先生と過去
◇◇◇
「どうしてあなたが…」
わたしは今、とても混乱していた。昨日、鑑定士であるカーター侯爵は確かに、光魔法を扱える人を呼ぶと言っていた。
なのに、来たのはカーター侯爵だった。
「ぅ、すみません。あまりにも申し訳なくて言えなかったのですが、光魔法を扱えるのは私です。」
まさかのカミングアウト。流石は公爵の親友と言ったところか、公爵が凄ければその友人も凄いらしい。
カーター侯爵が来た理由を聞いて納得した。普通、先生を探すともなれば時間がかかるのに、何故1日で呼べるのか疑問に思っていたから。
「なるほど。」
「それで、昨日のお詫びと言っては何ですが、お土産を持ってきたので食べてください。」
「?」
"お土産、先生が生徒に?"
不思議に思いつつ箱の中を見てみると、コットンキャンディが入っていた。
「せっかくなので今召し上がってください。私はルーカスと少し話します。」
先生に言われては仕方がないと、わたしはコットンキャンディを手に取り一口サイズに取って食べ始めることにする。
以前街に行ってからそんなに経っていないが、また食べられて幸せだ。
「ありがとうございます。カーター先生」
「っー!」
わたしがお礼を言うと、カーター侯爵は少しだけ頬を赤らめ、それを見た公爵は、わたしの顔を隠した。
何だろうか、このカオスな状況は。
「えっと…公爵様?」
「あー、すまない、俺はディランと話があるから少し移動する。すぐ戻ってくるから。それと、コットンキャンディは全部食べててもいいぞ」
そう言って、公爵とカーター侯爵?先生?は別室へ移動した。
わたしがコットンキャンディを食べてから5分、話は本当にすぐだったようで2人とも戻ってきた。
「あ、ちょうど良い時間ですね。公爵夫人も食べ終わったようですし。さっそく力の使い方を教えていきましょうか」
「よろしくお願いします。…あ、少しだけお待ちください。」
先生を待たせるのは申し訳ないが、公爵に伝えておかないといけないことがあった。
「公爵様」
「ん?」
「コットンキャンディ、公爵様の分もあるので食べてくださいね。美味しいですよ。」
それだけ伝えると、わたしはカーター侯爵の方へ戻っていった。
後ろでは公爵は悶絶していたが、わたしはそれに気が付かず、そのままカーター侯爵に着いて行った。
「それではまず、魔法の知識についてはどれくらいありますか?」
「歴史書や、辞書は、ほとんど読んでいると思います。」
「分かりました。それでは、学問の方は大丈夫のようなので、私の授業では実践をメインにしてみましょうか」
「はい。」
授業が始まると、カーター侯爵は丁寧に説明してくれた。
まずは自分の中にある魔力の流れを掴むことが大事だということ、魔力は手から外に出すイメージで放出すればいいということ、そして、1日では出来ないから、日数をかけてゆっくりやればいいということ。
初めての授業はとても面白く、遠くから公爵は見守ってくれているので安心して出来る。
少し気恥ずかしいが気にしない。今は魔法を楽しみたい。
でも、やっぱり今まで魔法に触れてこなかったからなのか、初日ではそこまで進まなかった。
それでも、カーター侯爵は、初めてでここまで出来るのは凄いと励ましてくれた。
謎に公爵も褒めてくれて、その日の授業は終わったので、カーター侯爵と授業の日程を決める。
「ご希望の日程と週に何度授業をしたいというのはありますか?」
「いえ、特には。カーター先生の空いてる日で大丈夫です。」
「分かりました。では、火曜日と木曜日、それと、土曜日に授業をしてみましょうか。」
「はい」
懐かしい。前世では先生がいて、学校で勉強するのが当たり前だったから。
今世みたいな暴力を振るう先生…は……。もしかして、カーター侯爵も暴力を振るう…?
また、わたしが1度でもミスをしたら、鞭で打たれる…?
"いや……"
わたしはこの人のことを、良く知らない。
故に、暴力を振るわないとは言い切れない。
「ハッ…ハッ……ハァ…ハッ…ハァ……」
過去の体験を思い出し、過呼吸になっていると、カーター侯爵が慌てて駆けつけて来た。
「夫人!大丈夫ですか?!」
カーター侯爵の声は、公爵の元まで届いたらしく、続いて公爵も駆けつけて来た。
こんなに大事にするつもりはなかったのに、わたしのせいだ。
「すみ、…ませ。ん…」
謝ると、公爵はわたしの手を握って、優しく声をかけてくれる。
「ハンナ嬢、大丈夫だ。ゆっくり呼吸をしろ。大丈夫。謝らなくていいから。な。」
公爵に言われて、ゆっくり息を吸っては吐いてを繰り返し、ようやく落ち着けた。
「…ハァ…ハァ…。すみません、カーター侯爵様。突然で驚きましたよね…」
「いえ、私は問題ありません。ですが、こうなってしまった理由を教えて頂けませんか」
聞かれると思っていた質問。こんな姿を見せてしまったのに、この質問に答えない訳にはいかないだろう。
「………はい…。」
「おい…!無理はするな。苦しいなら俺が事情を説明するから。」
確かに思い出して事情を話すのは息がつまるほど苦しい。
だけど、いつまでも公爵に甘えている訳にはいかない。
「いえ、大丈夫です。わたしがします。」
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