彼女の寝顔と振り返り(公爵視点)
今回は公爵視点での今までの出来事の振り返りです!これまで何があったっけと思った方は、このお話を見てくだされば大まかな内容が分かります!
是非見て行ってください!
◇◇◇
ーガチャー
応接間の扉を開けると、ディランが紅茶を飲んで待っていた。
ディランも俺に気がついたようで、立ち上がった。
「やあ、堪能できたか?」
「もちろんだ。」
俺は意気揚々と話す。堪能、ディランが言っているのは彼女を抱えて行ったことだろうな。
「はぁ、ルーカスの思考に着いていける私も、どうかしてるな。」
「好きになるなよ?」
一応念を押しておく。ハンナ嬢が売女だと嘘の噂が囁かれても、誰も疑いもしないのは、とてつもなく可愛いからだ。
俺はこの身をもって感じている。彼女は可愛い
だが、誰であろうと取られたくはない。結婚はしているものの、あんな紙切れ一枚じゃ、彼女は繋いでおけない。
いつも感じる。簡単に消えてしまいそうで、何かで繋いでおかないと行けない気がする。
「仮に好きになっても意味ないだろう。ルーカスと令嬢はもう入籍してるだろ」
「あ、そうだわ」
忘れていた。あまりにもハンナ嬢が俺のことを意識してくれないから。
でも、そうさせたのは俺の行動だから、取り返していくしかない。それでも、最近は俺が触れると頬を赤らめる。
少しは意識してくれてるかもと嬉しくなる。その度に、自分の単純さに呆れる。
歩きながらディランと話していると、ディランが呼んだ馬車の前まで来ていた。
「ま、いいや。それじゃ、帰るよ。」
「ああ、またな。」
ディランが馬車で帰っていくのを見送ると、俺は即座にハンナ嬢の元へ向かう。
好きな人が倒れると、こんなにも心配になる。今まで知らなかった感情だ。
彼女の部屋に行くと、疲れていたのか、眠っていた。最近はスムーズに眠れているようで安心する。
だが、彼女と話したかったなとも思う。なので俺は待つことにした。
この待つ時間でさえも、苦にはならない。
こんなことを思うのはあなただけだ。
とはいえ、暇なことには変わりないので、今までの行動を振り返ってみることにしよう。
今までは、何もしていなくても男性女性問わずに話しかけてきた。目的は、気に入られようとしたり、俺と婚約を結ぼうとしたりと、ほとんどが欲によるもの。
それが鬱陶しかったし、これなら英雄にならなければ良かったとさえ思った。
人嫌いな俺が、ハンナ嬢との婚約を選んだのは他の人が結婚するより俺と婚約して、俺の元で監視すれば良いと思ったからだ。
なんとも最低な理由だと今更ながらに思う。噂だけで判断した彼女の性格は、思っていたものとあまりにも違った。
とても明るく、自ら侍女と同じような仕事をする人で、初めはその行動が信じられず、彼女をこれでもかと言うほど疑ったな。
すると彼女が怒って、だったらそれぞれまとめ役を呼べば良いと言われた。俺はその言葉通り執事長、侍女長、料理長を呼んで話を聞いた。
この3人は、長年公爵家に仕えているので、確かに信頼出来る3人だ。そして、全員に話を
聞くと
・とても頑張ってくれている
・頼りになる人であり、信頼を置ける人
・真面目で気さくで話しやすい人
・立場を気にしない人
・下のものにも優しい人
どれも、彼女を卑下する言葉ではなく、むしろ褒め言葉ばかりだった。令嬢には悪いことを
したなと心が痛んだ。
初めて彼女に興味を抱いたのは、自分の無実を証明するために、何故あそこまで頑張れるのか。という疑問だった。
だが、それだけではまだ令嬢を信頼しても良いものなのか分からなかった。
俺が令嬢を信頼しようと思ったのは、俺が流行り病に侵された時。
これは俺がセバスから聞いた話だが、令嬢は全ての使用人に指示を出し、皆に病が移らないようにと、俺の部屋の出入りを自分とセバスだけに制限した。
セバスの部屋の出入りを了承したのは、信用できる人の方が良いだろうと判断したからだそうだ。
そして風邪で弱っていたせいか、俺の過去話を令嬢にしてしまった。
俺は失敗したなと思っていた。なのに令嬢は思っていた反応とは違って、真剣に話を聞いている様子だった。
それから言ってくれた。
父を見返すためだけなら剣術だけで良かったのではと言われた時、俺はハッとしたな。
見返すためだけじゃない。母が幼い時にしてくれたことを忘れたくなくて、それで礼儀作法もダンスも頑張っているのではないか。
あなたも1人の人であり、悪魔の前に、公爵の前に、あなたは1人の人。だから休憩も必要だ。その間は、あなたをお慕いしている人が守ってくれると。
俺が孤独だとも言ってもいない、不眠症だとも言っていない。なのに、令嬢はまるで何かを分かっているみたいに、今日はわたしがいるから1人ではないと言ってくれた。
令嬢の言葉1つ1つが、何故か重みを感じるものだった。
まだ少し疑念を抱いていた俺は、それも男を誘惑するための技術なのかと聞いた。すると、これも俺の予想と外れていたのだ。
俺がそう思うならそうなのだろう。と笑って言ったのだ。俺の予想では、怒ると思っていた。善意でしてることをこんなふうに言われれば誰だって怒るだろう。
なのに怒りもせず、まるでそう思われることを知っていたかのような、どこか寂しさを感じさせる笑顔でそう言った。
ああ、俺は、この令嬢を信頼出来る。何故ここでそう思ったのかは、今思えばあの笑顔だっただろうな。
消えそうな笑顔だった。だから俺は、『あなたは時々、笑っているのに笑っていないように見える。』そう言おうと思ったのに、話疲れたからなのか、俺は気付けば眠っていた。
次に起きた時には朝だった。俺が目を開けると、その隣には昨日と同じ場所で椅子に座っている令嬢がいた。
その次の日も、同じだった。
朝から、彼女は俺の隣で書類と睨めっこをしている。だが、俺の介抱をして3日目、その日は令嬢の様子がおかしかった。
俺の体調は回復し、熱も頭痛もなかった。だが、令嬢が部屋で休むと言った瞬間、扉の前で、身体が崩れ落ちるように令嬢が倒れた。
令嬢が次に目を覚ましたのは、倒れてから2日後のことだった。俺は罪悪感から令嬢の様子を見に行っていた。
すると、信じられない言葉を聞いた。普段の令嬢からは絶対というほどに聞かない一言。
『生きたくない…消えたい、わたしを殺して』その言葉を聞いた瞬間、いてもたってもいられず、令嬢を起こしてしまった。
先言っていた言葉を伝えようか迷っていた俺は、ムリをしすぎだと伝えると、令嬢は当たり前のように大丈夫だと言う。
耐えられなくなった俺は、令嬢が言っていた言葉をありのまま伝えると、令嬢はだんだん動悸が激しくなっていった。
過呼吸か…?とりあえず落ち着かせないとと思った俺は、大丈夫だと連呼した。本当は大丈夫なんかじゃない。
だが、今はこう言わないと落ち着かない気がしたから。
落ち着いた令嬢は、『迷惑をかけてごめんなさい。わたしは大丈夫だから部屋には入らないで』と言った。
今度は俺が驚いた。自分の世話をする人がいなければどうするのだと言ったが、令嬢は風邪を移してしまうのは申し訳ないからと…
まるで自分のことを心配している人なんているわけないと言うように介抱されることを拒んだ。
どうしても気になってしまった俺は、家での扱いを聞いた。すると、淡々と話し始めた。
最後に、それだけです。と言われ、自分ことに関与しないでと突き放されているような感覚に陥った。
そして、俺の感覚は見事に当たり、令嬢の様子を見に入ると、そこに令嬢の姿はなかった。
わたしに関わらないでと言うように…
俺が捜索を開始すると、1日をかけてやっと、女の子がおじさんに連れ去られて行ったところを見たと言う情報を手に入れた。
それは間違いなく令嬢のことだろう。1日目は、ここで終わってしまった。
2日目は、皇帝の元を訪れ、侯爵家を調査してもいいという許可を得て来た。そして侯爵領に向かったところで2日目が終わった。
そして3日目は、侯爵領の全ての空き家を調べ、最後に侯爵が住んでいる家へ向かった。
そこでは執事に足止めをされたが、それを素直に聞くほど、俺はお人好しじゃない。
執事をおしのけ、令嬢のいる部屋を探し回った。すると、侯爵の声らしきものが聞こえて来たとの報告があった。
その声のする方へ向かい、扉を蹴破った。そこで俺が見たものは、あまりにも酷いものだった。
侯爵は扉に背を向けて、令嬢を抱えている。そして、『ハンナ…』と連呼していた。
とてつもなく嫌な予感がした俺は、侯爵の肩を掴み、令嬢が見えるところまで身を乗り出した
するとそこには、無惨な姿をしている彼女がいた。泣きたいのは彼女だろうに、俺まで泣きたくなった。
怒りのあまり、侯爵の肩を強く掴んで声を荒げると、とても弱々しい声で、彼女が俺を呼んだ。
『公爵……様』
その一言で正気を取り戻した俺は、騎士たちに命令を下し、令嬢を抱えた。
彼女の身体は全身が熱を帯びており、殴られた跡があるところは更に熱い。
俺は心の底から後悔した。もっとあなたを大切にすれば良かった。こんなに胸が苦しくなるのなら、あなたが辛い思いをするなら、もっと、あなたの言葉に耳を傾ければ良かった。
だが、後悔をしたって仕方がないことは、俺が1番よく分かっている。
その後来た医者から告げられたのは、全て残酷なものだったな。
彼女を救出して5日、未だに目覚めずにいるため、俺はあの医者を疑った。だが、これくらい眠るのは当然だと言われた。
心身ともにとても負担がかかっていたのだから、これくらい眠らないと回復しないのは当たり前のようだ。
ストレスに関しては、ここでも多く感じさせてしまっただろう。また俺は罪悪感に苛まれた。
そして、彼女が眠って1週間、やっと、目を覚ました。あの時はとても安心した。だが、目を覚まして尚、彼女は苦しそうだった。
俺が彼女のことを知りたくて聞くと、間を空けて彼女は少しずつ話し始めた。初めは笑っていたが、途中から涙を流していた。が、彼女は気づいていない様子だった。
だから、もう話さなくていいと言ったが、聞こえていないのか、話を続けた。
俺の声が聞こえた後もどうやら彼女は別の受け取り方をしたようで、にこっと笑った。
その笑顔はとても辛そうで、何故今まで気づかなかったのだろうかと自分を恨んだ。
彼女が作った笑いは、普通の貴族令嬢の笑い方と変わらなかった。一寸の表情のブレも見せない。だが、今初めて、彼女の笑顔は歪んでいた。
それから、彼女の笑顔を見たいと思った。心から笑っている、本当の笑顔を。
ならばまずは、思う存分泣いて貰わないといけないと思い慰めてみるも、彼女は中々泣かない。
怖かったのだろう。優しさに触れること、甘やかされること、そんなことをされたことがなかった彼女は、怖かったのだ。
だが、最後にはちゃんと泣いてくれた。俺の前で、顔は隠していたが、俺の胸に頭を預けて泣いてくれた。
彼女が落ち着くと、一瞬ごめんなさいと言いそうになっていたが、すぐにありがとうと言いなおしていた。
"可愛らしいな"
癒された。
そこで自分の感情を疑ったが、まだ気付きはしなかった。というか、気付きたくなかった。
だが、最後の彼女のおやすみなさいと言う言葉で気付かざるを得なかった。
"俺は彼女が好きなのかもしれない"
それから
俺は、少しでも頼ってもらえるような男になれただろうか。普段なら、こんなこと絶対に思わないのに。
彼女だからこそ湧く感情だった。守ってあげたい、頼って欲しい、甘えて欲しい、好きだと言って欲しい。
これまで無欲だった俺は、彼女のおかげで生きる意味が見つかったし、欲もたくさん見つかった。良いことなのか悪いことなのかは分からない
それでも、以前より生きることを楽しいと感じることが増えたんだ。それは、絶対彼女のおかげで、俺は彼女がいないと生きる意味はない。
以前言ってくれた。ルカのおかげで幸せだと。あの時の言葉と笑顔が、今も忘れられない。
嬉しかった。彼女が幸せを感じることが出来て…だが、あの幸せは、平凡な家庭であれば、彼女も当たり前のように感じることの出来る幸せだった。
俺だけが与えられる幸せじゃない。誰だって、彼女の隣にいれば叶えることの出来た小さな幸せ。それさえも、彼女は感じることが出来なかった。
家という名の牢獄で、彼女はずっと1人耐えて来たのだ。
その牢獄から、俺はたまたま救い出すチャンスを与えられただけ。
これまでの人生の中で、1番のラッキーだったと、嬉しくなっていると、彼女は目を覚ました。
見てくださってありがとうございました!
次話も見てくれると嬉しいです!




