破壊力
「その命、謹んでお受けいたします。」
「ありがとう、夫人。」
笑顔の奥には謎の信頼が見える。そして皇后からも謎の視線が送られている。
「ハンナ、良いのか?」
ルーカス様が心配そうに見つめてきた。
そんなルーカス様を宥めるように、「もちろんです」と言う。
わたしとルーカス様の会話を見て、皇帝と皇后は生暖かい視線でこちらを見てきた。
この視線は邸宅で嫌と言うほど向けられているためわたしも耐性がある。
「本当に、ルーカスはハンナちゃんにぞっこんね。ハンナちゃん、こんな未熟な奴だけど、これからもよろしく頼める?」
ここでの会話がこんなに楽しくなるものだなんて知らなかった。
皇后はまるで友人のように接してくれて、皇帝は信頼を寄せてくれている。
なら、その気持ちに応えなければいけない。
「はい。こちらこそ、未熟者ですがよろしくお願いします。」
わたしが微笑むと、皇后はまた目を輝かせた。
「…ハンナちゃんの笑顔、とても素敵ね。知ってる?人ってね、自然と出る笑みが最も美しいのよ。」
こんなことを言われたのは初めてだ。自然と出る笑みが美しいと言うのは、皇后独自の意見だろう。
だけど、その美しさを知っている皇后だからこそ、皇后も人を見る目があるのだ。
今回の謁見、本当に仮面を被らなくて良かったと思う。
自然と出る笑みが美しいと言う皇后が、わたしの笑顔を見破ることなんて容易いはずだから。
「それを言うなら皇后様も、とてもお美しいです。」
「あら、ありがとう。だけど、皇后様と言うのはいただけないわね。グレースって呼んでちょうだい?」
このお方距離の詰め方が尋常じゃない。
「グレース…様……?」
「ん〜!可愛い!この時間が名残惜しいわ。ちなみに、誰にでもこんな態度じゃないからね?あなただからよ。」
つまり、政治以外での皇后はこんなに無邪気で可愛いということ。
罪なお方だ。流石皇帝を落とした方。
わたしはこの人に一生敵うことはないんだろうなと悟ってしまう。
こんなにフレンドリーな方だけどこの国をまとめてるのもこの人なのだから。
「はい。ありがとうございます。」
「……ねぇ、ルーカス。この笑顔の破壊力どうにかならない?」
「俺も敵わないんだ。諦めてくれ」
どうやらわたしが笑うと2人とも敵わないらしい。
2人揃って困り眉をしていた。
「ハハっ、夫人は全員に気に入られたようだ。次はもっと気軽に会おう。俺のことも楽に呼んでくれて構わない。」
「はい。次回会えることを楽しみにしています。呼び方は、そうですね。では、アイザック皇帝とお呼びします。」
苗字を名乗らなかったのは、多分呼ばれたくないからだろう。
並々ならぬ事情がある。それくらい察せないと、来週の補佐は務まらない。
「ああ、そうしてくれ。では、私達は次の業務がある故失礼する。ルーカス、大事にしろよ。」
「そうよ。次ハンナちゃんを傷つけたら私がハンナちゃんを貰うわ。」
「アイザックとグレースに言われなくても大事にするさ。」
ルーカス様の過保護っぷりは、皇帝と皇后の影響だろうなと心の中で思いつつ、2人に挨拶をして皇宮から出た。
まさかこんなに賑やかなお茶会になるなんて予想できなかった。
別の意味で思ったより気力を使った気がする。
ただ、これから会うときは緊張しなさそうだ。
皇宮に入る時は緊張していたのに、出た時は全く緊張していなかったから、きっと次は大丈夫だろう。
馬車でそんなことを考えていると、ルーカス様がわたしの名前を呼んだ。そして
「膝の上に座ってはくれないのか?」
なんて寂しそうに言うものだから、座るしかなかった。
「どうだった、あの2人と謁見してみて」
「とても楽しかったです。行って良かったと思いました。連れてきてくださってありがとうございました。ルーカス様」
膝の上でお礼を言うと、ルーカス様が少し恥ずかしそうな顔をした。
「良かった。だが疲れたんじゃないか?寝ても良いぞ。」
確かに疲れたのは疲れた。
けどルーカス様の膝の上で寝ても良いのだろうか。申し訳ないという気持ちが勝ってしまう。
「寝ては重いと思うので降ろしてください。その代わり隣で眠っても良いですか?」
降ろしてくださいと言った時点では悲しそうな顔をしていたのに、わたしが隣で眠ってもいいかと聞いた瞬間ご機嫌になった。
「もちろんだ。」
ルーカス様は、わたしを丁寧に下ろして隣に座らせてくれた。
もうルーカス様が大型犬にしか見えなくなってきた。
わたしがすぐ近くにいると常に笑顔なのがまた可愛い。
気を遣って話しかけないでいてくれるのも、優しいなと感じる。
噂とは真反対すぎて、彼も噂に困ってきたんじゃないかとさえ思う。
無情公爵なんかじゃない。本当は、誰よりも人に気を遣えることを、わたしは知っている。
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