Sal3-53 動転と芽生え
久しぶりの更新となりました。
更新ができなかった理由はあとがきにて。
ドォン、ドォン、という音がこだましている。
こだまする度に、地上からは腐肉たちの悲鳴があがっていた。
まぁ、ドォンという音が大きすぎて、腐肉たちの悲鳴はそこまで目立っていないんですけどね。
まるで腐肉たちの悲鳴がドォンという大きな音、いや、半ば爆音じみた音のバックコーラスみたいになっていますね。
悲鳴がバックコーラスになるとか、どういう状況だと言いたくなりますけど、その状況を作っているのは他ならぬ私なんですけどね。
「わぁ、トワおねーちゃん、すごいです!」
「……ぶよぶよたちが、逃げ惑っています」
ティアちゃんとルイちゃんはそれぞれにらしい反応をしてくれていますが、私はいまそれどころじゃないんですよね。
「……姉様」
どうしてか、さきほどから姉様から視線を外せなくなってしまっていた。
それどころか、姉様を見ていると胸が熱くなるし、動悸もするしで、私の身にいったいなにが起こっているのか、まるでわかりません。
あまりにもわからなさすぎて、気付いたら八つ当たりじみたことを腐肉たちにしていました。
相手はティアちゃんとルイちゃんのご両親やお仲間である神魔族たちを食い殺した存在であるから、手心を加える理由はありません。
そう、手心を加える必要はないんですけど、いまの状況を見ていると、ちょっとばかり腐肉たちに同情してしまいそうです。
……まぁ、同情しても攻撃をやめるつもりはないんですけどね。
いまも、とりあえず目が合った腐肉に向かって、大質量に精製した巨剣を投擲したところですし。
私と目が合った腐肉は、一瞬ビクンと体を震わせると、慌てて逃げだしていましたが、躊躇することなく、その体にと巨剣を投げつけました。
巨剣を投げつけた余波で、周囲にいた他の腐肉たちにも結構な被害が出ていますね。具体的に言えば、余波を受けた腐肉たちも消滅していますし。
……私、本当にどれだけ魔力を込めて投擲しているんでしょうね。
いや、いままでも通常の大剣を投擲していましたけど、それだけでも腐肉たちを消滅させるには十分でした。
が、いまは明らかにオーバーキルしていますね。
必要以上の力を込めるのは無駄でしかない。
そして戦場では無駄なことはできる限り省かなければならない。
無駄が多い者から戦場では命を落としていく。
どれほど時代が降っても、どんな世界であっても変わらない。もはや不文律と言ってもいいことです。
そのことを私は熟知しているはずなのですが、どういうわけか、いまの私はその不文律から背を向けてしまっていますね。
いったいどうなっているのやら、と思いながらも、いまも目に付いた腐肉たちへと巨剣の投擲をやめられないでいます。
それもすべては姉様に先ほど助けて貰ってからです。
姉様に助けて貰ってから、ずっと私は変になっています。
姉様から目を離すことができないでいるんです。
いや、姉様から目を離したくないんですよね。
なんで姉様から目を離せないのかがよくわからないんです。
いままでだって、姉様に手助けをして貰ったことなんていくらでもあったはずなのに、今回は自分でも理由がわからないほどに姉様から目を離すことができないでいるんです。
なんで私はこんなにも姉様から目を離せないでいるんでしょうか?
「……わからない」
なにがあって私はこんなにも姉様を見つめているんでしょうか。
「トワおねえちゃん、どうしたのですか?」
ルイちゃんが私を上目遣いで見つめていました。なんでもない、と言うのは簡単なんですが、聞いて貰った方がいいかもしれないとも思います。
……あ、でも、ルイちゃんだと続く答えがどうなるのかは目に見えていますね。
「トワおねえちゃん?」
「えっと、なんでもないんですよ」
答えが目に見えているので、あえてここはごまかしをすることにしたんですけど、ルイちゃんは「じぃーです」と擬音を口にしながら、私をじっと見つめてくれます。
……とっても居心地が悪いですね。
こういうときは、お姉さんのティアちゃんにお任せするしかないかと思ったんですが──。
「あ、あの、トワ様。私とルイは頼りないかもですけど、お話なら聞けますから、いつでもどうぞです」
──ティアちゃんは鼻息を荒くしながらも、私を見つめてくれていますね。
……うん、見事なくらいに逃げ場を塞がれちゃいましたね。
どうしたものでしょうかねぇ。
「あー、その、ですね」
「どきどきです」
「どきどきだね」
「……あ、あははは」
ティアちゃんもルイちゃんも「ようやくお役に立てる」と言わんばかりの顔をしていますね。
これ、話さないという選択肢がそもそもありませんよね?
……どうしたものでしょうか。
とはいえ、話さないという選択肢がそもそも存在していない時点で、私にできることは限られているわけですが。
「……えっと、ですね。さっきからずっと姉様から目を離せなくなってしまっていまして、なんでだろうなぁと思っていて」
「それはカンタンなのです」
「そうだね。簡単だね」
「なのです」
むふぅと自信満々にティアちゃんとルイちゃんは頷きあいました。
あぁ、とっても嫌な予感がしますね。
というか、言われることがはっきりとわかりますね。
「トワおねえちゃんは、カナタおねえちゃんにぞっこんなんです!」
「うん。トワ様もカナタ様もお似合いだもんね」
「はいです! ルイはトワおねえちゃんを任せられるのは、カナタお姉ちゃんしかいないと思うのです!」
「うん。私も同じ。トワ様を幸せにできるのはカナタ様だけだもんね」
「なのです!」
「うんうん、私も同じ」
ティアちゃんとルイちゃんは私の危惧通りなことを仰ってくれました。
どう考えてもふたりの意見はおかしなことなんですけど、どうしてもふたりは私の言葉を聞いてくれていないんですよね。
というか、あろうことか、私が姉様にぞっこんって。
再三ふたりには言っていることですが、私と姉様は血の繋がった姉妹なのですから、ぞっこんもなにもないわけなんですけどね。
どうにもそのあたりのことをふたりいは理解してくれていないんです。
まったくどうしたものでしょうか。
「……あのですね、ふたりとも。私と姉様は血の繋がった姉妹であってですね」
「でも、トワおねえちゃんはカナタおねえちゃんから目を離せないのです」
「……それはまぁ」
「私思うんですけど、それって恋をしているからと思うんです」
「こ、恋って。だから私たちは」
「でも、恋以外でカナタ様から目を離せなくってしまうってあるんですか?」
「……いや、それは」
「それは、なんです?」
「……えっと」
ふたりの問いかけへの返答ができなくってしまいました。
たしかに。
たしかに、私が姉様に恋をしてしまったと仮定すれば、私の変化にも納得できなくはないかもしれません。
ですが、いくらなんでも姉様に恋するというのは、どうかと思うんですよ。
だって、私たちは姉妹なのに。
「ちなみに、ルイが見る限り、カナタおねえちゃんもトワおねえちゃんにぞっこんです」
「……はへぇ?」
「あ。それ私も思う。カナタ様はなんだかんだでトワ様を見る目がとても優しいもんね。私とルイにも優しいけど、トワ様に対してはもっとだもん」
「ですです。きっとあれはトワおねえちゃんにぞっこんだからです」
「だよねぇ」
うんうん、と頷き合うふたりに、私は言葉を失ってしまった。
「姉様が、私に?」
そんなまさかと思いつつも、姉様のいままでの言動を振り返ると、たしかにそういう風に見えなくもないかもしれない。
そう思うと、なぜか胸がいままでになく高鳴っていきました。
顔が異様なほどに熱くなっていく。私の変化にティアちゃんとルイちゃんは目ざとく気付いたみたいで、「両想いです」や「お祝いだね」とわいわいと騒いでくれました。
ですが、私はもはや反応することもできなくなっていました。
私にできたのは、いままで以上の速度と物量で
巨剣を腐肉たちへと投擲することだけ。
それほどにふたりの言葉は衝撃的なものでした。
姉様が私にぞっこん。
そんなバカと思うも、その一方でなぜか「嬉しい」という一字が脳裏に浮かんでいました。
「違う違う違う違う違う、ちーがーうぅぅぅぅぅぅ!」
気付いたときには、脳裏に浮かんだ一字を追い払おうと、躍起になって巨剣を次々に投擲していた。
「トワおねえちゃん、おめめがぐるぐるです」
「目ってこんなにぐるぐるするんだねぇ」
なんとも呑気なふたりの声を聞きながら、私は必死になって巨剣を投擲していく。
でも、どれほど投擲しても姉様とのいままでの日々が頭に浮かんでしまい、そのたびに私は動転していました。
動転しながらも、私はやはり姉様を目で追っていた。
頼もしい姉様のお背中を見るだけで、胸はどうしようもなく高鳴っていた。
高鳴る鼓動をどうすることもできないまま、私は悶々としながら、腐肉たちへの八つ当たりじみた投擲を延々と行っていったのでした。
更新できなかった理由ですが、実は現適応障害の診断を受けて療養中なんです。
仕事で精神的に参ってしまい、適応障害になったみたいです。
更新できなかったのも、その余波です。
うまく思考ができなくなっていて、小説を書くのがだいぶ遅くなっているんです。
7月いっぱいまでは休職させてもらえるみたいなので、時間がかかるのは問題ないですが、当面は更新がだいぶ遅くなると思います。
それでも完結へと向けて頑張りますので、見守っていただけたら幸いです。
それでは、また次の機会に。
P.S.明日の夜は「おたま」を更新します。
その翌日はカクヨムの方を更新する予定ですので、どうかお付き合いいただけるとうれしく思います。




