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『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』  作者: 雨宮ぐみ


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第3話 この子、いったい何者!?

『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』


――まえがき――


もし、あなたが古い写真の中にいる青年に――


一目惚れしてしまったら、どうしますか?


しかも、その青年が生きていたのは、今から80年も前。


名前しか知らない。


どんな声なのかも、どんな性格なのかも分からない。


もう二度と会うことなんてできない。


……普通なら、そう思いますよね。


16歳の女子高生、五十嵐ひまりも、最初はそう思っていました。


夏休み。


母親の実家で偶然見つけた、古いアルバム。


そこに写っていたのは、昭和十九年の海軍兵学校の学生たち。


その中にいた、一人の青年――如月健一、18歳。


ひまりは、写真を見た瞬間に恋をしてしまいます。


「……かっこいい」


「どんな人だったんだろう」


「どんな声で話すのかな」


「笑ったら、どんな顔をするんだろう」


写真の中の彼を眺めながら、どんどん想像を膨らませていくひまり。


そして、叶うはずのない願いを口にします。


「夢でもいいから……会ってみたい」


ところが、その夜。


写真が不思議な光を放ち――。


気を失ったひまりが目を覚ますと、そこは昭和十九年。


そして目の前には――。


「大丈夫か?」


写真の中の青年、如月健一が立っていました。


「…………え?」


「どうした?」


「……健一さん?」


「なぜ、俺の名前を知っている?」


こうして始まった、80年の時を越えた二人の恋。


現代の女子高生と、戦時中を生きる海軍兵学校の青年。


スマートフォンも、コンビニも、SNSも知らない健一。


そして、昭和の生活や戦時下の常識をまったく知らないひまり。


二人が一緒にいるだけで、毎日が大騒ぎ。


笑ったり、喧嘩したり、嫉妬したり。


時には胸が締めつけられるほど切ない時間を過ごしながら、二人は少しずつ本当の恋を知っていきます。


しかし――。


二人の間には、決して越えることのできない「時代」という壁がありました。


そして健一は、戦艦大和へ。


「必ず帰ってくる」


「待ってる。絶対に待ってるから」


二人は未来を約束します。


けれど――。


戦争という大きな運命が、二人を引き離してしまいます。


それでも、ひまりの恋は終わりません。


80年の時を越えて、もう一度――。


大好きな人に会うために。


これは、写真から始まった恋が、時代を越えて奇跡を起こす物語。


笑えて、キュンとして、時々泣ける。


そして最後には、きっと笑顔になれる。


『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』


どうぞ、ひまりと健一の80年越しの恋を――最後まで見届けてください。

第3話 この子、いったい何者!?


「健一ー!」


遠くから聞こえてきた声に、健一が振り返った。


こちらへ駆けてくるのは、海軍兵学校の学生らしい青年だった。


「こんなところにいたのか。探したぞ」


「悪い」


健一が答える。


青年はそこで、ふと足を止めた。


そして――。


ひまりを見る。


「……ん?」


ひまりも青年を見る。


「誰だ、この子?」


「それが……」


健一は困ったようにひまりを見た。


「俺にも分からない」


「は?」


青年は目を丸くする。


「分からないって、お前……」


「さっき突然、ここに倒れていたんだ」


「倒れていた?」


「そうだ」


「怪我は?」


「ないみたいだ」


青年はひまりの姿をじっと見る。


ひまりは制服姿。


スカート。


ブラウス。


そして、令和では当たり前の格好だ。


しかし、この時代では明らかに見慣れない服装だった。


「……その服」


「え?」


「どこの学校の制服だ?」


「えっと……」


ひまりは言葉に詰まった。


どう説明すればいい?


令和の高校の制服です。


私は80年後の未来から来ました。


不思議な光に包まれてタイムスリップしました。


――そんなことを言ったところで、信じてもらえるわけがない。


「……普通の制服です」


「普通?」


「はい」


「見たことがないが……」


「……ですよねぇ」


ひまりは小さく呟いた。


すると、青年が健一に顔を近づける。


「おい、健一」


「何だ?」


「まさか……」


青年が意味ありげな顔をする。


「お前の知り合いの女の子じゃないだろうな?」


「違う!」


健一が即答した。


「なんだ、そんなに慌てなくてもいいだろう」


「本当に知らないんだ」


「じゃあ、なおさら変じゃないか」


「それは……」


健一も答えられない。


ひまりは二人の会話を聞きながら、心の中で思った。


――そりゃそうだよね。


自分だって分からない。


どうしてここに来たのか。


どうして昭和十九年なのか。


どうして健一が目の前にいるのか。


何一つ分からない。


「……あの」


ひまりが口を開いた。


「私、本当に何も分からないんです」


二人がひまりを見る。


「気がついたら、ここにいて……」


「名前は?」


青年が尋ねる。


「五十嵐ひまりです」


「五十嵐……」


青年は考えるように眉を寄せる。


「家は?」


「大阪……」


「大阪?」


「はい」


「ここまで一人で来たのか?」


「違います!」


ひまりは慌てて首を振る。


「そうじゃなくて……」


「じゃあ、誰と来た?」


「……」


答えられない。


母親と一緒に祖母の家に来た。


その夜、自分の部屋で眠った。


そして光に包まれて――。


目が覚めたらここにいた。


「……お母さんと一緒でした」


「母親は?」


「……いません」


「はぐれたのか?」


「……たぶん」


「たぶん?」


青年が首を傾げる。


ひまりはますます困ってしまう。


「私にも、分からないんです……」


その声が少し震えた。


すると――。


健一が一歩前に出た。


「もういいだろう」


「健一?」


「この子も混乱している」


健一はひまりを見る。


「今は無理に聞かないほうがいい」


「……でも」


「俺が預かる」


「え?」


ひまりが目を丸くする。


「健一さん?」


健一はひまりに向き直った。


「とりあえず、落ち着ける場所へ行こう」


「でも……」


「大丈夫だ」


「……」


健一は少しだけ優しく笑った。


「俺がいる」


「……っ」


その言葉に、ひまりの胸がドクンと鳴った。


――やばい。


――かっこいい。


写真で見たときも素敵だった。


でも――。


本物は、もっとずるい。


「……はい」


ひまりは小さく頷いた。


「じゃあ、行こう」


健一が歩き出す。


ひまりもその後をついていく。


数歩歩いたところで――。


「……あの」


「何だ?」


「手、つないでもいいですか?」


「…………」


健一が立ち止まった。


「……なぜ?」


「迷子になりそうだから」


「ここはそんなに広くないぞ」


「でも、私、80年前にいるんですよ?」


「……」


「不安なんです」


ひまりが少しだけ上目遣いで見る。


健一は困った顔をした。


「……分かった」


差し出された手。


ひまりは恐る恐る、その手を握った。


「……!」


大きい。


温かい。


写真では絶対に分からなかった。


――本当に、生きてる。


ひまりはその手を見つめた。


健一は少し照れたように前を向く。


「……これでいいか?」


「はい!」


ひまりは嬉しそうに笑った。


その様子を後ろから見ていた同期生が、ニヤニヤする。


「健一」


「何だ?」


「随分、面倒見がいいじゃないか」


「困っているんだから当然だ」


「ふーん」


「なんだ、その顔は」


「別に?」


「……」


健一はため息をついた。


---


しばらく歩いて――。


ひまりは周囲を見回した。


「……本当に、昔だ」


「何?」


「いや……」


道を歩く人々。


見慣れない服装。


古い建物。


自動車もほとんど見かけない。


そして何より――。


スマートフォンを触っている人が一人もいない。


「……スマホ……」


ひまりはポケットを探る。


やっぱりない。


「どうした?」


「スマホがない……」


「すまほ?」


「電話です」


「電話ならあるだろう」


「そうじゃなくて……」


ひまりは頭を抱えた。


「写真も撮れるし、動画も見られるし、友達とも話せるし……」


健一は真剣に聞いている。


「それは随分便利な電話なんだな」


「そうなんです!」


「それほど大切なのか?」


「大切です!」


ひまりは即答した。


「私の世界では、みんな持ってます!」


「みんな……?」


「小学生だって持ってる子いるし」


「……」


健一はしばらく黙っていた。


「君の時代は、随分変わっているんだな」


「はい」


ひまりは苦笑した。


「でも……」


少しだけ寂しそうに空を見る。


「今は、誰とも連絡できないけど」


健一が横目でひまりを見る。


「……寂しいか?」


「うん」


ひまりは素直に頷いた。


「お母さん、大丈夫かな」


「……」


「友達も心配してると思う」


健一は何も言わず、握っていた手に少し力を込めた。


「……帰れるといいな」


「え?」


「君の時代に」


ひまりは健一を見る。


「……はい」


その優しさに、胸が少し温かくなった。


---


やがて、二人は建物の前に着いた。


ひまりはそこを見上げる。


「ここは?」


「俺たちが生活している場所だ」


「海軍兵学校?」


「ああ」


「……本当に来ちゃったんだ」


ひまりは呆然とする。


昨日まで令和の女子高生だった自分。


それが今は――。


昭和十九年。


海軍兵学校。


そして目の前には、写真の中にいた青年。


「……夢じゃないんだ」


ひまりは小さく呟いた。


「健一さん」


「何だ?」


「私……」


少し迷ってから、ひまりは言った。


「本当に、未来から来たんだと思います」


健一は黙ってひまりを見る。


「……そうか」


「信じてくれるんですか?」


「まだ信じたわけではない」


「えー!」


「だが……」


健一はひまりの目を見る。


「君が嘘をついているようには見えない」


「……」


「だから、しばらく俺が君の面倒を見る」


「本当?」


「ああ」


「ありがとうございます!」


ひまりの顔がぱっと明るくなる。


その笑顔を見て――。


健一も、ほんの少しだけ笑った。


ひまりはその笑顔を見逃さなかった。


「……!」


――笑った。


写真では見られなかった笑顔。


「健一さん」


「何だ?」


「今、笑いましたよね?」


「……笑っていない」


「笑った!」


「気のせいだ」


「絶対笑った!」


「うるさい」


「ふふっ」


ひまりは嬉しそうに笑った。


80年前の世界。


右も左も分からない場所。


不安なことだらけ。


それでも――。


写真の中でしか知らなかった青年が、今、自分の隣にいる。


ひまりはまだ知らなかった。


この日から始まる毎日が――。


自分の人生で一番大切な時間になることを。


――第3話・終――

『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』


――あとがき――


最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。


『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』はいかがでしたでしょうか?


この物語は、令和を生きる16歳の女子高生・五十嵐ひまりが、古いアルバムの中に写っていた青年・如月健一に一目惚れするところから始まりました。


「写真の中の人に恋をする」


普通なら、絶対に叶わない恋です。


けれど、ひまりの「会いたい」という強い想いが時を越え、二人は昭和十九年で出会います。


最初は、現代っ子のひまりと、真面目で少し不器用な健一。


時代も違えば、生活も価値観も違う二人でした。


それでも、一緒に過ごす時間が増えるにつれて、少しずつ惹かれ合い、恋人になっていきました。


二人の恋を描くうえで大切にしたかったのは、戦争そのものではなく、その時代の中でも誰かを好きになり、笑い、未来を夢見た若者たちの気持ちです。


健一にも、ひまりと一緒に過ごしたい未来がありました。


ひまりにも、健一と一緒に見たい未来がありました。


「また海を見よう」


「必ず帰る」


そんな普通の約束が、戦争によってどれほど大切なものだったのか。


だからこそ、二人が離ればなれになる場面は、物語の中でも特に大切にしました。


そして最後は――。


80年前には叶わなかった二人の約束を、令和の時代でもう一度。


健一の生まれ変わりとひまりが再会することで、二人の恋にもう一度、未来を与えました。


80年前にできなかったこと。


一緒に映画を見ること。


令和の街を歩くこと。


スマートフォンを見ること。


そして、何より――。


誰にも引き裂かれることなく、好きな人の隣にいること。


今度こそ、二人にはそんな普通の幸せを手にしてほしい。


そんな願いを込めています。


もし、物語を読み終えたあとに、


「ひまりと健一、この先どうなるんだろう?」


「令和で二人はどんな恋愛をするんだろう?」


そんなふうに想像していただけたなら、とても嬉しいです。


写真の中の一人の青年に一目惚れした少女。


そして、80年という長い時間を越えて、もう一度巡り合った二人。


恋は、時代が変わっても消えない。


そんな奇跡を、二人から感じてもらえたら嬉しいです。


最後まで、ひまりと健一の恋に付き合ってくださり、本当にありがとうございました。


またどこかで、二人に会える日が来るかもしれません。


そのときはきっと――。


「健一くん、令和へようこそ!」


「……ひまり。まずはスマートフォンの使い方を教えてくれ」


「そこから!?」


そんな二人の声が聞こえてきそうです。


それでは――。


『私の彼は、80年前の軍服男子でした‼』


これにて、二人の最初の物語は幕を閉じます。


最後まで読んでくださったあなたへ。


本当に、ありがとうございました。

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