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第1話:『間違わない。』(3)

「いいよ、なら導入部はきみ向けにカスタマイズしてあげる。

 ようこそ、ウィズライクにしてローグライクにしてソウルライクな地下迷宮世界へ!

 有り余るダークファンタジーがアサヒの降臨を歓迎するよ」


 だーーーっ、ちょっと待てーーーーーっ!!

 なんだよその不穏ワード! 絶望しかないだろうがーーーーーっ!!


 そりゃあ、わたしだってわかってたけどさ……。

 だいたいヒトの気配ゼロだし、空も見えなきゃあの窓の向こうも漆黒の闇だし。

 まじでダンジョン?

 あるべき何かが失われた後の世界って感じなのはわかるけど。


「安心して。絶望的なダークファンタジー世界だからこそ、きみが呼ばれたんだ」


 いや、何をどう理解しても安心できそうにないんだが?


「かつて人類は地上から追放され、無限に広がるこの〈迷宮〉に幽閉された。

 でも〈迷宮〉にはこんな言い伝えが残されているんだ。

 いわく――地の底に追いやられた人類の前に天使が降臨して、彼らに裁きを与えた」


 あー……それってそこのステンドグラスの宗教画(やつ)と関係ありそ?


「そう。

 でも天使を恐れ命乞いをする人々の目の前で、その天使は突然――真っ二つに引き裂かれた」


 いやいや、急に真っ二つとか物騒すぎ。


「引き裂かれた天使の(むくろ)に光が射して、見たこともないほど美しい女性が現れたそうだよ。

 その女性は、失われたはずの地上からやってきたと人々に伝えたんだ。

 彼女はやがて〈聖女〉と呼ばれ、人々を地上へと導く救世主になったんだとか」


 ……………………。


「なんでそんな微妙な顔してるの? まあ、理解が早くて助かるって受け止めてOK?」


 うん、そうだね。〝異世界転生〟とか〝聖女〟っていうテンプレが自然と理解できた自分にしっくりきちゃっただけ。

 記憶喪失設定のくせ、そういうナゾの引き出しから出てくる知識がこわい。


「だったら説明は要らないね。

 アサヒ、きみはこの過酷な迷宮世界を救う〈聖女〉として召喚されたんだ。

 だからきみは、〈聖女〉にだけ与えられる強力な固有能力(スキル)を選ぶ権利がある。

 要するにぼくの役割は、召喚された〈聖女きみ〉にチートスキルを授けることなんだ。

 こうしてきみをコーディネートして、円滑にこの迷宮世界で〈聖女〉として活躍してもらいたいというわけ」


 ……………………。


「ちなみに選べる固有能力は、全部で一〇〇種類以上ある。

 過酷なこの〈迷宮〉で生き延びるための重要な力だ。

 まずは自分のステータス画面を開いて確認してみて?

 その中からきみが好きな一〇スキルを組み合わせるんだ。

 さあ、これからぼくと一緒に考え――」


 ――悪いけどさ、その話もうそれくらいでいいよ。


「……ん、どうしたのアサヒ?

 ああ、ごめん。いきなり情報量が多かったかな?

 きみをこの手のノリに適応力があるタイプだと決めつけてしまっていたから――」


 最初からずっとヘンだって思ってたんだ。

 あんたの話を疑ってるっていうよりはさ、たぶん――わたしの方がヘンになってるってようやく気付いたんだ。

 あんなに気分が悪かったはずなのに――絶叫したいくらい感情むちゃくちゃだったのにさ。

 ……――あんた、わたしの頭になんかしたよね?


「………………おかしなことを気にするんだね。

 でもそうだね、確かに。少しだけきみの認識を補正させてもらった。

 転生の代償に過去の記憶をもらったのと同じ仕組みさ。

 転生直後の強制イベントとはいえ、きみみたいな十代にあの光景は凄惨すぎたからね。

 だって、取り乱したきみとこうして冷静に話し合えるはずがないもの。

 必要な緊急措置だった。理解してほしい」


 ああ、やっぱりそうだったんだ。

 あんたの言うとおり、本来のわたしって、きっとこうやってフツーでいられるわけない臆病な人間だったんだろうな。


 要するにさ、

 ()()()()()()()をわたしが考えないように、女神サマ(あんた)はわざと誘導してた。


「一番大事なこと?

 だからきみがなすべき大事なことを、こうしてぼくが説明してあげているじゃ――」


 ――だからなんなんだよ、救世主で聖女サマってさあ!

 わたしって。そんな救いのない理由でわたしって転生させられたの?

 ほら……()()()をっ! こんな……惨くて、こんなにも酷い姿にしてまでなの?


「……………………アサヒ、きみって子は」


 アタマ抱えたいのはわたしの方だよっ。

 こんな小さな子が惨い死に方して。それもわたしが転生したせいでこうなったって言った?

 真っ二つってさ……わたしとそんな変わらない子だぞ?! 女の子が真っ二つってなんなんだよ。

 きっと痛くてつらくて苦しかったろうに……。

 なのに聖女だ、スキルだ――って、わたしもあんたもどっちも狂ってんじゃん!

 女の子の亡きがらが足もとに横たわったまましていい話じゃないだろ。

 なのにわたし、返り血まで浴びときながら、ついさっきまでなんの痛みも罪悪感も感じてなかった。

 最初からこの子の亡きがらを見なかったことにして、とんとん拍子でストーリー進行だなんて……。

 こんなの絶対にイカれてる。


「…………はあ。

 〝ぼっちでコミュ障の陰キャ〟――だったね。

 見方を変えれば、他人とつるまない一匹狼。

 口下手だけど正義感が強くて勇敢な少女――というのがアサヒという人間の本質だと理解していたんだけど、

 どうやらぼくの認識にずれがあったようだ。

 とにかくさ、台本にない我が儘を言わないで。

 そこの天使はね、きみという〈聖女〉を召喚するための舞台装置にすぎないんだ。

 この物語のスタート時点で、〈聖女〉召喚の代償に天使は必ず死ぬ(ほろびる)。そういう運命なんだ。

 そもそも天使とは、咎人に裁きを与えるっていう大義名分で人類を殺戮してきた側の存在だ。

 だからこそ天使を唯一殺せた〈聖女〉は、救世主として民から絶大な崇拝を得た。

 そんな聖女伝承になぞらえた登場だからこそ、〈聖女〉の再来であるきみはこの世界の新たな光となる。

 なのにいきなりルートを逸脱して舞台装置に感情移入とか。

 偽善者――だなんて言いたくはないけれど、きみの頭はお花畑だ。

 感情的になって善悪の判断が付かなくなっている」


 善悪? 舞台装置?

 物語だ、運命だなんてふざけんな。

 物語だって言うんなら、プロローグ時点でこんなバッドエンドルートなんて認めるもんか。

 逃げ出したいのに! ……もういやで、つらくて、こわくて逃げ出したくたって、

 どう足掻いてもわたしにとっての主人公って自分わたしでしかないんだぞ……。


「ちょ……待って。きみが泣くほどのことなの? だからこれは――」


 ――わたし、チートスキルなんて要らんっ!

 聖女にも……ならん。

 ぜんぶ……なにも要らないから……転生なんてできなくていいから…………。

 わたし死んだままでぜんぜん構わないから…………だから……この子を……。

 ……この子を……助けたげてよ…………。


「不可能だよ。

 新しい〈聖女〉の到来を渇望した者がこの世界にあらわれたんだ。

 ――どうか、どうかこの世界を救ってほしい。

 そんな悲痛な願いと、〈天使〉という神秘そのものが供物になって、遂に〈聖女〉の伝承が再現された。

 そうして召喚されたのがアサヒ――つまりきみだ。

 それがこの世界の理、システムなんだ。

 だから、この願いは必ず成就される。

 きみも全ての過去を捨てることで、然るべき代償を払った。

 物語の歯車はすでに噛み合っているんだ。もう誰にも覆すことはできない」


 願い? 誰の? 悲痛ってどんくらい?

 救うもなにも、開幕〇・五秒で女の子を泣かせる方がよっぽど悲痛だっての。


〝――だれか……助けて…………死にたくない――――――!!〟


 ところであんたさ、やっぱり()()()()()()()()()()()()()んだね。


 最初にさ、わたしには声が聞こえたんだ。

 まるで心の底から絞りだした悲鳴みたいな、女の子の声。

 あれがこの子の願いなら、絶対に叶えてあげなきゃだよね。


 ――物語なら絶対ハッピーエンドがいい。

 これが現実リアルならなおのこと諦めてやるもんか。

 うん。わたし、間違ってない――今度こそ絶対間違うもんか。

 わたしが、たとえどんな代償払ってでもさ――――――!!



 啖呵を切ってそう吐き捨てると、わたしは目の前に立ち塞がる鏡面目がけて思いっきり拳を叩きつけてやった。


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