2度目のダンス
「ルーカス公爵様?何故こちらへ…」
「公式な場だから仕方ないとはいえ、その呼び方だと距離が出来てしまいそうだ…。」
わたしの質問をガン無視して、呼び方について話している。
そんなに呼び方が不満なのだろうか。なので
手首を上下にしてちょいちょいとする。
すると、わたしの意図が伝わったのか、しゃがんで耳を近づけてくれた。
「ルーカス様…」
近づけてくれた耳にわたしがこそっと名前を呼ぶと、恥ずかしいような嬉しいような顔をしてありがとうと言って来た。
満足したっぽいと思ったので、改めて聞いてみることにする。
「それで、どうしてこちらに?大事なお話があったのでは」
わたしが聞くと、ルーカス様は淡々と説明してくれた。
「話については終わったんだ。そして俺は、あなたをダンスに誘いに来た。」
「へ?」
ついつい間抜けな声が出てしまう。だって、そのビジュアルで満面の笑みを浮かべてあんなことを言うのだ。
あの無情公爵はどこに行ったと言う心の叫びはどうにか隠したが、攻撃は終わらない。
「ハンナ嬢、一曲お相手願えますか」
その真剣な眼差しに、わたしは喜んでと言う以外の答えは見つからなかった。
ダンスが始まり、わたしとルーカス様の距離が一気に縮まる。
「ダンスは習っていたのか?」
踊りながらそんなことを聞かれたので、わたしも踊りながら返答する。
「小さい頃から習っておりました。ですが、見せるのも、先生以外の人と踊るのも今日が初めてですよ」
「…なら、俺が1番初めに踊れたんだな。とても光栄だ。」
こんなこと周りのご令嬢が聞いたら一瞬でみんな惚れるでしょうね。
でも、わたしもルーカス様が1番初めの相手で良かったと思う。
他の令嬢も、それぞれの相手と踊っている。踊りながら周りを見てみると、みんなの楽しそうな様子が伺えた。
それを見てわたしも安心すると、突然ルーカス様のリードの仕方が変わった。
慌てて対応すると、ルーカス様と目が合った。すると、また甘い言葉を囁かれる。ただし、わたしはルーカス様の放った言葉が甘いものだという受け取り方ではなかった。
「今のように、俺だけ見てほしいものだな」
これは、ダンスに集中しろということだろうかと謝ってみると、重たいため息をつかれた。
これはわたしが悪いのかな。
「俺はこの人を落とさないといけないんだな…」
遠い目をしながら、ルーカス様が何か言っていたが聞き取れなかった。
こんなに小さい声ならわたしに言ったものではないと思ったので何も聞かない。
すると会話は終了したのか、そこからは黙々とダンスを踊っていく。
流石だと言わざるを得ない上手さだ。ステップ、リード、何もかもが完璧。
ルーカス様についていくべく、わたしも必死に踊る。
そしてダンスは終了した。ここからは社交の場でもあるため、他の人とも踊らなければいけない。
なので、わたしはルーカス様に挨拶をしてから行こうと思ったのだが…
「あの…公爵様?」
「何だハンナ」
"いえ、何だではありません。"
「どうして手を離してくださらないのでしょうか…。ここからはまた別の相手と踊らないと。特に友好関係を築きたい貴族とは」
「どことも築きたくなくていいから…。もう一度ハンナと踊らせてくれ……」
今日はどうしてこんなに駄々っ子みたいになるのだろう。
もしかして誕生日だから?だとしたら、断る訳にもいかない。彼は今日の主役なのだから。
「分かりました。あなたは今日誕生日なのですから。お願いの1つや2つ、わたしの出来る範囲であれば叶えますよ。」
「…本当かっ?!」
あまりにも目を輝かせるのでわたしも声を抑えて笑ってしまう。
「はい、もちろんです。」
ということで、曲が流れ始めるとわたし達はもう一度踊り始めた。
回数を重ねるごとにダンスには慣れていくようで、1度目の踊りより2度目の方が今日来た人にも綺麗に見せられたのではないだろうか。
少しの仕草や表情にもブレを見せず、皆が自然と見たくなるような、引き寄せられるような踊り。
2度目のダンスが終わると、周りから歓声の声が上がっていた。
それは老若男女問わず皆がこちらを見ているということであり、わたし達が改めて結婚しているということを見せることが出来たということ。
今までは、結婚式も公表することもなかったのでルーカス様が結婚していることを知らない人も多くいたはず。
だけどこれからは、このパーティーに来た人が物凄い勢いでわたしとルーカス様の結婚を広めるだろう。
これが狙いなのだからわたしとしては願ったり叶ったりだが。これでまた1つ、役に立つことが出来たと思うと嬉しい。
こうやって少しずつ、恩を返していこうと思う。
それからは色々な貴族、主にこれから友好的な関係を築いていきたい人とのダンスの誘いを承諾して踊っていった。
たまにルーカス様の姿が見えたが、わたしの前とは違い、ダンスはしているものの無表情だ。
それが少しおかしくて、笑いそうになるが今は別の方と思っているため、そちらに集中する。
パーティーが終わる頃には、わたしの足は生まれたての子鹿状態だった。もちろん顔にも態度にも出さない。
最後にわたしが一言言って、このパーティーは終了だ。
「皆様、本日はお集まり頂きありがとうございました。お出しした料理は堪能出来ましたでしょうか。どうかお越し頂いた皆様と友好的な関係を築けることを心から願っています。」
わたしが最後まで言い切ると、会場は拍手で包まれた。少しだけど、皆のわたしを見る目が変わっていて嬉しく思う。
そんなわたしの感情に気付いたのか、ルーカス様の手がわたしに誰にも聞こえない声で呟く。
「良かったな」
「はい…!」
こうして、パーティーは終わりを迎えた。招待した貴族も全員帰って、この邸宅に居るのはいつものメンバーになった。
見てくださりありがとうございました!
次話も見てくれると嬉しいです!




