謝罪
自分の事情を、人に話してもらうのは何だか違う。
公爵家以外の人には初めて話すので、少し躊躇ったが、わたしの先生になってくれる人だ。
どれだけ警戒していようが、話しておいた方がいいのは確かなのだから。
こうして、わたしは話した。
アディノール侯爵家で色々な教育を受けていて、侯爵家が雇った先生の教育の仕方は、わたしが1度でも間違えると、鞭を持ってきてわたしの背中を叩くという方法だと言うことを。
「っーー!!」
カーター侯爵は思った通りの反応をした。
「カーター侯爵様がそんなことをしないのは分かっています。なのに…何故か思い出してしまって。申し訳ありません。」
きっと今も、魔力を通してわたしの感情を見ている。負の感情ばかりで驚いているだろうな。
カーター侯爵の方を見ると、心配そうにこちらを見つめていた。
「いえ、話してくださりありがとうございます。こちらこそ、辛い思い出を掘り起こすような真似をして申し訳ありません。」
カーター侯爵の表情は、昨日のあれは何だったのかと思うほど心配という感情で包まれていた。
「ルーカスの言う通り、大丈夫です。これは初めに信頼を失くすようなことをしてしまったん私のせいです…」
「違います…!」
これは100%わたしのせいなのに、カーター侯爵は何故か自分のせいだという。
公爵の友人であるというカーター侯爵に責任など感じてほしくない。
でも、頑固なのはお互い様のようで、わたしの発言に対して、首を横に振った。
「違いません。今日、改めて謝罪させてください。あの様な無礼な態度であなたを傷つけてしまったこと、本当に申し訳ありませんでした。」
今分かった。カーター侯爵は、自分の言った発言に対して責任を人一倍持っている。
それはきっと、カーター侯爵が人の感情を魔力を通して読めるから。
ずっと謝らせてしまうのは、わたしの心が持ちそうにもない。だったら、この謝罪を受け入れない訳にはいかない。
カーター侯爵の能力は便利だが、その分たくさん傷つくような能力。今回の件も、わたしの感情を呼んで傷つけたと分かったのだろう。
そもそも、普通は能力を持って生まれることはない。だからこそしんどい思いもたくさんしてきたはずだ。
「その件に関してはもう謝らないでください。カーター侯爵様は、公爵様を案じてあの行動に出たのでしょう。ですから大丈夫です。」
「本当に、噂とは真逆な方ですね。むしろそんじょそこらの貴族や平民より綺麗でお優しい心ですよ。」
綺麗な心、かは分からないが、カーター侯爵が気に入ってくれたのなら良かった。
「そうですか。わたしも、カーター侯爵様はお優しい方だと思います。」
「…!あなたを傷つけた私に優しいなどという言葉をかけても良いのですか?」
カーター侯爵は困った様な笑みを浮かべた。
「はい。その行動は友人を思っての行動でしょう。だったら、カーター侯爵様はとてもお優しい方です。」
わたしも少し笑ってみる。今のカーター侯爵に対する感情なら、笑っても違和感を持たれないだろう。
「…………ふぅ、あなたの笑顔は危険ですね」
"突然どうしたの?"
「だろ…?」
何故か先まで見守っていた公爵も同意してくる。笑顔が危険とはどういう意味だろうか。
分からなかったが、悪い意味ではなさそうなので聞かないことにした。
「ルーカス、頑張れよ。いろんな意味で」
「ああ、お前は、惚れるなよ。」
「惚れない。と言いたいところだけど、どうだろう。私も分からないよ。こんなにも可愛らしいご令嬢じゃ。」
一体何の話をしているのだろう。先程から少し目眩がするのも相まって、頭が働かない。
「おまっ…!」
「さてぇ、私は帰ると…公爵夫人?」
「あ、はい。」
「今、体調が優れないのではありませんか…」
凄い。これも能力の1つなのかは分からないが、顔に出ないようにしていたにも関わらず気づいた。
けど、体調が悪いという程ではないと思ったので、カーター侯爵には大丈夫だと伝える。
「ご自分の体調はご自分で把握しておかないと、あいつに心配されますよ。とにかく、1度立ってみてください」
カーター侯爵の言う通り、わたしは立ち上がってみる。すると、視界が歪んでバランスを崩してしまった。
"やばい…!倒れる…"
思った以上に、わたしの身体は心身ともに疲弊していたようで、意識はあるものの身体に力が入らない状態。
だが、バランスを崩し倒れる前にカーター侯爵が支えてくれた。
「ね…?あなたは思った以上に疲弊しています。今日は休んでください。」
「そうみたいですね。では、わたしは部屋に戻っています」
1人で部屋に戻ろうとすると公爵がわたしの腕を掴んだ。公爵は、いつもわたしを心配してくれる。
「待て。俺が部屋まで送る。ディランは少し待っててくれ。」
「ああ、分かった。」
「行こう。ハンナ嬢」
お客様であるカーター侯爵を置いてわたしたちが退出してしまうのは作法的に良くない。だけど、そんなことを言ったって、公爵は聞かないのだろう。
応接間の扉を閉めて廊下に出ると、公爵お得意のお姫様抱っこをされた。
正直、今歩くのは辛かったため、ありがたいのだが、使用人が見ているので恥ずかしい。
「すみません、公爵様。」
「謝るなと言っている。」
謝る隙など与えないと言うように、わたしの言葉を遮る。
下を向いていた自分の顔を上げて公爵の顔を見ると、公爵もわたしの顔色を確認したかったようで、こっちを向いていた。
「…!ふふっ。では、ありがとうございます。」
わたしが笑うと、公爵の顔も、心配で仕方がないような顔から、穏やかな顔になる。
「ああ。これからもどんどん甘えてくれよ。」
"あなたは甘やかしすぎです"
これが、今わたしがあなたに1番言いたい言葉だ。
部屋に着くと、公爵はわたしをベッドに寝かせて、ディランを見送るために部屋を出た。
「すぐ戻る」
ーパタンー
公爵のいない部屋は、いつもより広く感じる。わたしがそう感じるのは、自分の部屋にあまり戻らないことが原因だろう。
怪我の時は公爵かリアが常に隣にいたし、怪我が治ってからは、掃除に料理、書類整理は執務室でしているため、部屋には戻らない。
部屋にいると孤独を感じるからあまり好きではない。リアがいてくれるなら大丈夫だ。
だけど、リアだって常にわたしの隣にいる訳ではない。
もういっそのこと、今寝てしまえば、次起きた時に誰かいてくれるかもしれない。
最近気付いた。わたし自身が、どれだけ公爵家のみんなを大切に思っているのか。だから、もしものことがあった時は、守れるようになりたい。
後悔しないように。
そうやって思考を働かせていると、だんだん眠気がわたしを襲ってきて、いつのまにか眠っていた。
見てくださってありがとうございました!
次話も見てくれると嬉しいです!




