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第1話:『間違わない。』(4)

「わたしが、たとえどんな代償払ってでもさ――――――!!」


 ガシャン――とガラスが割れる音が耳をつんざいたような気がしたけれど、気付けばわたしってば、自称女神(アイツ)を映し出していた鏡を真正面からぶん殴った体勢で。

 しまった、怒りに任せて突っ走るんじゃなかった、なんて今さら後悔してももう遅い!

 誰かを殴るなんて考えたことない現代人のへっぽこフォームが鏡映し――なんてオチだったらどれほどよかったか。


「んぐ…………い゛っ――」


 要するにわたしのグーパンチがヒットしたのは、祭壇にあったあのステンドグラスだったわけで。


「い゛っ――――――っだぁ「――――きゃぁっ―――――?!」――――っ!!」


 ギャグ漫画なら真っ赤に腫れ上がっただろう右手を庇い、女子力なんぞそっちのけで干からびたカエルみたいに引っくり返り、どたばたとのたうち回ってしまう。あまりの激痛に顔面しわくちゃに歪めながら。

 とめどなく流れる涙と鼻水。ステンドグラス硬すぎるにも限度があるだろうが!

 いや、ちっとも笑い事でなくて、ここまでの激痛だと肉か骨かどっちかが深刻なダメージ――

 ところで天地逆転中なわたしの視界に映り込んでる白いかたまりみたいなの、ナニ?

 その()()()がわたしの髪の毛を踏んづけやがったところで視線がカチ合って、朽ちた教会の礼拝堂に素っ頓狂な声がハモった。


「「へっ――――――??」」


 暗がりのステンドグラスを淡く色付かせている光の下で。

 そりゃあもうキョドって後ずさるしかないじゃん。

 場違いなほど幻想的な、ほの暗いお花畑に立ちつくすわたし。

 そのすぐ足もとに、きょとんとした〝その子〟が――なんかすっごい女の子女の子した座り方でこっちを見つめてくるじゃないか。


「………………えっ、天使……」


 うっかり漏れ出たため息みたいなトーンで、誰に言うでもなく彼女のお姿をそう表現してしまった。


 白い。とにかく白い女の子としか語彙が出てこなかった。

 まずふわふわのウェーブがかった超ロングな髪が真っ白だし、どういう構造になってるのかよくわかんないマントみたいなワンピースも、肩からスカートの裾まで白基調。

 露出抑え気味なのに華奢な体のラインだけ浮き上がらせていて、そこから伸びているか細い手もおみ足も――というか可憐極まりなくて造形のよさみしかないお顔がそもそも色白すぎて、とにかくビジュがうるわはかないったらありゃしなくて、嗚呼もはや表現力がバグってきてないか。

 とにかくなんて小さくて細くて白い子なんだ……。

 ぜったい年下だと思うけど、わたし自身がいろいろとデカい身体的コンプレックス持ちなせいで羨ましすぎるというか、こんな美少女からしか摂取できない栄養素があるのでこの世界に存在していてくれて大変ありがとうございますというか。

 とにかくわたしってば、どうにもこうにも感情ハチャメチャで魂から震えあがってしまってるんだが、果たしてこのノリで大丈夫なのか?


「……えっ、いいの? こんな展開、ほんとうにいいんだ……」


 ツンとした切れ長の目で、さながら気位の高い猫みたいにわたしを見上げてくる。

 すると、何に驚いたのか金色の大っきな瞳をパチクリとさせて、そのたびに蝶々みたいな白睫毛(一瞬()()()かと思った)を羽ばたかせて、とにかくにじみ出る神性と慈愛とでわたしのはぁとを射止めてくるではないですか。

 ――さながら天界より降り立ったエンジェル。ああ、語彙力に草。

 草じゃないが。そうじゃなくて、それよりもまず――――


「…………ねえ、あなたどうして泣いているの? その手、痛かったの?」


 コミュ障なわたしに代わって、天使ちゃんが下々の者に話しかけてくれた! ほんのり薄桜の唇で、恐る恐る――といった素振りで。

 こっちも恐る恐るのムーブで、さっきからじんじんしたままの右手に視線を移す。

 手の甲からぽたぽたと絶賛流血中だった。

 まあこれくらいどうでもいいや。あれほど浴びたこの子の返り血が、悪夢どまりで終わってくれたんだから。

 何がどうしてこうなったのか、頭の整理なんてちっとも付いちゃいねえ。でもこんなにさめざめと泣けてくるのは嬉しいからなんだ、わたし。

 痛む右手を庇いながら、空いた左手で涙を拭おうとして。

 ああ、でも汚れてちゃいやだろうな。涙とか鼻水を拭う前に、左手を差し出してみる。

 驚かせちゃってごめんね。わたしに助けを求めてくれてありがとう。

 満面とは言えない笑顔(涙)で、怖がらせないようゆっくり腰を落として、座り込んだ彼女に手を差し伸べようとしたら――


「……――っ!? ミナに触るなっ――!」


 あまりに唐突に、こっちの心臓が止まりそうなほど強い口調で拒絶されてしまった。

 怯えるように後ずさった彼女の体が――さっきまでそんなんじゃなかったのに、青白い光を放ちはじめたんだ。

 え……天使ちゃん発光するの?! それはまるで、わたしをキッと睨みつける彼女の苛立ちが漏れ出ているみたいで。


「頭のそれ……天使の……輪っか――わっ、ぷ?!」


 その光源らしき彼女の後頭部に目を奪われてしまった直後、唐突に視界が塞がり、土の味が舌に飛びこんできて。

 そいつが引っこ抜いて投げ付けられた花だと理解できたころには、走り去る天使ちゃんの後ろ姿を追うはめになった。


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