第25話 結末
一部、過激な表現があるので注意してください。
血の気が引いて、朝からの怠さも息苦しさも、全てが吹っ飛んだ。
「……嘘、でしょ……」
幽玄城塞10階第1区。キハラ幽玄遺物商店。
その扉が爆破され、無残に崩れ落ちていた。
中に入ると、あるのは荒らされた店内と、血のシミだけ。
店の端で、力なくリツが銃を抱えて倒れていた。隣には手当をするカナタの姿があった。だが、白衣は焼けこげてボロボロで、顔は涙と煤でぐちゃぐちゃになっている。
「……何があった」
「リントと、タイジュが……攫われた……それで、リツが戦ったけど……でも……」
「先に攻撃してきたってことか」
カナタが巻いていく包帯がすぐに赤く滲んでいく。
「タマエ婆さんに連絡しておく。多分、すぐに応援が来るから、それまでそこでじっとしていて」
「……うん、わかった」
足元に落ちている薬莢を拾う。黒いラインの入ったソシキでよく使ってた奴だ。
連れ去らったのが、ソシキの息のかかった『純人真理教団』なら、今頃二人の命は無いかもしれない。よくても、モルモットだ。
「助けに行ってくる」
店の外に出ると、慌てて駆けつけたのか寝巻のままバイクに乗って来たアキカがいた。
「ミズナ、何、これ……?ねえ、私、夢見てる感じ?」
「現実だよ。アキカ、バイク貸して」
「え?まあ、いいけどさ」
アキカから鍵をひったくって、バイクに跨ってエンジンをかける。
「どこ行くの?」
「助けてくる」
「それなら、私も行く」
アキカが後ろに乗ろうとするのを遮って、そのまま走り出した。素人は邪魔でしかないからだ。それに、彼女を死なせるわけにもいくまい。
茫然と立ってるアキカを背に、人ごみの中を駆け抜ける。何回か引きかけたが止まらないで走り続けた。
目的地は12区の倉庫。ハイウェイに入って、料金所のバーを突き抜けて時速120kmで走る。
時間が足りない。一分、一秒でも早く駆けつけなければ、二人は死ぬ。ソシキの、しかもイラガのことだ。もうすでに死んでるかもしれない。
タイジュがいない世界。
リントもいなくて、酒飲みのリツもいない。カナタの暴言も無くて、アキカのウザさもない。タイジュが笑ってくれることも、泣いてくれることも、怒ることも二度とない。
それは、とても嫌だ。
ハンドルを切って外の作業中の連中に突っ込む形でバイクを横付けして、薬を入れる。
薬液が血管を伝って首筋から全身に広がっていく感覚。視界が赤くなって、鼻血を腕で拭って、無視して斧と銃を握りしめた。
「何者だ!?」
「襲撃だ!!正体不明1人!負傷者3名!」
無線に向かって叫んでる奴らの首を斧を抜くと同時に落とす。鳴り響く発砲音。弾道は音で分かるので、斧で弾じきながらこちらから眉間に撃った。
格闘で挑んでくる奴は手足を切って、首を刎ねる。スナイプする奴は射線を切って無視して倉庫に進み、ドアを蹴り開けた。
喉の奥から血が溢れる。すぐに、ペットボトルの水で口を濯いでその場に吐き捨てた。
時間はあまり無いようだ。
倉庫内で運搬している奴らを押しのけて、奥に進む。歯向かう奴は全員、バラバラにしてやった。
オーバードーズの影響か、足元で肉塊が蠢いて、肌を掴んで、登ってくるのを感じながらも先に進む。
三つ首の怪物か、一つしかない目玉で内臓を覗き込んできた。羽の生えた魚が酸素を吸って腹を抱えて死んでいく。
目の前に自分の首が転がっている。それを踏みつぶして、先に進んだ。
殺した。沢山殺した。
首を刎ねて、はらわたを引きずり出し、胸を切り裂き、手足をバラバラにして殺した。
息の根が止まるまで殺した。
倉庫の中に死体が積みあがっていく。何回か撃たれたが、痛みは無い。
ただ、自分の呼吸する音だけが聞こえる。
夕飯の料理をするように、決まった動作で殺していく。
誰がソシキの人間かなんて、もうよく分からない。現実世界が虚構の中へ溶けて混ざっていく。血の海を泳いでいく魚のように。
「28番、酷い様じゃねぇか」
「……」
銃声と共に現実に引き戻される。胸に注射器が刺さっていて、赤が広がっていた。
どうやら、遮断薬を撃たれたらしい。
ふらつきながらも、近くの手すりに捕まって何とか体勢を戻す。顔を上げるとスーツ姿の銃を構えたイラガの姿。
「首を斬っても死なないなんて、化け物すぎるって」
「今も、お前に斬られた首が痛むさ」
イラガは首筋を摩る。どうやら、頭以外全て機械にして生き残ったようだ。
「脳がよく腐らなかったな」
「最新鋭の機械化技術のお陰さ。それにしても、随分と醜い有様じゃないか」
「お陰様でね」
薬が切れてきて、気を抜けばすぐに倒れそうだ。だが、イラガを前にしてそんなことはできなかった。
薬をもう一本取り出す。
ここから先、何本使おうが、どうせ死ぬのだから構わないだろう。
「それにしても、流石ウッドカッター。銃で何発撃たれようとも、何度刺されようとも死なないとは。立ちどころに怪我が治っていくその様はまさしく、最強の怪物だよ」
「不適合者だったもんね、イラガは」
「昔の話さ。今では俺も、機械の体。お前と同じで、撃たれても刺されても死なないさ」
「試してみようか?」
「いいぜ、代わりに殺してやるよ」
銃を構えると同時に、薬を使う。さっきとは違い、意識はクリアなままだ。
血を流しすぎたのかもしれない。
だが、手足が動くなら構わない。
イラガが引き金を引くと同時に、傍に寄って銃身を当てて銃を上に向ける。すぐさまイラガがもう片方の腕で撃とうとするので、それを斧の腹で弾き、射線を逸らした。
逆にこちらが銃を撃つがイラガは体を捻って躱し、下から拳銃を突きつける。それを手で掴んで横に逸らすが腕をねじられて振りほどかれ、そのすきにもう片方の手で照準を定めてきた。
引き金を引くと同時に頭を横によけ、ローアングルから足を斧で切りつけるが、靴の裏で止められ、すぐさま銃口が顔に迫る。顔を逸らしたが、頬に熱いものが流れた。
すぐさま、ハンドアックスのスイッチを入れてレーザーをONにする。チーズのようにイラガの靴が溶け切れていった。
「くそっ」
すぐさまイラガが足を逸らし、間合いを取る。そこに向かって数発撃つが、機械の右腕で防がれた。
腕を縦にしながらイラガが駆け寄ってくるので、下に潜り込み掌底を顎に当てる。生身の脳が揺れたのか、イラガの重心がズレた。そこにすかさずハンドアックスで首を狙うが、炸裂弾で腕を撃たれて軌道が逸れ、鼻を斬るだけに留まった。
斧ごと右腕が宙を舞って遠くに飛んでいく。
「あー、マズいな、これ」
「どうした、ウッドカッター。こんなものか?」
「ぜんぜん」
イラガに何発か撃ちながら斧の方に走って向かう。そして、斧に手を伸ばそうとしたとき、イラガが斧を踏みつけ蹴り飛ばした。
そして、銃口を向ける。
「チェックメイトだ」
「……なーんてね」
背中のホルダーから斧をもう一振り取り出し、そのまま切り上げた。イラガが半分に裂ける。
「うぁ、が……」
「ウッドカッターは斧二本で戦う。親父の教えを忘れたのが、アンタの敗因」
まだビクビクと動いているイラガを無視して、倉庫の奥にあるコンテナを開ける。
イラガは基本的に人質を取るときはこういう場所に隠していたからだ。
案の定、そこには縄で縛られたリントとタイジュの姿があった。全身傷だらけで、大分血が流れていたが、息はしている。
すぐさま、ロープを切って怪我の状態を確認する。大した怪我は無さそうだった。
「……生きていて、よかったー」
ポケットから携帯端末を取り出した瞬間、膝から力が抜けてそのまま地面に崩れ落ちる。
いよいよもって、最期の時のようだ。タマエの番号に電話を掛ける。
「もしもし、ミズナ!どこにいるんだい!?」
「……12区3番東倉庫……二人は生きてる……」
そのまま電話を切り、留守番電話を押した。
「……タイジュ、私さ、二人で一緒に下階に行くのが好き……だったよ……あの豆の缶詰めのスープ、また飲みたかったな……」
相手に想いを押し付ける、身勝手な行動だと分かってる。だが、この気持ちを伝えないで死ぬのは嫌だった。
体がどんどん冷えていくのを感じる。
「……チャーシュー丼、一緒に食べに行けなくて、ごめん……リントに借金の事、ごめんって……伝えて、おいて……」
次の一息で、全てが終わる。
「……人殺し……だから……資格は……無い、けど……」
地面を這って、タイジュに近づき、その頬にそっと口づけをする。
「……好きだよ……」
もう、目も良く見えない。耳も聞こえない。
だが、こんなにも多くの人間を殺してきたからには、ここまで幸せなのが逆に変だ。だから、最後の最後まで、こんなにも幸せで一杯で……。
登場人物:
ツツミ=ミズナ:主人公。世界最強の殺し屋。ソシキを壊滅させ、幽玄城塞を救った英雄。その逸話は今でも語り継がれている。




