貴方のために出来ること
「今からいうことは皇帝と皇后からハンナへの快気祝いだとでも思ってくれたら良い。」
「…?分かりました…。」
どういう意味かは分からなかったが、取り敢えずわたしはルーカスの説明を聴くことにした。
「侯爵の位はハンナが貰うことになっている。」
「…………………え?」
流石に理解が追いつかない。だって、わたしはもともとはただの侯爵令嬢で、みんなから売女やら毒婦だと言われる悪女で…それで…。
こんなわたしが侯爵の爵位だけ貰う?
それを貴族社会は許すの?
別に仕事があるのは構わない。
それはわたしがしなければいけないことだと思うし、父と姉がしたことの片付けも本来ならわたしがしないといけないことだった。
だけどそれもルーカスが殆どしてくれて、わたしは爵位だけだなんて、流石にダメだ。
「わたしは、侯爵の爵位に相応しくありません…。爵位だけもらうなんてもってのほかですし、わたしには常に付き纏っている噂があります。どれだけルーカスが許してくれても、世間の噂なんてそうそう変わりません。」
わたしがそこまで言うと、ルーカスは私を抱きしめた。
あら…まだ手は離してなかったのに。
「やっぱりまだ知らなかったか…。」
何のことだろうかと思っていると、ルーカスが続けて説明してくれた。
「ハンナのあの悪意ある噂はもうどこにもない。むしろ今は貴族社会ではハンナのことを女神やら一角の人やらと良い噂しかない…というか事実なんだが、そんな感じでもう悪い噂など何処にもないんだ。」
社交界でそんなことになっているなんて知らなかった。
てっきりまたいつも通り、わたしが社交界に顔を出していない理由を噂と偏見から勝手に推測して、また悪い噂が立つんだろうなと思っていたから。
人って言うのはそういうものだから。
そこは割り切っていたのに、いざその噂が消えると、何とも歯痒いものだ。
わたしの今までの苦痛が、全てなかったことのようになるような気がして。
そんなことないのは分かってる。でも、それでも、悪い噂が嘘のように消えてしまったこの事実を素直には喜べない。
わたしがどれだけ違うと言っても消えなかった…むしろ余計に悪くなった噂を、わたしが自分の体を張ってようやく噂がなくなった。
そこまでしなければわたしの噂は消えなかったのだろうか。
"何というかわたし、滑稽ね"
ついそう思ってしまった。
すると、ルーカスがわたしの心情を察したのか、わたしより辛そうに言葉を繋いだ。
「ハンナ…。そうだよな。ハンナからすれば、社会はあの一件で嘘のように手のひらを返した。…俺もまた途中で手のひらを返した一人だ…。素直に喜ぶのは難しいよな……。けど、ハンナはハンナのことを労ってやれ。この事実を喜べなくても、今までお疲れ様、よく頑張ったって言ってやれ。」
…いつもそうだ。ルーカスは、わたしのほしい言葉をいつもくれる。
だから好きになってしまったんだと思う。
出会い方は最悪だったけれど、それから少しずつお互いを知っていた。
知っていくうちに気がつけば好きになってた。それはルーカスも同じことなんだろうかと、少し気持ちが和らいだ。
だけど
「…ありがとうございます。ルーカス。ですがやっぱり爵位は…。」
「ハンナは、俺と婚約を破棄したいのか…?」
爵位は貰えないと言おうとした矢先、とんでもない誤解を生んでしまった。
ルーカスに問われて、わたしは慌てて首を横に振った。
突拍子もないことを言われれば当たり前だが驚くだろう。
「そんなわけありません…!私はルーカスが好きです。ですが、迷惑はかけたくありません。ただでさえたくさん迷惑をかけているのに、これ以上は……。」
わたしは思わず口籠ってしまった。
「ハンナ…俺が一言でも、君に迷惑だと言ったことがあるか?」
「ありません…」
ルーカスはわたしを宥めるように優しい声音で困ったように言った。
「俺はそんなこと思っていない。…なぁ、ハンナ。俺は、夫婦は互いに支え合って生きていくものだと思う。ハンナは、俺がハンナにしてしまう一挙一動が迷惑か…?触れすぎるのは迷惑か?」
「っ!いえ、思っていません。思うわけがありません…。」
「ああ、それと同じだ。」
ルーカスは穏やかな笑みを浮かべて言って見せた。
わたしは、ルーカスのわたしに対する一挙一動も、たくさん触れてくれるのも、全く迷惑なんかじゃない。
だけどそれと何の関係があるのか。ルーカスは続けて応えてくれる。
まるで私の心の内を全て察しているかのように。
「俺はハンナを好きだと言って、抱きしめて、そうして1日のエネルギーを貰ってる。それで俺はどんなことがあっても頑張れるんだ。騎士団の仕事は生死が付き纏う。今までは別に死んでも良いと思っていた。だが今は違う。俺はハンナを残して常世へは行かない。生きる意味が出来たんだ。」
「生きる…意味…?」
「そうだ。俺にとってはハンナが生きる意味なんだよ。だからハンナのためならなんだって出来る。俺はそれを迷惑だとは思わない。むしろ生きる理由がすぐそこにあるんだから感謝してるくらいだ。」
本当にルーカスはわたしをおだてるのが得意のようだ。
これを周りにいる貴族の誰かに言われたとしても、わたしはそれをお世辞として受け取るだろう。
ルーカスだから、それは本当なのだと分かるし、信頼もできる。
ここまで言わせて、わたしが折れないのは流石に頑固だろう。
「ルーカス様」
「ん?」
私はこれからも、ルーカスに絆されながら生きていくんだろうな。
「好きです。大好きです。こんな私と、本当に離婚しなくてよいのですか…?」
「…っ!!」
ルーカスは肩を震わせた後、私を抱きしめる力を少し強めて言った。
「当たり前だ。俺の側にハンナのいない世界など考えられない。これからもこの先も、好きなのも愛しているのもハンナだけ。俺はハンナがいないと何も出来ないのだから、側にいてくれ。俺の最も近い場所に…」
そんなことを言われてしまっては、私の覚悟も決まってしまう。
ずっと、ルーカスの隣に立つ覚悟を。
私はルーカスと一緒にいるなら、後ろではなく隣に立ちたい。そのためには…
「………分かりました。爵位、貰います。」
「ハンナ…!良いのか…?!」
「はい。私ももう決めました。愛しているあなたの後ろではなく隣に立つためには爵位が必要ですし、私は烏滸がましくもルーカス様を手放すことが出来そうにありません。」
「ッハハ、…ああ、手放さないでくれ。ずっと、俺の手を握って隣にいてくれ。」
「約束します。」
読んで頂きありがとうございました!
この話が完結した後かする前に次作も投稿しようと考えていますのでよろしくお願いします!




