無欲
「…もちろんです。魔力の色を見させて頂きたいので、この水晶にあなたの手をかざしてください。」
「分かりました」
ここらへんに関しては、わたしは疑いようもないので、素直に従うことにする。
そして手をかざすと、カーター侯爵はひどく驚いた。
「こ、れは…!」
見てみると、わたしが手をかざした水晶の色が、黄色に光っていた。
「この色は、何属性ですか?」
「光属性です!すごいです、こんなに眩しい光は見たことがありません…」
「よかった…ありがとございます。カーター侯爵様」
無事に終わったからなのか、自分が光属性を扱えることが分かったからなのか、とても安心した。
「…………知人に光属性を扱える者がいるので、良ければ紹介させてくれませんか?」
「願ってもないことです。よろしくお願いします。」
「分かりました。では夫人がこれ以上疲れないよう、私は退出しますね。次会う時は、もう少し警戒心を解いてくれると嬉しいです。」
わたしが警戒心を抱いていないのは公爵家の人たちだけなので正直遠慮願いたい。
「そうですね。鑑定、ありがとうございました。次いらっしゃる時は、正式なもてなしをさせてください。」
「お優しいですね。それでは。お見送りは大丈夫です。ごゆっくり休んでください。」
わたしはお辞儀だけして、扉が閉まるとソファに腰を下ろし、嬉しい気持ちを噛み締めた。
わたしは皆を守ることが出来る…。
◇◇◇
まさかあそこまで、何にも執着していないとは…。
今日、ルーカスと政略結婚をした令嬢の元を訪れた。
ルーカスの言うことを聞いておけば良かったと後悔してしまう。
公爵夫人と会う前日、ルーカスと私は通信機器で連絡を取っていた。
内容はこうだ。
『明日は俺の妻のこと、よろしく頼む』
「お前、結婚当初は奥さんのこと何も気にしてなかったのに、どういう心境の変化だよ。」
『ハンナ・アディノールの噂は、全て嘘だ。俺がこの目で確認した。その上で、前も言ったがハンナ嬢のことを愛おしいと思った。』
「はっ…お前本気か…。まさか洗脳でもされてるんじゃ…」
『詮索するのは自由だが、止めておいた方が良いぞ。」
『何でだよ?』
「ディランは魔力を通して感情が分かるだろ。ハンナ嬢を試すような真似をして後悔するのはきっとお前だ。だから止めておけ」
「そんなのやらねぇと分からないだろ。もしルーカスが洗脳紛いなことされてるなら、私が目を覚まさせてやる。」
「後悔するのはディラン、お前だ。それと、お前にハンナ嬢が満面の笑みを向けたら、もう心から信頼されることはないに等しいと思えよ。」
「信頼されたいなんて思ってない。」
「はぁ、俺は言ったからな…」
「ああ、私に任せておけ」
ここまでが電話の内容だ。
そして現在、邸宅にて、猛烈に後悔している。
初めは、期待、警戒、不安、この3つが強かった。
私のこの感情が分かる力は便利だが、何に対して期待しているのか、警戒しているのか、不安に思っているのかは分からないのが難点。
そして、私はハンナ・アディノールの噂と偏見によって見事に勘違いをした。
期待も警戒も、私を男として見ているという期待、私がルーカスに何か言わないかという警戒と不安だと思ったのだ。
結果として、公爵夫人の最終的な私に対しての感情は警戒だけになっていた。
今までも、色々な人の感情を見てきた。人の醜さを目にする機会はもちろんのこと多い。
だからこそ、私は人を見る目を養ってきたと思っていたのに、普通の人、優しい人を言葉で傷つけることはないと思っていたのに。むしろ、俺の方が多く傷ついてきたと思っていたのに。
なのに、私が傷つけた。あんな苦しそうな笑顔を作らせてしまった。
だから、せめて笑顔でいなくても良いようにと自分で言った。すると、あれからは1度も笑わなかった。
流石に自分が光属性を扱えると知ったら笑顔になるだろう、邪な感情が出てくるだろうと思っていたのだが笑わなかったし、それも思っていた感情と違った。
私の予想していた感情は、財欲、利欲、邪欲、承認欲求、の類かと思っていた。
これは、噂されている令嬢だからとかそう言った理由ではない。人は誰しも、欲というものを持っているから。
その中でも、光、闇属性を扱えると知ったものの多くは、第一にこういった感情が出てくる。
この感情が出た場合には、俺が出向き、諭すことが多い。そうして皆、治癒師を、戦闘に赴く魔法使いを目指す。
今回もそうなるのだろうと思っていたのに、今日は…というか、ハンナ・アディノールに対する俺の予想はことごとく外れる。
この結果を見て安堵なんて初めて見た。
何の欲もない…。あの令嬢は、危ない。
見てくださりありがとうございました!
次話も見てくれると嬉しいです!




