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誰があんたを好きだって?  作者: 伽藍


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3/7

3rd

「――なーんて、言っちゃったけどね」


 数日前に送ったメッセージを見返して、わたしは嘆息した。顔が引き攣ったのが自分でも判る。


 冗談混じりに誘ったわたしへの返信を見たのは、その日の午後の業務が終わってからだった。

 画面をスクロールさせて、数日前のやりとりを睨みつける。


『マジかー、ご馳走様でーす!』

『いやご馳走様でーすじゃねーよ』

「いやご馳走様でーすじゃねーよ」


 思わず、あのときにした返信がそのまま口から飛び出した。


「ゆき、どうかした?」


 話しかけられて、わたしははっと我に返った。気づけば、正面に座る友人が呆れたようにこちらを見ている。

 学生時代の友人とパンケーキを食べに来ていたのだった。状況を思い出して、わたしは苦笑いで誤魔化した。


「やー、ごめんごめん。ちょっと思い出し怒りを」

「思い出し怒り」


 おかしな日本語が面白かったのかぽつりと口の中で反芻して、友人が首を傾げる。


「SNS見てたの?」


 スマホの画面が見えたらしい。二人でいるときにお互いスマホを触っていることなんてよくあることだから、咎めているのではなく単純な好奇心だろう。


 少し考えてから、わたしはふと思い出した。

 社会人になると、中学時代の友人か高校時代の友人か大学時代の友人かなんてどんどんあやふやになるものだ。けれど、考えてみれば彼女は中学からの友人だった。


「あー、ほら覚えてる? 川瀬亮」


 もご、と友人がパンケーキを食べていた口を止める。ぱちり、と大きな瞳が瞬いた。

 しばらくしてまたもぐもぐと食べ始めて、飲み込んで、きっちり紅茶まで喉に流し込んでから口を開く。


「……ダンナ」

「誰がじゃ!」


 反射的に言い返した。

 同時に、余計なことまで思い出す。当時しょっちゅう絡んでいたわたしたちを、クラスメイトの何人かは面白がって夫婦呼ばわりしていた。その中の一人が、彼女だった。


 中学の頃と言えば、男女が二人で話しているだけでも付き合っているんだろうとか騒がれるような時期だ。よくある話だし、実際わたしも今の今まで忘れていたのだけれど。

 ……ちょっと、話す相手を間違えたかも知れない。キラキラと輝く乙女のような眼を――別の言い方をすれば、餌を前にした肉食獣のような眼を――している友人を見て、わたしはこめかみを揉んだ。


「なんだ、ヨリ戻したんじゃん」

「いや、ヨリも何も付き合ってないし、もともと。好きでも何でもないし」

「でも連絡取り合ってるんでしょ?」


 つい、と友人の細い指が示したのはわたしのスマホだった。思わずスマホを手で隠す。

 隠してから、わたしは自分の失敗を悟った。これでは、SNSで連絡を取り合っているのが川瀬亮だと自白しているようなものだ。


 案の定、墓穴を掘ったわたしに確信を得たのか友人の瞳が輝きを増す。


「へえーそうなんだふーん」

「いやいや何もそうじゃないよ判ってないでしょ」

「で、川瀬と連絡取り合ってるの?」

「いや、」

「で、川瀬と連絡取り合ってるの?」

「…………はい」


 友人の圧力に屈して、わたしは頷いた。元々、嘘は得意な方じゃない。

 眼の前のパンケーキのことなどすっかり忘れたような顔をしている友人の視線から逃れるために、わたしはスマホに視線を落とした。


「えー、良いじゃん良いじゃん。二人で会ったりしてるの?」

「会わないよ、会う用事もないし」

「恋人は?」

「恋人……」


 言われて、わたしは動きを止めた。


 あいつに恋人がいるかなんて、考えたこともなかった。

 運動が出来る訳でも、イケメンな訳でもなくて、おまけにチビで毒舌なやつだったから、中学の頃はそんなにモテていなかった、と思う。わたしの中の亮はいつまでも中学の頃のイメージのままで、だから恋人という言葉とはどうしても繋がらない。


 まさか、と言いたくなるのを堪えて、わたしは興味がないという顔をしてこう返す。


「――いるんじゃないの、いい年なんだし」

「本人が言ってたの?」

「いや、訊いたこともないけど」

「ならワンチャンあるかもよ」


 思い出したようにパンケーキの最後の一欠片を口に放り込んで、友人がにやり、と笑う。パンケーキ大好きで、おっとりとした雰囲気で、いつも全身を可愛らしい服でまとめている友人だけれど、彼女はこういう表情がとても似合う。


「とりあえず、恋人がいるかだけでも訊いてみれば?」


 何が『とりあえず』なのかさっぱり判らないまま、わたしは曖昧に頷いたのだった。

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