家族の絆と行いの取り消し
◇◇◇
わたしは部屋で待機していた。だけど、パーティーが始まったのはすぐに分かった。
ここからでも聞こえる大きな歓声と拍手。これが始まった合図のようなものだろう。
その合図と同時に、何故か扉の開く音がした。
"皇帝も皇后もまだ会場にいるはずなのにどうして…"
わたしの疑問は、扉から入ってきた人物によって全て吹き飛んだ。
「ハンナ…。」
「何故ここに、いらっしゃるんですか。アディノール侯爵様…。」
とんでもなく失礼な質問だということは分かっている。
だけど、聞かずにはいられない。
わたしがいると分かっていて来たのだろうか。ならどうして来たのか。
色んな質問が頭の中で這いずり回っている。
「すまない。見たくなかっただろう。私の顔など…。だが、最後に1度だけ、ちゃんと謝らせてほしい。……家族として…。」
「………」
ちゃんと、向き合おう。
わたしと父の問題に…。いつまでも引きずってはいられない。
それに、もしかすると、皇帝がわたし達を会わせたのかもしれない。
下手に追い出せば補佐は無かったことになるかもしれない。
「お父様……。」
「……今まで、本当にすまなかった。カンナもハンナも、どちらもシャーロットがくれた宝物だったのに、私はお前に勝手な恨みを募らせて、邪険にしてしまった。許せなんて馬鹿らしいこと言わない。どうか、公爵家への支援を、償いだと思って受け入れてはくれないだろうか…。」
…今のわたしにとって父は、そこまで大きな存在ではなかった。
だけど、昔のわたしは違う。
母もいなくて、父は無関心。姉とは関わる機会さえなかった。
使用人も皆んな見て見ぬふり。むしろ、父と同じように、誰もわたしが話しかけても反応しなかった。
こんな状況に置かれれば、幼い頃であれば誰だって家族の気を引きたがるだろう。
どれだけ気を引こうとしてもわたしと目さえ合わせなかったけど。
その父が今、わたしに頭を下げて真摯に謝っている。
別に謝ってほしかったわけじゃない。
結局のところ、全て今更の話。
謝ったからその行いが取り消しになることなんて一生ない。
家族の絆が今から生まれるとも思えない。
でも、どうしても見捨てられない。
わたしが父の被害者だったように、父もある意味わたしの被害者だ。
わたしを生んだから、母の身体が耐えきれなかった。
だからもう、終わりにしよう。
「お父様。お父様は、わたしが本当に泣いているところなんて、見たことないでしょう?」
わたしが質問すると、父は絶望したような、心底驚いているような、複雑な表情を見せた。
だけど、わたしは気にしない。
気にしたら、変な情が湧いてしまう。
ここで、終わりにしないと。
「つまり、そのくらい親子の絆なんてなかったんです。今までのことは何も言いません。パーティー会場へお戻りください。」
「…ぁぁ」
分かっている。
わたしが謝罪してくれた父に対して、どれだけ酷いことを言っているのか。
だから、最後の最後。
「ガルシア公爵家への全面的な支援。」
わたしがそこまで言うと、振り返っていて扉に手をかけようとしていた手が止まった。
「許可いたします。」
父が振り返ることはなかった。
ただ、声が震えていた。
「…ありがとうございます。」
そう言って扉を閉めた。
これで良かったんだ。
でも
"苦しいなぁ………。"
心臓がギュッと締め付けられる。
今まではこれを常に感じていた。
この痛みを苦しいと思えるようになったのは、紛れもなくルーカス様がいてくれたおかげで、救ってくれたおかげ。
わたしが感傷に浸ってしまっていると、廊下から足音がした。
多分、皇帝と皇后が戻って来た。
いつまでも沈んでたらいけない。
ここは公式の場で、わたしだけの場所じゃない。
私情を持ち込むわけにはいかない。
「アディノール侯爵と話していたのか?先程すれ違ったのだが…」
皇帝が心から不思議そうに聞いて来た。
もしかして、皇帝が連れて来た訳ではない?
「アイザック皇帝が連れて来られた訳ではないんですよね?」
「ああ、そんな空気の読めないことをする訳ないだろ。」
「失礼しました。」
慌てて謝罪する。
確かに。皇帝はわたしと父の関係について何か知ってることがあるはず。
だとすれば、皇帝がここに父を呼ぶわけがない。
「構わない。それより、もうすぐで1人目が到着するから、私の後ろにいて相手を見てくれ。」
「かしこまりました。」
わたしが後ろに立つと、皇帝と皇后の雰囲気が一気に変わった。
そして、話し合いが始まった。
名門貴族から、名の無い貴族まで、合計10人程度と会話をしていた。
わたしの仕事は、その10人の中から怪しい人物がいないか判断すること。
1人、2人、3人と、皇帝と皇后は、穏やかな声色で、けれど油断など1度もせず、全ての貴族との会話は終わった。
その中で、皇帝の利益とならないもの、もしくは悪い企みを考えているものを選ばないといけない。
「どうだった?答え合わせといこう。」
「わたし個人の意見としては、4人目の伯爵、6人目の子爵、9人目の侯爵ですかね。」
「……ふむ。何故6人目が怪しいと思った?」
皇帝が名前を言わないということは、皇帝も6人目の人物を注視していたのだろう。
皇帝も分かっているはず。だけど、6人目は人を騙すのに長けている目をしていた。
「1番穏やかな口調でしたが、あれは自分の欲望を抑えている時の穏やかさでしょう。アイザック皇帝も分かっておられるのではありませんか?」
わたしが質問を返すと、口角を上げて楽しそうにした。
「流石だハンナ夫人。私も同じだよ。ありがとう。おかげで助かった。」
「いえ、わたしは何もしていません。」
わたしは本当に何もしていない。
皇帝が全て見抜いていたのだから、わたしがいなくても当たり前のように見抜けていたはず。
だから何もしていないと言っただけど、せっかくだからと、パーティーに出席させてもらえることになった。
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