第2話:『ダンジョンクローラー』(1)
「あらためましてミナ。わたしの名前、アサヒだよ。
ミナの味方。これからよろしくね!」
ミナにあらためましての自己紹介タイム。
もう一度服(?)を着てもらったあとで、そういえばずっと〝あなた〟呼びだったなって気づいたもんで。
「アサヒ。いままで聞いたことがない、不思議な響きだわ」
「うーん、あっちじゃ割とありきたりな名前なんだけどね。
ほら、わたしって――ココとは違う世界から来たじゃない?」
それこそ自分の生い立ちなんかも過去の記憶ごと自称女神に持ってかれちゃったけれど、どちらかといえば地味な女性名だって実感はある。
でも、どう伝えれば転生の経緯とか――それこそあの自称女神の話をミナと共有できるのか見当つかないな。
〈聖女〉とわたしの関係性についてもどう扱ったものやら。
「……ええ。ミナがあなたをこの世界に呼びよせてしまったことは認めましょう。
アサヒ。あなたはアサヒね。
ところでその〝アサヒ〟という名前に、どんな素敵な由来があるのかしら?」
純粋すぎる好奇心ですよ、といったミナのキラキラ&わくわく顔がグイグイ迫ってくる。
「ゆ、由来だなんて、そんなすごいお家柄とかドラマなんてわたしにゃないですぞ?
だって〝アサヒ〟ってさ、わたしの世界の言葉で、あ……ぁ……たっ……――んん??」
えっ、なんか舌がもつれた?!
わたしは〝アサヒとは朝に昇る太陽のことだ〟って伝えたかっただけなのになんでだ。
もしかしてこの感じ、前にも体験した?
「どうしたの、アサヒ?」
「……ん、ごめんねえミナ。わたし言葉に詰まっちゃったみたい。
へへ、まだこっちの世界に慣れてないのかなあ……」
うまく釈明できなくて、なんだかお茶を濁した的な言い方になってしまって反省。
「よし。じ、自称・め………………」
今度は〝自称女神〟って言おうとしたのに、やっぱり声に出すことができなかった。
いやいや、こいつはちょっと深刻かも。
挙動不審なわたしを見かねてか、不安げなミナが手を差し伸べようとしてくれている。
「聞いて、ミナ。わたしさ、うまく話せない言葉があるみたい」
「うまく話せないの? どうして?
間違いだったらごめんなさい。もしかして、アサヒは具合が悪いの?」
「ううん、だいじょうぶ、このとおり元気元気っ。でも何が原因なのかわかんなくてさ」
うーん、特定の言葉が話せない原因ってなんだろう?
「よし、これならどうだ。
――あんのウエメセ馬鹿オンナ。今度会ったらてめーのデコを地面に着けさせたる。
そんで、てめーの前で胸やけするほどミナとイチャコラしてやっぞこらぁ」
やった、今度は言えた! ミナが「えっやめて怖い」みたいな困り顔になってる、ごめん。
でもひとつわかった。あの自称女神がわたしを検閲してるわけじゃないっぽい。
まあアイツ、一人称〝ぼく〟だったし中身は男かもだけど。
「……あ、そっか。わたし、こっちの言語で話してるんだ」
これが正解かどうかは別として、わたしってたぶん、脳内でだけ母国語で考えてるんだ。
でも言葉を声に出そうとした時点で、なんか母国語じゃなくなってる。
つまりわたしの会話はこの世界の言語体系に翻訳されている――しかも自動的に、というのが真相では。
「あのね、わたしってこの世界にない言葉とかニュアンスは話せないみたい。
まあ、わたしがこの世界の言葉ぜんぶを知らないだけって可能性もあるかなあ」
この奇妙なズレを理解してもらえたのかはわからないけれど、ミナはハッとして、返す言葉に詰まってしまったみたい。
たとえば頭の中でなら〝太陽〟と言えても、〈迷宮〉に太陽なんてないから「太陽」に相当する単語もない。
だから「太陽」が言えない。
でも「アサヒ」なら言えてしまうんだよな。固有名詞だからか?
わたしがステータス・オープンできなかったのは、この世界では実は違う単語だったか、そもそもこの世界に端っからステータス概念自体が存在しない――
――ん? だったら〈聖女〉の固有スキルがどうのって話はなんだったんだよ。
まさかあの自称女神のやつ、本来あったはずのステータス概念をなかったことにしやがったとしたら? さすがに被害妄想すぎるかなあ。
とにかく。
どんな悪影響があるのかはわからないけど、この世界で他人とコミュニケーションが取れない場面が出てきたり、生きていく上で不利になったりしないか意識しないとね。




