頼み事
「どうして…」
「うん?」
「わたしの噂はご存知だと思います。なのに初めてお会いして、どうして友好的に接してくださるのですか…」
今まで会った人は、必ず噂を信じていたしこんなに話しかけてくることもなかった。
公爵家のみんなも、カーター侯爵も、ホワイト公爵も、ルーカス様も…。
だから今回も、一度は噂について触れられると思っていたのに。
どうしてそんなに、優しい目で見てくるの。
「この子貰いたいんだけど、ルーカス。」
「俺が良いって言うと思うか?」
「もしかして、ハンナちゃん。あなた、噂通りの人だっていう前提で、初めてあいつに会った時暴言を吐かれたんじゃないでしょうね。」
その質問に答えたら、ルーカス様の命が危ういと感じるのは気のせいだと思う。
でも、わたしはその質問に答えてはいけない気がした。
だけど、その質問を聞いてルーカス様がとても気まずそうな雰囲気を出したことで察したのだろう。
なぜか皇后がルーカスに説教を始めた。
"どうして?"
「……分かったわ。ルーカス。あなた散々貴族のせいで嫌な目に合ってるのに、今度はあなたが嫌な目に合わせる側に回ったの?」
「ごもっともです……。」
「信じられない。噂が真実じゃないことはルーカス自身もよく分かっていることでしょう。まさか、あなたがそこまで落ちぶれたなんて思わなかった。これなら子供の時のあなたの方がしっかりしてたわ。」
「はい…。その通りです。」
なんだろう。お姉さんと弟みたいな感じがする。仲がいいからこそここまで怒れるのだろう。
その内容が全部わたしのことだというのは申し訳ないけど。
「夫人」
わたしが2人の姉弟のやりとりを見ていると、皇帝が話しかけてきた。
少し印象が変わったからか、先より緊張はしない。
「はい」という応答も、穏やかな声で応えることが出来た。
「誘拐の件は、災難だったな。無事に回復して良かったよ。それと、私に対する言葉遣いもそこまで気にしなくていいからな。」
「ありがとうございます。皇帝陛下のご協力もあったとお聞きしています。またお詫びをさせてください。」
「ああ、楽しみにしている。夫人のその無表情は事情がありそうだな。」
「はい。陛下が仰るのであれば、笑顔で応対も出来ます。」
わたしが笑って見せると、皇帝も何故か笑い始めた。
お腹を抱えて笑い声を抑えている。
理由は多分、皇后の説教を邪魔しないためだろう。
「夫人は素直だな。他の貴族と違う。通りでルーカスが惚れるわけだ。私も接しやすくてありがたい。是非素のあなたでいてくれ」
まだ笑いを堪えきれていないのか、俯いて肩を震わせている。
人の笑顔を見て笑うのは失礼ではと思ったが、考えないことにした。
「では遠慮なく。皇帝陛下もわたしへの警戒心を偽らずとも構いませんよ。」
わたしがそう言うと、驚いたのか目をまん丸にした。
わたしが気づかないと思っていたのだろう。
皇帝の笑顔の裏にはしっかりした警戒があった。皇后が警戒心なくわたしに近づいた分、自分が警戒しなくてはいけないと思ったのだろう。
そう、これが本来の反応だ。
というか、友人が信頼しているからと完全にわたしを信頼しきるのは危ない。
皇帝として当然の判断をしたのだ。
だけど、わたしだってのほほんと過ごしてきた訳ではない。
だからわたしも舐められないよう、わたしが使える人材であることを示すために皇帝のわたしに対する警戒があることは知っているということを伝える。
すると、笑いを堪えきれなくなってしまったのか大声で笑い出した。
せっかく1度目は我慢していたのに、2度目は無理だったようで、皇后もルーカス様もこちらを向いた。
「いや〜、こんなに笑ったのはルーカスに初めて会った時以来だよ。夫人。私の補佐をしてみないか?」
「??????」
「ダメだ」
「ダメです」
わたしの頭の中がハテナで埋まっている間に、何故か2人が反応した。
わたしは未だ頭の中がハテナでいっぱいだ。
その間に、何故か3人で言い争いが始まった。
「良いわけないでしょ、ハンナちゃんはわたしのよ。」
「俺のだが?俺の妻なんだが?」
「待て待て。せめて説明させてくれ。それに、本人の意思を聞いていない。」
「聞かせてください。」
皇帝はチャンスをくれている。
わたしが皇帝の補佐を果たせば、わたしの噂が少しでも良くなるかもしれない。
それを皇帝は考えてくれているのだろう。
ありがたいものだ。何故気に入られたのかは知らないけど。
「私が警戒していることに気づいたのは夫人で2人目だ。是非その能力を生かしてほしい。」
「それは何故でしょうか。皇帝陛下ならわたしがいなくても貴族の考えは分かると思います。」
「いや、おそらく私より夫人の方が人を見る目が長けている。」
そこまでされ言われるなんて思ってなかった。
だって会ったのは初めてで、今の今まで少し警戒されていた。
そんな人をいきなり補佐にするなんて、何を考えているか読めない。
「警戒しなくても大丈夫だ。補佐というより、私の隣に立つだけで構わない。私と話し相手の会話を見て、話し相手が信頼できる人物かを見極めてほしい。報酬は弾むぞ。」
「報酬ということは、その仕事は一度限りと言うことでしょうか。」
「そうだ。ずっと夫人に頼む訳にもいかないからな。来週の日曜、皇宮でパーティーがある。その際に何人かの貴族と別室で話をするんだが、隣に立ってほしい。」
報酬に目が眩んでいる訳ではないけど立つだけなら喜んで受けれる。
ただ、わたしとて絶対に人を見極めれる訳じゃない。それならカーター侯爵に頼む方が良いだろう。
なのにわたしを隣につけるということは、やはりわたしのためなのだろう。
ならば受けるべきだ。
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