12 エピローグとバナナ
数年後、俺達はある貴族に仕えていた。そう、【俺達】だ。
全盛期の肉体を取り戻した俺は国に帰ったが、王宮の奥で静かに暮らす元国王にとって俺の護衛など必要としていなかった。もちろん現国王は元の騎士団長として迎えてはくれたが、何処か虚しさを感じて辞退した。
独り身の俺はフリーの剣士として諸国を旅する中、たまたま立ち寄った領地で思い掛けない再開を果たす。
なんと彼女は先の功績が認められ爵位とそれに付随する領地を賜っていたのだ。立ち話でもと思った俺だが、彼女は屋敷に招いてくれた。
執務室だろう部屋に入ると中央に設置された来客用のソファを薦められ彼女は奥にある仕事用の椅子に座る。
何でもこの領地はあの男爵の領地だったそうで、今は圧政によって衰退した街の復興に尽力を注いでいるそうだ。
「まったく、いなくなっても迷惑をかけられるとはな」
苦笑しながらも楽しそうに政務をこなす彼女を見ていると、これが本当の姿なのが伺える。見ていて気持ちが良い。
『俺を雇わないか?』自然と口から出た言葉に『なんだバナナが欲しいのか?』と、引き出しからバナナを取り出して投げてよこした。
「だから、何で引き出しからバナナが出るんだ?」
「ん? あぁ、これは私の能力だよ、引き出しから一定量の食材が出せる」
異世界人には特殊能力が使える者が多くいると聞いた事はあるが、彼女もそうだったのか。この世界に異世界人は多くないがそれなりにいて総じてこう呼ばれる。
「まさか勇者だったとはな。……そう言や、名前をまだ聞いてなかったな」
「お前も本当に拘るね、ナギ・ミサキ。私の世界だと【三崎 和】って書く。それが私の名前だよ。それで? 兵士として雇われたいのかい?」
「あぁ、それしか取り得の無い脳筋だからな」
冗談交じりにそう言うと『違いない』と笑って返された。
「空いてるポストは有るんだけどね、その前にテストするから付いて来て」
そう言って中庭に案内された。そこで団員が訓練しているが以前の倍以上いる。訓練と言えば聞こえはいいが、纏まりも無く動きもなっちゃいない。
「解るか? 平民並みとは言わないが私でも解るくらい弱いんだよ」
「明らかに実戦不足だな。指導出来る奴はいなかったのか?」
「一応班長達に任せてはいるんだけど、成果は見ての通りさ。こいつ等を鍛えてくれないか?」
「俺の扱きはハードだぞ。それで、テストって言うのは?」
「班長達と模擬戦をしてもらう。四人に勝ったら団長になってもらうよ。まぁ、テストと言うより私が実力を見たいだけだけどね」
なるほど、強さを見せ付けた方が団員達も素直に従うだろうしな。
彼女は班長達を呼ぶと模擬戦の説明をする。俺は近くに立て掛けてあった木剣を持って軽く素振りをした。
他の団員達も集まり大きく囲む様に座ると一人の男が前に出てきた。あれは一班の班長だったな。しかし……それじゃ足りないんだよ。
「実力の差を見せてやる。班長四人、全員で来い!」
班長四人が俺を取り囲む。背中を取られない様に立ち回る事も出来たが実力を見せる為に敢えてそうした。
木剣の切っ先で左右を牽制しつつ正面との距離を少しずつ詰める。もちろん背後の気配に注意するのも怠らない。
……ジャリ。 背後から微かな足音が聞こえる。左右の兵士に軽く目を遣ると後ろの兵士と目配せをしているようだ。その様子から大体の距離を測る。
更に後方から詰め寄る足音に力を感じて前方に勢い良く二歩ほど踏み込み正面の兵士の体に突きをお見舞いし、勢いそのまま体当たりですっ飛ばす。
すぐさま振り返ると背後にいた兵士は振り下ろしていた木剣を再び振り上げようとしている。左右の兵士は驚きからか思考が停止している様子だ。
俺はダッシュで背後の兵士に近付きながら木剣を相手の木剣に合わせる様に振り上げると、木剣同士が頭上で衝突して相手の木剣を弾き飛ばす。そして木剣を肩口目掛けて振り下ろした。
右の兵士はまだ反応出来ていない様子だが、左の兵士が袈裟懸けに打ち込みに来る。それを木剣で受け止めると、力任せに押し返す。
弾かれた事で多少バランスを崩すが立ち直ろうと踏ん張る。だがそんな隙を見逃す程、甘くは無い。俺の一閃が胴を薙ぐ。 ――残りは一人!
あわてた兵士が木剣を振り回すがそんな剣に当たる筈も無く二~三度払い除けて喉元に切っ先を付ける。
一瞬とまでは行かなかったが、正直俺の実力を見せるにはまだ足りないな。
「こんなもんでどうだ?」
「いいね、合格だよ。物足りないならもう一人戦ってみるかい?」
調子が良かったのでもう一戦する事にしたのが間違いだった。
現れたのは彼女の知り合いだという勇者、もちろんコテンパンに伸された。実力が違いすぎて悲しくなったが、ある意味俺の実力を余す所無く見せられただろう。
その後は俺の扱き甲斐もあって国内有数の軍隊と言っても過言ではない程になっていくと共に、私設団は更に人数を増やしていった。
俺はこの私設団の大隊長をしている。その下に班長だった四人が中隊長を班員達が小隊長を勤め新人達を纏めている。面白い所では、あの時彼女の手伝いをしてた兵士たちが兵士を辞めて親衛隊として彼女に仕えている。
俺は一度『元の世界に戻る時、一緒に連れて行って欲しい』とお願いをしたら、『嫌だよ、気持ち悪いな。ストーカーかよ!』とバナナを投げられた。
ショックだったが諦める積もりは無い。時期を見てまた頼もう。
――所でストーカーって何だ?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
この国は怖い、色々とだ。……もちろん感謝もしている。この世界に来たばかりの何も知らない私を勇者として迎えてくれたのだ。だから自分に出来る事をしようと思った、そこに嘘はない。
最初、大臣に国の形の一つとして連合国の話をしたら、それをそのまま会議に上げ、半ば強引に進めだした。雑談のつもりでした会話だったのに、まるで恩を着せる様に何度も『私が、私が』と言い寄ってくる。
その後草案者として国王に謁見すると、難色を示していた国王は掌を返して作戦に力を入れ始め、作戦が進む度に一々私を呼んでは自分をアピールした。
何なんだろうと首を傾げている時、城の侍女が遠回しに教えてくれた。『お二人とも独身ですよ』と、本気で鳥肌が立った。……マジやめて。
そして拷問係がクビになったと聞いた時、これだと思った。後継を希望するとあっさり許可された。お願いを聞いてあげたと言わんばかりの顔を忘れられそうに無い。
色々と危機を感じたので、家財道具一式を持ち込んで地下に住む事にした。これ以上残念なオッサンを作らない為にも極力無表情でいようと心に誓う。
国王と大臣は人目を気にして拷問部屋には通えないので地下室は私にとって聖域となった。
その後はいたって平和だった。時折、新兵数名が何か手伝う事は無いかと見えない尻尾を振りながら近付いて来るくらいだ。
もう少し若かったらなぁと残念に思う。これが年下ならとついつい頭を撫でてからフラグを立ててしまった事に気付く。案の定、領地を受けると彼等もまた兵士を辞めて私の元に来た。
そして最後に脳筋が遣って来た。祖国に忠誠を誓った騎士だったので、来ないだろうと安心していただけに街中で会った時にはゾッとした。
外で話すと目立つので仕方無く屋敷に招いたけど、止めとけばよったかな。
それでも強さは保証出来たので雇う事にしたらプロポーズされた。本気で『気持ち悪い』と告げたが伝わってくれただろうか?
私は同年代か年下の線の細い男性が好みなのに、寄って来るのはオッサンか脳筋ばかり。
こんなハーレムは要らない。早く元の世界に帰りたいよ。
――誰か私を助けてくれ。
皆様、最後までお付き合い頂きありがとうございます。
彼女視点を載せるか悩みましたが、書いたなら載せちまえと勢いに任せました。裏切られたと思われたならお詫びします。
今後も何かしら執筆しようと思っていますが、今だ纏まっていません。それでも今月中には投稿したいと思ってますが、更新は月に一~三話程度のペースになる事でしょう。
――それでは皆様、お疲れ様でした。次回作でお逢いしましょう。




