コットンキャンディ
何の欲も持たない人は、生に執着していない。
つまり令嬢は、死ねと言われれば死んでしまう可能性がある。
今までどんな人生を送ってきたのだろう。
どれだけ苦しみ、疲れ、絶望すれば、あそこまで笑顔を作ってしまうのだろう。
普通の人なら、何の違和感も持たない笑顔。あの笑顔を見れば、無邪気、元気、明るいというイメージが湧く。
だが、そうじゃない。
ルーカスの言ったとおり、あの笑顔の裏には、本当に警戒以外何もなかった。1番初めに見た期待と不安も無くなっていた。
おそらく、この期待と不安が消え去った瞬間、私は傷つけてしまったんだ。
心の底から後悔をしていると、通信機器の着信音が鳴った。
通信機器に出ると、ルーカスだった。
『どうだった』
「…後悔した…」
私は素直に答えることにした。ルーカスの愛する人を、傷つけてしまったのだから。私が嘘をついてはいけないだろう。
『まさか本当に試すとはな。ちなみに、ハンナ嬢はお前がしたことを1つも話さなかったぞ。ただ扱える属性を見てもらったと言っていた。』
「まさか、気を遣ったのか…?あんだけ酷なことを聞いたのに???」
『これで分かったか。』
「ああ、今度令嬢にお礼を言わせてくれ。」
『それはハンナ嬢次第だ。それで?お前、ハンナ嬢に何言った??』
久しぶりに聞く怒りを抑えている声に電話越しにも関わらず身震いしてしまう。
ルーカスが感情を露呈することは滅多にないため、これは相当怒っていると言うことになる。
早めに話してしまった方が身のためだな。
「ルーカスを名前で呼ばないのかって言うのと、ルーカスが好きなのかって聞いたら好きじゃないって言ってたから、身の程を弁えてるようだなって言った…。全部知ってて……」
『……身の程?弁えるのはお前の方だ。カーター侯爵。』
本当にその通りだ。親友の奥さんを傷つけ、親友を俺の名前を呼ばない程に怒らせた。
「本当にすまなかったと思っている。その代わりと言っては何だが、ルーカスに1つアドバイスだ」
『何だよ』
「早くあの令嬢をお前の中で捕まえろ」
『はぁ?!何言ってるんだお前』
「令嬢は、お前のことを好きになっても自分から言うことはないそうだ。しかも、お前に好きな人が出来たら潔く離婚するとも言っていた。」
『な…!俺が好きなのはハンナ嬢だけだ!』
"私に訴えられてもね…"
「知ってる。だったら尚更、ルーカスの側に置け。令嬢は、何の欲も持っていない。つまり、生きることに執着がないんだ。」
『生きることに…?』
「今はルーカスがいるから安心だが、令嬢は、多分自分の命を大切にしない。というか、出来ない。大切にするやり方が分からないんだ。」
『…そこは任せろ。俺は騎士の仕事の時以外令嬢から離れていないからな。』
以前はこいつも危うかったが、もう心配ないな。まさに令嬢に執着しているのがこいつだし。
「それは良いことなのか…?まあいいや。とにかく、光属性を扱えることは聞いてるだろう?」
『ああ、明日光魔法を扱える者がくることも聞いている。ディラン、そいつは男か』
「いや、私だよ。まさか、ルーカスがここまで令嬢に御執心とは思わなかった。」
『俺が1番驚いてる。俺にこんな一面があったなんてな。』
「本当だよ全く…。あのさ、令嬢に本当にすまなかったと言っておいてくれ。」
『はぁ、許してもらいたければ、コットンキャンディを買って明日来い。明日は俺も同席するからな。分かったか?』
「ああ、分かったよ。それじゃ、切るぞ」
『また明日な。』
ルーカスの言葉を最後に、私は電話を切った。
それにしても、コットンキャンディ。彼女は甘いものが好きなのか、それかあいつが食べたいだけか?と頭を悩ませながら、結局コットンキャンディをお土産に持っていくことにしたのだった。
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