国王探し
フェンディアナ軍は、ついに王都パスフィールに到着した。
「王を助ける」という目標の、第一段階を達成した。ただし参陣した貴族たちにとっては、これまでの功績を国王に認めてもらい、加増されなければ意味がない。
フェンディアナ軍首脳部は、リビュール宮殿の謁見の間に招かれた。そこには、噂の聖女を見ようと多くの諸侯や廷臣が立ち並んでいる。
「国王は、聖女の謁見を華々しく演出しようとしておられる」
アーデランが、緊張した面持ちで謁見の間を見回した。
それは、彼らにとって誇らしく、そして明るい未来につながることを意味している。
「国王陛下のお成り!」
侍従が、抑揚を付けた独特の節回しで叫ぶと、参集者に緊張感が走った。
「ん? 階の上、妙ではないか?」
フォリンがいぶかしげに前方を眺める。
階の上には、玉座の前に三つの椅子が据えられている。そして、三人の男がその椅子に座った。
謁見の間が、ざわついた。
廷臣たちが、ヒソヒソと耳打ちしたり、クスクスと笑ったりしている。
フェンディアナ軍の面々は、謁見の間の端に立ったまま、困惑した。思っていた雰囲気とは異なる。廷臣たちは、フェンディアナ軍のことを笑っている。
一同は、居たたまれない気分に耐えながら、直立しているしかない。
式部官とおぼしき男が、階の下に進み出てきた。
「こたびは、陛下が面白き趣向を提供致す。本日謁見に参上した勝利の乙女なる者、女神フェンディアナの加護を受けた聖女なりという。聖女は、フェンディアナの啓示に基づいて王を助けに参ったとか。そこで、聖女に、フェンエルス王陛下を見分けていただこう」
参集者たちは、「おおぅ!」などと言いながら、感嘆している。
「さすがは陛下。面白き趣向」
「噂の聖女の奇跡、しかと拝見しよう」
「聖女なれば、誰が陛下なのか一目瞭然であろう」
言葉の端々に笑い声が混ざっている。明らかに、嘲笑の成分が含まれている。「聖女を僭称する田舎の農民風情」という嘲りに彩られている。
「乙女にそのようなことができるはずがない」
ダルボーズとシャルールは青ざめた。
シュリエと我らに恥をかかせるための趣向か。
国王の顔を知っていれば、事前に特徴を伝えることもできたが――。
ダルボーズもフォリンもアーデランも地方の小領主に過ぎず、フェルノフェシス五世の顔など知らない。
「我らもここまでか」
シュリエが国王を見分けることができなければ、彼女を奉じた全員が嘲笑され、恥辱にまみれて王宮を追われることになるだろう。それだけではない。偽聖女に騙された道化者として、恥の厚化粧を施されて笑いものにされ続ける。
そうなれば、自害して果てる以外にない。
「待て……。陛下など、居ないぞ」
「何!?」
ラ・ジョーム伯が顔を蒼白にして、脂汗を浮かべている。彼は、爵位貴族として王宮に上がったこともあり、フェルノフェシス五世の顔も当然ながら知っている。
「どういうことだ?」
「あの三人の中に陛下はいらっしゃらぬ。アンディーム伯とアンディン公、そして王弟ダルレアン公だ」
「何ということか……」
三分の一の確率のまぐれ当たりすら期待できないとは。
このような罠を仕掛けられたこと自体が恥辱だ。
廷臣たちの笑いの原因はそれか。
誰を選んでも誤り――その姿を想像しているのだろう。
ダルボーズは、歯を食いしばってうつむいた。
なぜこのような仕打ちを受けるのか分からない。知らないうちに王の不興を買っていたのだろうか。
シャルールは、ダルボーズらを醒めた目でみつめた。国王の趣向には驚かされたが、考えてみればシャルールが失うものは何もない。屈辱に唇を噛む貴族たちを人ごとのように観察する余裕がある。
これが国王の宮廷。これが貴族たち――。
◆
シュリエは、ア・モランシーと共に三メルほど離れたところに立っていた。
ア・モランシーは、謁見の間の空気を敏感に感じ取っている。
不審。猜疑。嘲笑。そして失敗への期待。
不遜な農民の失墜を心の底から願っている。
卑小な連中よ。
だが、負の感情が強ければ強いほどよい。
もうすぐ、この空気は引っくり返る。
フェルノフェシス五世は女神の寵愛を受けた揺るぎなき国王として君臨することになる。
後は、シュリエに「この中に陛下はいらっしゃいません」と言うように伝えるだけ……。
ア・モランシーは、緊張で固くなっているシュリエの両肩をポンとたたき、ささやくために口を耳元に寄せ……。
寄せようとしたとき、シュリエはスタスタと歩き始めてしまった。両肩をたたかれたことを、始まりの合図と勘違いしてしまったらしい。
シュリエは、両側に控える群臣たちの中を、階に向かって進んだ。
ア・モランシーは、大事な言葉を伝えるきっかけを失った。追い掛けていって何かささやいたら、答えを教えていることがバレてしまう。
もはやこれまで。
奥歯をかみしめながら、シュリエを睨むことしかできない。国王肝いりの趣向は、失敗した……。
シュリエは皆の絶望など知る由もなく、歩き続け、そして途中で止まった。
皆、彼女の不審な行動に首をかしげる。
シュリエは、左右に立ち並んでいる群臣の一人の前にひざまずいた。
「シュリエ・ラ・ペです。初めまして、王様」
そこには、群臣に紛れたフェルノフェシス五世が居た――。
元ネタは、もちろん……アレ。




