第1話:『間違わない。』(2)
「――はいはい、はーい、ストップ! 落ち着けっ!」
あれれ、ヘンだな。確かに気分が――なんでか急に楽になった?
っていうか、こんなでっかい鏡なんてココにあったっけ?
うっわ、まーた髪ボサボサになってるし。
うがあ~。自分かわいくなさすぎ。
なんでこんな図体に育ち盛っちまったのかなあ。この目つきもさあ。
ていうかなんでわたしスカジャーの埴輪ルックなん? ……ださ。
ていうか――なんでわたしリュック背負ったままなんだっけ?
ガッコの制服って……通学途中か?
…………わたし、そもそも何してたんだっけ?
ん、なんだか……だんだん思い出せてきた、かも?
わたし、さっきまで血まみれだったんじゃね? 血ぃどこいったよ。
なんかメンタル崩壊寸前だった気するけど、だったら今のわたし冷静すぎ。逆にヤバくね?
そっか、わかっちゃった! ――――ここでまさかの夢オチだ。
いやあ、世界マジ終わたと思ったあ。わたし生きれててよかったあ!
なんならアレが悪夢だとしてもめっちゃ助かる。
……ってか、あれ……なんでわたし、こう……ポーズが??
「…………あんまクネクネ踊んのやめれ。違うしなんかこっちが恥ずかしいわ」
えっ、鏡のわたし……勝手に動いて喋った?! こわ。おもしろ。
「へえ、恐怖心を持ちながら面白がれるだなんて、きみってやっぱり変わってる。
でもそうじゃなくて、目の前にいるきみはきみとは別人!
便宜上きみの姿と声を借りることにしたんだ。
……もう、その顔ってどういう感情なの?
だって事情とか説明するにしてもさ、初対面キャラだと色々ややこしくなりそうでしょう?
でも自分との対話だったら、まだ気楽になってくれるかもって思いつきで。
きみはほら――きみ自身の言葉を借りるなら〝ぼっちでコミュ障の陰キャ〟だもんね?」
…………。
自キャラが自ボイスで自分にそれ言うのヒドすぎない?
いくら不撓不屈のメンタルなわたしでもさ、傷つきやすい急所ってもんがあんだよ……。
「ほら案の定、脳内でならびっくりするほど饒舌。
では、きみのメンタルが良好なうちに事実を伝えようか。
きみは死んだんだアサヒ――――宮川朝姫さん」
は――――――――――ハハ……。
そう。そっか。やっぱそうだよね。
だって足ちゃんとついてるし、
頭に輪っかとか生えてないし、わたしまだ超無事じゃんって。
ぜんっぜん超無事じゃねえ。現実逃避してました。秒で。
そっかあ、やっぱ死んでたかわたし。
なんとなくだけど、イヤで辛かった気持ちがこう……胸の奥底に、どんよりどよどよとね。
え……あー、いやいや待って。
いやいやいや。さっき、あ、「アサヒさん」って?
アサヒって誰、わたし??
…………え……そんな、じ、じじじじ、自分の名前くらいちゃんと思い出せる、し!
「なのに、自分がどんな死に方したかも思いだせないでしょ?
――でもきみはこうしてここにいる」
へへ……だとしたら、ここって天国的な場所なのかな……死後の世界?
え、はは……嘘。
こんな陰鬱な天国なくね? 地獄送りされちまう覚えないんですけど!?
なかったはず。なかったと言ってください。
あー……うー……。
なんかぜんぜん思いだせないな。アタマ全然まわんねえ。
さっきのグロシーン過ぎてパニクっちまってんのかな。
「前世の記憶をもらったんだ、死んだきみをこの世界に呼び寄せるためのエネルギー源として。
だからきみにはもう、思い出す名前もない」
待って待って、わたしそんな許可した覚えないんですけど!
「そうしなきゃ、そもそもきみはこうしてぼくと話せてすらいないんだよ?
だってきみはとっくに死んでしまったのだし。
それにほら……奇跡に代償って、つきものだからさ」
うへえ、悪魔だ。わたしってば悪魔の取り引きに巻き込まれているよっ。
でもでも、もしかして――もしかしなくてもこれって〈転生〉ってやつですか?
ですよねこれ。異世界転生。
ん? 待てよこれ転生で合ってんのか? わたしの赤ちゃんパートどこいった??
あーはいはい、皆まで言わんでいいですよ? 転生でお願いしゃす、ユーザークレームなんて滅相もございやせん。
つまり、つまーりあなたは――俗に言う〈女神さま〉的なポジションのお方で?
「きみをこの世界に呼んだのはぼくじゃないけど、
その仲介役と考えればまあ……そう解釈してくれるのが手っ取り早いかもね?
要するにぼくは、きみの姿を借りて対話してる女神と仮定しよう」
わたしの顔面で女神気取りされるのなんか腹立つなあ。
でも、いま冷静にこの状況考えてみたらさ。ああ、うん。自分自身にびっくりしてる。
だって異世界転生ってさ、新しい世界でもう一度人生やり直せるだなんて素敵かよってノリのやつじゃん?
でも。ああ、そっか。
最初からずっとモヤモヤしててさ。
死んで転生して、人生やり直せても全然うれしくないんだ、わたし。
「異世界転生が嬉しくない? それは意外だね、アサヒ。
まあわからなくもない。
きみには後悔、心残りがあるのか。
前世でのきみの最期は本当に、目を覆いたくなるほど理不尽なものだったから」
その記憶を奪っといて、そーゆうにおわせゼリフいいから。
わたしのモヤモヤ――いま一番説明してほしいのはそれじゃない。
目の前のことだけ教えて。なるべく三行で。
「……へえ。素のアサヒがこんなに勝ち気な子だとは予想外だ」
ムカつくからその顔でやめろ。
ああそうだよ。ありがたいことに強気になれるのは、女神サマがわたしの顔だからだよっ! わたしなんてどうせくそザコだかんな!
「いいよ、なら導入部はきみ向けにカスタマイズしてあげる。
ようこそ、ウィズライクにしてローグライクにしてソウルライクな地下迷宮世界へ!
有り余るダークファンタジーがアサヒの降臨を歓迎するよ」




