。それに、あなたたち、まだ苗字で呼び合ってるんでしょ」


 彼女の笑顔で、場の空気が和らいだ。石田さんもほっとしたように見えた…最後の言葉を聞くまでは。


 時々思う。彼女はずっとこうだったんだろうか…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ