お姉様
◇◇◇
パーティー会場へ向かうと、今は貴族がダンスを踊っている最中だったらしい。
色んなパートナー同士がダンスを踊っていた。
ここには婚約目当てで来た貴族達もいる。
そんな人たちを邪魔するのはとても申し訳ないので、バルコニーで静かに過ごしていようと思っていた。
だけど、初めは楽器の音が目立っていた皇宮が、いきなりザワザワとし始めた。
何かあったのかと思い、大勢の貴族の中からなんとか騒ぎの方へ顔を出すと、そこには見知った顔の人が2人もいた。
アディノール侯爵と、カンナお姉様だ。
どうしてこんなにザワザワとしているのか、原因を見つけようと2人をよくよく見ると、カンナの手にはナイフが握られていた。
ただ、周りに大勢の人がいるせいで、お姉様がナイフを持っていることには騎士達は気付いていない。
そして、それを見せ物のように見る貴族に吐き気がする。
急いで騎士を呼び、止めてもらおうと向かおうとするにも、後ろに下がれない状態だ。
どうすればいいのかと頭をフル回転させていると、お姉様が話し出した。
「どう?お父様。今日はあなたにとって最高の晴れ舞台じゃないかしら?」
お姉様が挑発のような言葉を発している。
この意味の分からない状況は何?
父と姉は喧嘩して、それを誰1人として伝えようとしない貴族達。
この状況に嫌気がさしていると、父が口を開けた。
「お前をこんなふうにさせたのは私だ。…さぁ」
父は、ナイフを持っているお姉様に対して、腕を広げた。
そんな父を見た姉は、さらに激怒する。
「…あんたがそんな顔しないでよ!被害者は…私とハンナよ!!私を母様のように見て、私を見てくれたことなんてなかったじゃない!……私はまだ良かったわ。あんたは、私ではないけど、私を愛してくれた…でも、ハンナはどうなのよ…。」
お姉様からの思いもよらない発言に、わたしは動揺が隠せなかった。
今までずっと関わってこなかった姉が、わたしのために怒ってくれている。
それがとても不思議でならない。だけど、ルーカス様に救われた時と同じで、温かい。
初めて、わたしと姉は家族なのだと思えた。
「ハンナは、あんたに愛されたくて色々頑張ってた!1度でもいいから、私と同じように接してあげれば、少しでも救われたかもしれないのに!」
今すぐにでも、わたしは大丈夫だと言いたかった。
それでも言えなかったのは、やっぱりまだ心のどこかで、父を許せない自分がいるから。
そして、わたしのためにこんなに怒ってくれている姉の気持ちを遮りたくなかったから。
だけど、今すぐにでも遮らないといけない言葉を、お姉様は発してしまった。
「だから、もう私とハンナを解放して…?」
それは、お姉様の心からの願望だった。
お姉様は、父に向かって一直線に目掛けて走り出した。
お姉様の願いを叶えてあげたい。
お姉様を、父から解放してあげたい。
だけど、それは父を殺すことによって叶うものだと、お姉様は思っている。
…だったら妹として、……姉のその願いが叶うようにサポートしよう…。
ーグサッ!ー
自分の身体を抉られるような感覚に、大きな不快感を覚える。
しかし、不思議と痛みはあまり感じなかった。
姉は、呆然としていた。
「ど…して……。」
ナイフから手を離し地面に座り込んだ姉の目には、涙が溜まっていった。
わたしは身体全身の力が抜け、侯爵にもたれかかっている状態だ。
そしてわたしは、お姉様の涙を拭った。
わたしが刺されたことでやっと、1人の貴族の悲鳴が、会場全体に轟いた。
今更遅いのに…。今更悲鳴を上げたところで、それを観戦してたのはあなたたちなんだから。
「お姉様、ダメよ…。おとうさま、を。さしても…、後悔、するのは。おねえさま、でしょ。」
気絶しそうなのを必死に耐えながら、声を絞り出す。
こうでもしないと、お姉様に言葉を伝えられないから。
「生きて…お姉様。おとうさまの、したことで…じんせいをぼう…に。ふるわな…で。」
ーゴフッ、!ー
急に喉から口へと出されたものは真っ赤な色をしていた。
「もう喋らないで!死にたいの?!ハンナ!」
喋らないで?
喋るに決まってる。
死にたいの?
死にたくないに決まってる。
「お、ねえ。様…。あい……して。く…れて…り、がと……。」
「…!……!……!」
お姉様が、必死に何か叫んでる。
残念なことに、わたしの耳は機能していなかった。
かろうじて目が見えるくらいだ。
お姉様の泣いている顔が見える。
会話なんてほとんどなかったのに、不出来な妹のために泣いてくれてありがとう。
わたしが力を振り絞って目を細めると、姉は余計に泣いてしまった。
身体が動かず、今自分がどんな体勢でいるかも分からない中、1人の騎士が、わたしの顔を覗き込んだ。
その顔は、わたしの大好きな顔だった。
【愛しています】
"分かったかな"
伝える手段が思いつかなかったので、口パクで伝えて見たけれど、伝わった気がしない。
だって、こんなに泣きじゃくっているルーカス様を見るのは初めてだから。
…………あれ…?
ルーカス様が来て、安心したからだろうか。
頭にモヤがかかっているみたいに何も考えられない。
同時に視界が霞んで、そこでわたしの意識は暗い暗い奥底に落ちていった。
見てくださりありがとうございました!
次話も見てくれると嬉しいです!




