第2話:『ダンジョンクローラー』(3)
飛来したデカいトカゲ(ワイバーンもどき?)と一戦交えるなんて向こう見ずが起きるはずもなく、わたしはミナに手を引かれるがままに教会ロビーから脱出した。
よくよく考えてみれば、猟犬を連れてた追っ手の連中がどこから入ってきたか――って疑問点につながるよね。
まさかあの玄関口まで、ワンコを抱っこしながら、トカゲとのバトルもこなしつつ、絶壁をよじよじと登ってきたはずもなく。
「――こっちよアサヒ。かなり狭くなっているから、頭をぶつけないように気をつけて」
先導してくれたミナは、教会ロビー脇の扉から小部屋に入って。
小部屋の奥の、劣化した壁の下側にある小穴を指差すと、ミナはほふく前進でそこに入っていった。
小穴は、這えばわたしでも通れるサイズで、たぶん通気口か何かだ。
「出口はすぐだから、がんばって」
通気口内に生えてた草やらたい積物やらで服とか汚れちゃったけれど、進む先には白い光が見える。
「おお……あれこそは希望の光じゃ……」
なんて、窮地を脱したついでに感嘆してみせたものの、先行するミナが進むたびに小さなおしり(負けじと発光してる)を目の前でぷりぷりさせてるので、なんかこっちが気まずくなった。
そう。わたしの右腕もなんだけど、ミナ自身がほんのり発光してくれてるおかげで、通気口内の暗さでもそれなりの視界が確保できていて便利だった。さすが天使。さすが禁忌術式かっこわらい。
で、急にミナがこっちを振り返って、
「――アサヒ、そこ。じっとしていて――」
ミナが視線を向けた先――ちょうどわたしの右耳の近くで、なんか……うぞうぞと蠢くキモいのが。
「うひゃあっ!」
するとミナのおみ足がひゅんと伸びてきて、天井付近を這っていた超キモい脚のたくさんあるやつをためらいなく素足で踏みつけたわけ。
わたしの目の前にぱらぱらと降り注いだのは、まあ……塩しかないよね。
「安心なさいアサヒ。ヒトの子に害のある生き物でも、ミナには傷ひとつ付けられないわ」
唖然としてしまったけれど、これってミナの〈生物を塩に変える体質〉が何も変わってない証拠だよね。
「あ、ははは…………ミナったら意外と平気そ?」
「どうして? ミナはずっと平気よ」
「えっとね。ちょっと心配になっただけ。
塩に変えちゃった相手の記憶が……って話してくれたの、今さら思い出しちゃってさ……」
ミナの体質は、ただ触れた相手を塩に変えるだけじゃない。
塩に変えた人間の名前や境遇――つまり、本来知り得ないはずの記憶を知ってしまうらしいんだ。
そんなの知りたくないって、あのとき泣いてたのを思い出してしまって。
「――こういうのを〝心配性〟と言うのかしら?
ふふん。なら、ミナにとって初めての心配性を捧げた相手があなたになるわね!
おめでとうアサヒ。
でもこんなの取るに足らない命よ。小さき虫ケラなどに心を痛めるミナではないもの!」
いや嬉しいけど、そんなドヤ顔で虫ケラ呼ばわりとか。
この天使さま、ちょいちょい上位存在ムーブかましてくれるのがわかってきたような。
まあ一寸の虫にも五分の魂、ってのはわたし目線すぎかもね。




