当たり前の質問
ルーカス様が落ち着いたようで良かった。
皇宮に行った帰り、うなされながらわたしの名前を呼ぶルーカス様を宥めて邸宅に戻った。
その次の日も、そのまた次の日も、もう不安がってはいなかったので、わたしも触れないようにした。
皇宮に行ってから3日経った頃、ルーカス様は朝早くから騎士団の訓練に出向いていた。
わたしが起きた時間にはもういなかったのだ。
ついこの前とても不安そうな言葉ばかり呟いてたからいってらっしゃいを言いたかったけど、安定の朝の弱さのせいでそれもできなかった。
同日にもう1つ、お茶会をしないかと言うお誘いがあった。
どうやらパーティーに参加していたあの可愛らしい3人のうち1番取り乱していた子が誘ってくれたみたい。
その子の家紋はバーンスタイン家と言うらしい。爵位は伯爵家の位で、ガルシア家とも互いに懇意にしていた。
「リア、お土産は持ってる?」
「はい、こちらに。」
リアが何故かしっかりがっちり持っているのは放っておく。
わたしの荷物なので丁重に扱いたいそうだ。
とにかく、今は切り替えてバーンスタイン家の令嬢のことに集中しよう。
「ありがとう。じゃあ、いきましょうか。」
そう言って馬車から降りて伯爵邸の方を向くと、見える景色に目を見張った。
他の貴族は、自分の権力を見せつけるためのものが庭に置いてあることが多い。
だけど、バーンスタイン家は少し違う。わたしが1番初めに目に入ったのは花畑だ。
扉までの両サイドの道が、色とりどりの花で敷き詰められている。
とても良い香りだ。歩いていて気持ちがいい。
通りでガルシア公爵家が懇意にするわけだ。
「あっ!お待ちしておりました、公爵夫人…!以前お会いしたお2人も今日を楽しみにしていました。」
「ありがとう。では、行きましょうか」
わたしが笑顔で言うと、彼女は「はい!」と元気よく返事をしてお茶会の場所まで案内してくれた。
「奥様、お座りください。」
「ありがとう」
リアが椅子を引いてくれる。
さすが、わたしのことになるとオタクみたいになるところ以外は全て万能なわたしの侍女だ。
「あの時は自己紹介もせず突然すみませんでした…。改めて、自己紹介をさせてください…!」
「そんなに気にしなくても良いのよ。でもそうね。お名前は知っていた方が仲良くなれるもの。お願いしてもいいかしら。」
公爵家の品位を損ねないよう、仕草、言葉遣い、姿勢、表情全てに気を遣う。
だからだろう。4人とも声にならない悲鳴を上げている。4人……。
「…!もちろんです!ではまず私から。バーンスタイン伯爵の娘のライリーと申します。ライリーとお呼びください。」
「スワン伯爵家の娘のナタリーと申します。どうぞナタリーとお呼びください。」
スワン伯爵。伯爵の位の中でも屈指の発言力と権力を誇る家紋だ。
そんな家紋がわたしに話しかけてくれるとは、意外だった。
次は…
「フローレス伯爵家のエレノアと申します。お2人と同様、エレノアとお呼びください。」
フローレス伯爵家は代々光魔法を使えることで有名で、重宝されている家紋らしい。
子供の頃に散々覚えさせられたのが今初めて役に立った気がする。
「じゃあ最後ね。ガルシア公爵家のハンナです。気軽に呼んでくれると嬉しいわ。今日は誘ってくれてありがとう。」
わたしがお礼を言うと、3人ともどこか不思議そうな目で見てきた。
この目は、知ってるというか、前にもそんな目で見られたことがある気がする。
悪い意味ではなく、本当に不思議そうに見つめる目だ。
「ふふっ、何か聞きたいことがあるなら遠慮なく聞いても良いのよ。」
その言葉に3人ともびっくしたみたいだった。
楽しそうなら何より。心の中でどうして分かったのかなと思っているんだろう。
素直なのはとても良いことだし好感も持たれやすい。
だけど、それだけじゃ貴族社会では生きていけない。感情が表に出やすい子は、卑怯な考えを持つ貴族達に漬け込まれやすいのだ。
そのせいで、純粋な令嬢達を傷つけさせたくはないな。
今はお茶会だから良いものの。
さっそくという勢いでナタリーがわたしに質問をした。
「では、何故私達や侍女にお礼を言うのですか?」
やっぱり。侍女、騎士、令嬢関係なく、これは誰でも疑問に感じるようだ。
リアが後ろで笑いを堪えているのが分かる。
もちろん側から見ればリアは真顔だ。
でもリアとはそれなりに親しい関係のため、今のリアが笑いを堪えていることくらい普通に分かるのだ。
「感謝しているから。」
それだけ言っても、3人とも頭の上にはてなを浮かべていた。
もちろん補足する。せめてわたしの周りにいる人たちには人に感謝出来る人であって欲しいから。
これは余計な、わたしのお節介だ。
「わたしはライリー、ナタリー、エレノア。あなたたちが勇気を出して、わたしをお茶に誘ってくれて嬉しかったし感謝してるの。」
「嬉しい、ですか?」
今度はエレノアが言葉を発した。
「そう、嬉しい。侍女がしてくれたことも同じ。嬉しいというわけではないけど、椅子を引いてくれたことで座りやすくなった。」
「でも、椅子を引くのは侍女の仕事です。」
ライリーがこの世界では当然の事を言う。
うん、当たり前だ。みんなそういう世界で生きてきたのだから。
侍女がわたし達のために世話を焼くのは当然でお礼を言う必要はない。
そういう世界なのだ。
でもわたしは違う。前世ではたくさんありがとうを言ったしごめんなさいも言った。
こうして人は仲良くなっていくし絆も深まっていく。
「仕事でもよ。同じ人としてお礼を言うの。そこにわたしは差別なんていらないと思ってる。だけど、お礼を言って、相手にわたしが喜んでることや好意を持って接してるってことを知ってもらうためでもあるかな。そうしたら、もっと仲良くなれるでしょ?」
わたしの説明がひと段落すると、子供のような目でわたしを見ていた。
表情から察するに、3人ともこの考え方が嫌いではないみたいだ。
「……やっぱり公爵夫人はかっこいいです…!」
見てくださりありがとうございました!
次話も見てくれると嬉しいです!




