呼び名
◇◇◇
「体調はどうだ?辛くはないか?」
公爵は心配しすぎだ。そうさせてしまったのはわたしの今までのことのせいでもあるが、元々人を大切に出来る人なのだろう。
「はい、おかげさまで良くなりました。わたしはどれくらい寝ていましたか?」
「1時間くらいだ。」
1時間、その間公爵はずっと待っていてくれたのか。それとも、偶然わたしが起きたところに居合わせたのか。
どちらでも良くはないが、とにかく起きた時に1人じゃなくてホッとした。
「どうだった、魔法を習ってみて」
「楽しかったです。後、わたしも、公爵家のみんなを守れるんだって思ったら、嬉しくなりました。」
わたしが思ったことをそのまま伝えると、公爵は何故か笑顔になる。そして、わたしもその笑顔をもっと見たいと思う。
公爵には、こうやってずっと笑っていてほしい。
「そうか。喜んでくれて俺も嬉しい。また何かしたいことがあったら言え。何でも叶えてやる」
甘やかしすぎではないだろうかと思ったが、いつも通り気にしないことにした。
「ありがとうございます。公爵様。」
わたしがお礼を言うと、公爵は、少し間を空けて、わたしの名前を呼んだ。
「……ハンナ嬢…」
「はい。どうしましたか?」
わたしが応答にすると、公爵は少し耳を赤くさせる。
最近分かった。公爵の耳や頬が赤くなる時は、恥ずかしがっている時。
今から何か恥ずかしくなるようなことでも言うのだろうかと身構えていると、思っていたことと違うことを言って来た。
「俺のことを、名前で呼んでくれないか」
「名前、ですか?」
「そうだ……」
こんなことで耳を赤くさせる公爵に可愛さを感じてしまう。
わたしは元々、公爵が名前で呼ぶなと言うから呼ばなかっただけ。
でも、また公爵の一線を超えてしまうと怖いため、少しずつ確かめることにした。
「ガルシア公爵様…?」
「……………と。」
「えっと、すみません、もう一度お願いしても良いですか?」
あまりにも小さい声で聞こえなかった。余程恥ずかしいのだろう。
でも、聞こえないことには返事のしようがない。
「ルーカスと、呼んでくれないか」
「…!?」
どういう心境の変化だろうか。あの公爵が、自分のことを名前で呼んで欲しいと言うなんて、随分と素直になった。
わたしが甘えると公爵も嬉しくなるように、わたしも、公爵が自ら歩み寄ってくれることが嬉しい。
だから、わたしも変な意地を張っていないでさっさと答えることにする。
「…もちろんです、ルーカス様」
わたしが返事をすると、ルーカス様が俯いて口を開かなくなってしまった。
初めは気分を害したのかと思っていたが、どうやらそうでもなかったようで、俯いても、耳だけは隠せていない。
「もしかして、照れているのですか…?」
わたしが聞くと、ルーカス様は少しだけ顔を上げて、「当たり前だ」と呟いた。
不覚にも、可愛いと思ってしまう。それに、目が合うとなんとなくそわそわするし、最近は触れられるだけで恥ずかしくなってしまう。
以前は、家族にでさえ触れられるのが嫌だったというのに、ルーカス様には許せてしまうだなんて。
疲れてどうにかなってしまったのかと自分を疑いたくなる。
「……ーッハァ。良かった。受け入れてくれなくても結果を認めるつもりだったから、余計嬉しい。ありがとう。」
こんなことでお礼を言われるのは、ルーカス様だけです。
ルーカス様と呼べるようになったのは良いものの、わたしも何か呼び名を変えてあげたい。
ハンナ嬢では、少し長いと感じないのだろうか。もしルーカス様が面倒臭いと感じているのであれば、わたしも何か提案した方がいいはず
「ルーカス様。」
「どうした?」
ルーカス様は、相変わらず俯いたままだったが、わたしは構わずに提案した。
「わたしのことも、ハンナとお呼びください。これでより仲良くなれた気がしますね。嬉しいです。」
わたしがありのままの気持ちを伝えると、ルーカス様は自分の髪を顔から掻き上げる素振りをして、何かを呟いていた。が、またもわたしには聞こえなかった。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。ではお言葉に甘えて、ハンナと呼ばせてもらおう。」
「はい。是非そうしてください。」
わたしが快諾すると、ルーカス様が、夕食までにはまだ時間があるから休んでおけと言うので、休むことにする。
ルーカス様は、1度自室に戻ると言って、わたしの部屋を出た。
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