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猫様は今日も、俺に仕事をくれる。  作者: 山田 ソラ


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第02話 三匹三様


 仕事帰り、スーパーのペット用品売り場で俺は立ち止まっていた。


 目の前には猫用おやつがずらりと並んでいる。


 マグロ。カツオ。ササミ。エビ。チーズ入り。毛玉ケア。


「……多すぎるだろ」


 思わず声が漏れた。


 猫なんてカリカリを食べていれば十分だと思っていた俺には、どれも同じにしか見えない。


 隣では若い女性が迷うことなく商品を選んでいた。


「この子はマグロしか食べないの。こっちはササミが好きだから」


 連れの男性が笑いながらうなずいている。


 どうやら猫にも好みがあるらしい。


「人間みたいだな……」


 結局、俺は祖母がよく買っていたものと同じおやつをカゴへ入れた。


 値札を見る。


「一本百円か」


 中身はほんの少しなのに、思ったより高い。


「食べてくれなかったら泣くぞ、これ」


 そんなことを考えながら家へ帰った。

 玄関を開ける。


「ただいま」


 返事の代わりに飛んできたのはキナコだった。


「ニャッ!」


 俺の足元をぐるぐる回りながら鳴いている。


「今日は機嫌がいいな」


 アンコは廊下の奥から静かにこちらを見ていた。


 チコは……姿が見えない。


「お土産があるぞ」


 袋を軽く振る。


カサッ。


 その音だけで三匹の耳がぴくりと動いた。


「おいおい」


 アンコまで静かに近づいてくる。

 少し遅れてチコも物陰から顔を出した。


「そんなに分かるものなのか」


 袋を開けると、三匹の視線が一斉に集まる。


 祖母がよく与えていた、細長いチューブのおやつだった。


 一本取り出しただけで、キナコは落ち着きを失う。


「待て待て」


 ぴょん、ぴょん、と飛び跳ねる姿は、さっきまでの余裕が嘘みたいだ。


「はい」


 口元へ差し出した瞬間だった。

「うわっ!」


 勢いよくかぶりついてきた。


 夢中になって舐めるものだから、中身が鼻にもヒゲにも付いてしまう。


「食べるの下手だな、お前」


 もちろん本人は気にもしていない。


 ティッシュで拭こうとすると、今度は全力で逃げた。


「食べるのはいいけど、拭かれるのは嫌なのか」


 本当に分からない、次はアンコ、同じように差し出す。


 するとぺろ。ぺろ。ぺろ。


 一定のリズムで少しずつ舐めていく、一滴もこぼさない。


 最後まで実にきれいだった。


「すごいな……」


 思わず感心してしまう。


「お前、絶対キナコより食べるの上手いぞ」


 アンコは満足そうに毛づくろいを始めた。


 そして、最後はチコ。「ほら」少し距離を保ちながら差し出す。


 チコは近づいて匂いを嗅ぐ、少しだけ口を寄せて、ぷいっ。


「……え?」


 そのまま踵を返してしまった。


「いらないのか?」


 もう一度差し出しても結果は同じ。

 そのとき、ふと祖母の姿を思い出した。


「そういえば……」


 祖母はいつも小皿に絞り出していた、試しに同じようにしてみる。


 すると、ぺろ、ぺろ、ぺろ。


「食うんかい!」


 さっきまでの態度が嘘みたいに夢中で舐め始めた。


「俺の手から食べるのが嫌だっただけか……」


 チコは顔も上げない。


 その徹底ぶりに、苦笑いしか出なかった。


 三匹とも食べ終えると、それぞれお気に入りの場所へ戻っていく。


 キナコはソファで丸くなりアンコは窓際へチコはキャットタワーの一番上。


 静かな部屋を見渡しながら、俺は空になった袋をゴミ箱へ捨てた。


「猫って、みんな同じだと思ってたんだけどな」


 キナコは食いしん坊で落ち着きがない。

 アンコは妙に器用でマイペース。

 チコは警戒心が強く、とことん頑固。


 三匹とも見た目だけじゃなく、性格までまるで違う。


「……面倒くさいわけだ」


 思わず笑ってしまう。その時、足元にアンコがやって来た。


 何も言わず、俺の足に体をそっとこすりつける。


 一度だけ。


 それだけで満足したように歩いていった。


 俺は思わずその背中を目で追う。


「……偶然だよな」


 そう自分に言い聞かせる。それでも、口元が少しだけ緩んでいた。


「まだ騙されないからな」


 その独り言に返事をする者はいない。


 窓の外では、夕焼けの中を一羽のカラスが鳴きながら飛んでいった。




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