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第七章 後悔

気づいたときには、もう外にいた。

どうやって教室を出たのか、よく覚えていない。

足だけが勝手に動いて。

気づけば、校門を抜けていた。

夕方の光が、やけにまぶしい。

周りには、同じように帰る生徒たちがいる。

楽しそうに笑っている顔。

動く口。

でも、何も届かない。

全部が、遠い。

私は、ただ前だけを見て歩く。

考えないようにしても。

さっきの光景が、何度も頭の中で繰り返される。

玲王の表情。

あのときの目。

「もういい」

その手の動き。

——片耳でも聞こえるんだから

自分の言葉が、何度もよみがえる。

胸が、ぎゅっと締めつけられる。

足が止まる。

でも、止まっても何も変わらない。

また歩き出す。

家までの道が、やけに長く感じた。

いつもは、もう少し短かったはずなのに。

玄関のドアを開ける。

中に入る。

静かだった。

いつも通りのはずなのに。

今日は、その静けさが重く感じる。

靴を脱ぐ。

鞄を置く。

そのまま、動けなくなる。

さっきまでのことが、一気に押し寄せてくる。

——なんで。

どうして。

あんなこと、言ったの。

分かってたはずなのに。

一番、言っちゃいけないこと。

一番、傷つける言葉。

それなのに。

私は、それを選んだ。

その事実が、重くのしかかる。

その場に、座り込む。

力が入らない。

息が、うまくできない。

視界が、ぼやける。

気づけば、涙がこぼれていた。

止めようとしても、止まらない。

手で拭っても、次から次へとあふれてくる。

「……最低」

声にはならないけど。

口の形だけで、そう言った。

自分が、嫌になる。

どうして、あんな言い方しかできなかったんだろう。

どうして、ちゃんと聞けなかったんだろう。

「大丈夫?」って。

あのとき。

優しく、聞けばよかったのに。

頭の中で、何度もやり直す。

別の言い方。

別の表情。

別の選択。

でも、全部。

もう遅い。

私は、そのまま床に座り込んで。

しばらく、何もできなかった。

時間が、ゆっくり過ぎていく。

どれくらい経ったのか分からない。

ふと、スマホの存在を思い出す。

鞄の中から取り出す。

画面を開く。

玲王の名前。

そこを、じっと見つめる。

メッセージを送ろうとする。

指が、止まる。

なんて送ればいいのか、分からない。

「ごめん」

それだけで、いいのかな。

でも、それだけじゃ足りない気がする。

でも、長く書く勇気もない。

何度も、打っては消して。

打っては消して。

結局。

何も送れなかった。

画面を閉じる。

胸が、苦しくなる。

——直接、言わなきゃ。

そう思う。

文字じゃ、足りない。

ちゃんと、顔を見て。

手で、伝えたい。

もう一度、あの人に。

そう思った瞬間。

胸の奥に、少しだけ光が差した気がした。

私はゆっくりと立ち上がる。

洗面所に行く。

鏡を見る。

目が赤くなっている。

ひどい顔。

それを見て、また少しだけ涙が出そうになる。

でも。

ぐっとこらえる。

水で顔を洗う。

冷たい感触。

少しだけ、落ち着く。

タオルで顔を拭く。

深く息を吸う。

——大丈夫。

まだ、終わってない。

そう思いたい。

部屋に戻る。

ベッドに座る。

スマホを握る。

もう一度、画面を開く。

玲王の名前を見る。

さっきよりも、少しだけ強く思う。

——明日、ちゃんと謝ろう。

逃げないで。

ちゃんと、全部伝えよう。

ひどいこと言ったこと。

傷つけたこと。

本当は、そんなこと思ってないってこと。

全部。

ちゃんと。

手で、伝える。

そう決めると。

少しだけ、呼吸が楽になる。

胸の苦しさが、ほんの少しだけやわらぐ。

私はスマホを閉じる。

ぎゅっと握る。

「……ごめん」

もう一度、口の形だけでつぶやく。

その言葉は。

明日、ちゃんと伝えるために。

私はベッドに横になる。

目を閉じる。

でも。

すぐに、あの顔が浮かぶ。

怒っていた顔。

傷ついていた顔。

そして。

少しだけ、悲しそうだった顔。

胸が、また痛くなる。

それでも。

私は、目を閉じたまま。

強く、思う。

——明日。

絶対に、謝る。

それだけを、何度も繰り返しながら。

静かな部屋の中で。

私は、眠れないまま。

夜を過ごした。

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