第3話 死体回収場
死体運び程リスクの高い仕事は少ない。
死体は重いし、汚いし、感染症のリスクがあって危険だ。それに、今いる幽玄城砦の地下採掘場は、過去の都市文明やらの名残か、怪物が出てくる。つまり、運び屋である私も死ぬリスクが高い。
だからこそ、死体がいつも転がっていて、稼げるというものだが。
「にしても、死体2体は、重いってー……」
「ツツミの分、俺が持つか?」
相棒のタイジュが気を効かせて声をかけてくれるが、背中には既に三つの死体袋。大柄だから持てるとは言え、単純計算して既に300kg近い重さを持ってる。
ここらは地面がぬかるんでいるせいでソリが使えない。比較的安全という点を除くと、稼ぎ場としては最悪な場所だ。
もっと死体を拾いたいものだが、いくら筋肉バカとはいえ、これ以上は持てないだろう。
「タイジュはもう3体持ってるでしょ。これ以上、持てないってー」
「今度、浮遊型リヤカーを買おう」
「今度じゃない。帰ったら直ぐ買わないと」
地下12階。廃墟と化した都市鉱山のビル間の連絡通路を、懐中電灯の灯りだけで進んでいく。
通路の窓から遠くに、上層へのリフトから漏れ出る光が見えた。あと、少しで今日の仕事も終わりだ。
ふと、足元のヘドロの中に黄色い防護服が見えた。死体だ。持ち帰りたいが、手元が一杯なのでそのまま見捨てる。
タイジュは何か言いかけたが、そのまま黙ってついて来てくれた。
「全く、あるかもわからない最深部の遺物を求めて命を散らすなんて、こいつらも馬鹿だよね」
「だが、彼らのおかげで俺たちも生活ができる。馬鹿にしないで、逆に感謝したほうがいい」
「死んでくれて感謝はさすがに変でしょ。タイジュは倫理観というものが無いなー」
「すまない」
「いやいや、冗談だって。私の方が倫理観からほど遠いんだから」
連絡通路を抜け、リフト乗り場に辿り着く。
クリスマス飾りみたいに豆電球の灯りで照らされたリフト乗り場には既に上層に帰る採掘屋の姿がちらほらあった。その向こうで、リフトの入り口で暇そうにあくびをしている管理人を見つける。
14階と違い、日帰りで採掘ができる12階は採掘屋が多くいる。そのため、リフトに乗る人たちを整理する管理人がいるのだ。
「管理人のおっちゃん!私らも次のリフト乗れそう?」
「まあ、そうだな。夜も遅いし、採掘屋もこれ以上来ないだろうから、いいぞー」
「なら、ありがたく」
「どーぞ」
タイジュとリフトに乗り込むと、死体の異臭からか、ゲン担ぎからか、採掘屋連中は一斉にリフトの端に移動する。
タイジュはいつも少ししょんぼりするが、私としてはタイジュとのんびり話せるから好都合だ。
「これ納品したらさ、ラーメン食べに行かない?」
「すまない、今日は姉さんが夕飯を準備して待ってるんだ」
「リントが料理を……!?世界が滅びるね、これは」
「いや、ルミさんのとこで商談の帰りに弁当を買ってくるらしい」
「まあ、そりゃそうだよね。それじゃあ、しゃーないか。また今度、行こう」
「ああ」
リフトは上層へと登っていく。リフトには窓は無い密室かつ、外からの蒸気が酷い。おまけに、私たちは防護服姿なので、蒸し暑いことこの上ない。
地獄のような10分を耐え、ようやく地下10階に辿り着いた。
「幽玄城砦到着」
男とも女とも似つかない機械音声が流れて、エレベーターのドアが開く。
すると、むっとした熱気と蒸気があふれ出るゴミ溜めみたいな町が見えてくる。リフトから降りた先に広がる、天井まで続くトタンやコンクリートでできた小屋と工場の集まりの圧巻さには、いつ見ても圧倒される。
こんなところに、よく自分たちは住んでいるものだ。
エレベーターを降りて、横の”回収場”と看板が掲げてあるトタン小屋に移動する。橙色に照らされた小屋内では、いつもの回収担当の名札のタニグチさんが煙草をふかしていた。
「お二人さん、今日もお疲れ。名札は?」
「タニグチさん、荷物そこに置いていい?」
「どうぞ」
死体を地面に置き、カバンからタイジュと自分の名札を取り出す。
「ツツミ=ミズナ、キハラ=タイジュ。はい、確認しました。今日の納品数は5か」
「13階の4番階段の方に、リーダー個体がいるっぽくてさ。自治会の方に連絡しておいて」
「わかったよ。それにしても、毎回、タイジュ君はよくもまあ、そんなに持てるよね」
「別に問題ない」
「そうかい。で、5体だから、料金は5万イェンと。はい、中確かめといて」
渡された茶封筒の中身を確認する。確かに5万円丁度、タニグチさんが気を利かして、1万イェン4枚と5千イェン2枚にしてくれていた。
半分引き抜いてタイジュに渡す。
「お疲れ、タイジュ」
「ありがとう、ツツミ」
タイジュの仏頂面が少しほころむ。きっと、この姉バカはまた稼ぎをプレゼントに使うのだろう。
たまには、先輩の私にも使ってほしいものだが。それは、高望みしすぎか。
「それじゃあ、タニグチさん、またね」
「二人とも、気を付けて。最近、辻斬りが出てるって話だからな」
「大丈夫だって、そんなのに負ける私じゃないし」
「タイジュ君に言ってんだよ。誰もおめぇの心配はしてないさ」
「俺はすぐに逃げるから問題ない」
「いいか、いざという時はそこのミズナを盾にするんだよ」
「わかった」
「わかったって、何!?まあ、いいや。タニグチさん、今日もありがとうございます。明日もよろしくお願いいたします」
「あいよ」
小屋を出て帰路に着く。リフトから『ジンジャ』にまっすぐ続く大通りを二人でのんびり歩いた。多くの採掘屋も疲れた様子で歩いていき、そこらにある居酒屋や食堂に入っていくのが見える。
「タイジュ、仕事、慣れて来た?」
「ああ。俺の方で、装備を姉さんに渡せばいいんだろ?」
「そうそう。よろしくね」
「任せろ」
家に着くまで、お互い防護服は脱がないので、タイジュがどんな顔なのか良くわからない。だが、今日は彼一人で回収ができたから、達成感のある顔をしているのは確かだろう。
大通りにある停留所で持ってた袋を全てタイジュに渡した。
「じゃあ、リントによろしく」
「ああ。また明日、ツツミ」
「また明日、タイジュ」
そして、すぐに来た8区行きの路面電車に乗り込んだ。
登場人物
ツツミ=ミズナ:死体運び屋。ラーメンよりチャーシュー丼が好きだが高くて最近食べてない。
キハラ=タイジュ:死体運び屋の後輩。麺類が好き。鬼。
タニグチ=サイト:一人娘と暮らす自治会の人。本業は葬儀屋。




