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第九章 空白

最初は、ただの欠席だと思っていた。

体調が悪いのかもしれない。

用事があるのかもしれない。

そうやって、理由をつけて。

自分を納得させていた。

でも。

次の日も。

その次の日も。

玲王は、来なかった。

教室の後ろの席。

そこだけが、ぽっかりと空いている。

最初のうちは、何度も振り返っていた。

もしかしたら、来ているかもしれない。

遅れてくるかもしれない。

そう思って。

でも。

何度見ても、変わらない。

空っぽのまま。

時間だけが、過ぎていく。

先生が何か説明している。

口が動いている。

でも、内容はほとんど頭に入らない。

ただ、視線だけが。

何度も、何度も。

あの席に向いてしまう。

休み時間。

スマホを開く。

玲王とのトーク画面。

最後に送ったのは。

『ごめん』

『昨日、ごめん』

それだけ。

既読は、ついていない。

何度見ても、同じ。

時間だけが増えていく。

私は、もう一度打つ。

『話したい』

送る。

指が、少し震える。

でも。

やっぱり、変わらない。

既読は、つかない。

まるで。

最初から、そこにいなかったみたいに。

昼休み。

お弁当を開く。

でも、味がしない。

食べているのかも、よく分からない。

目の前の席は、ずっと空いたまま。

ふと、顔を上げる。

クラスメイトたちが、楽しそうに話している。

笑っている。

でも。

そこに、自分はいない気がする。

距離がある。

遠い。

その感覚が、前よりも強くなっていた。

——玲王がいないだけなのに。

それだけで。

こんなにも、世界が変わるなんて。

放課後。

教室に残る。

静かな空間。

後ろの席を見る。

誰もいない。

机の上も、何もない。

私は、そっとその席に近づく。

指で、机の表面をなぞる。

冷たい。

そこに、確かにいたはずなのに。

もう、いない。

その事実が、ゆっくりと現実になる。

スマホを取り出す。

何度目か分からないくらい、画面を開く。

変わらない。

既読は、つかない。

電話も、出ない。

どうして。

理由が、分からない。

怒ってるのかもしれない。

嫌われたのかもしれない。

もう、関わりたくないって思われたのかもしれない。

いろんな考えが、頭の中をぐるぐる回る。

でも。

どれも、確かめることができない。

それが、一番つらかった。

「……なんで」

口の形だけで、そうつぶやく。

何度も、何度も。

どうして、いなくなったの。

どうして、何も言わないの。

どうして、連絡もくれないの。

どうして。

どうして。

答えは、どこにもない。

日が、過ぎていく。

一週間。

二週間。

一ヶ月。

それでも。

玲王は、戻ってこなかった。

教室の中で。

私は、少しずつ。

元の自分に戻っていく。

誰とも深く関わらない。

適当にうなずいて。

適当に笑って。

適当に過ごす。

でも。

前と同じじゃない。

どこかが、欠けている。

何かが、足りない。

その穴は。

埋まらないまま。

ずっと、残っている。

ふとした瞬間に。

思い出してしまう。

「おはよう」って手話。

ノートを差し出してくる仕草。

少しだけ照れた笑顔。

「ひとりじゃない」って言葉。

全部が。

鮮明に、残っている。

だから余計に。

苦しくなる。

——会いたい。

その気持ちだけが、消えない。

でも。

どうすることもできない。

理由も分からないまま。

私は、ただ。

置いていかれた。

そんな気がした。

——もし、あのとき。

あんなこと、言わなければ。

何度も、考える。

でも。

答えは、変わらない。

もう、戻れない。

その現実だけが。

静かに、そこにあった。

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