わたしの居場所
抑えていたわたしの醜い部分がどんどん出てくる。
ああ、気持ち悪い…勝手に口から出てくる。
今までの反動のようなものなのか、1度出た言葉はどんどん紡がれていった。
「それから1時間後に公爵様が来ましたよね。
侍女や執事、料理人、公爵様もわたしが働き、信頼を得るまではずっと軽蔑の目を向けてきました。そんな噂を信じ、ここにいるわたしを信じない人たちを、わたしはどう信頼すれば良いのですか?」
「…すまなかった。もちろん謝罪だけでは済ませない。」
「いりません…謝罪も、その他も…わたしにも分からないんです。わたしはどうしてほしいのでしょうね?」
痛い、、苦しい…でも、笑顔でいないと…。
「ハンナ嬢…」
返事をしようとすると、喉の奥がつっかえて咳が出てしまった。
そして、その咳のせいでみぞおちの辺りが強く痛んだ。
「…!ケホッ…ケホッ……ハァ、ハァ…」
話すたび、咳をするたびに、どんどん痛みが増していくような気がする。
吐き出したいのに、何も出ない。それがまた、わたしを苦しく、気持ち悪くさせる。
吐き気が…増していく。
「もう、我慢しないでくれ…痛いなら痛いと言ってくれ…。苦しいなら苦しいと、辛いなら辛いと…頼むから言ってくれないか…。」
「…どうして……?」
公爵にそんなことを言う意味なんてないはずだ。
わたしから公爵にそれを言ったところで迷惑なだけだろう。
こんなことを頼む必要なんてないはず。
「俺が側にいてやるから。今までしてきた仕打ちの償いとは別に、俺があなたに心から笑ってほしいと思ったんだ」
"迷惑じゃ…ない……?"
笑ってほしいって、どうしてだろう。公爵と
話していると、次々疑問が増えていく。
それに、心から笑う…わたしにそんなことが出来るだろうか。
…もし、もしも心から笑うことが出来たなら、どれだけ嬉しいことだろう。
でも本当に笑うなんて出来る気が……!
ーガバっー
「へ…?なんで」
「もう苦しまなくていい…。1人で抱え込むな。あなたが教えてくれたんだ。仲間を頼れと…」
「でも、わたしに仲間は…」
「俺がいる。」
"…!公爵が、仲間?あんなにわたしのことを嫌っていたあなたが…?"
「もう仮面なんて被らなくて良いんだ。」
ーっ…公爵は、時々とても無責任なことを言う。
だって、仮面を被っていないわたしを誰かが
嫌ってくるのはとても苦しいし辛い。
公爵は仮面を被っていなくても、仲間が公爵を信頼するので問題はない。
だから無表情の仮面なんて被らなくていいと言った。
けど、わたしの場合は少し違う。
わたしの周りには、敵が多すぎるのだ。
仮面を被っている時のわたしは、わたしであってわたしではない別の誰かだから。
だから、貶されても蔑まされても、耐えてこられた。
だけど、もし誰かが本当のわたしを嫌ったら?
そんな考えがわたしの頭から離れないのだ
「やめてください…!公爵様も、どうせ嫌いになります。だから、わたしにそんな言葉をかけないでください…!」
「嫌いになどならない。」
真っ直ぐな目。
信じてほしいという、強い想い。
でも…
「大丈夫だ。今すぐ信用してくれなくても。ずっと待とう。あなたが信頼してくれるまで」
どうして…この人は、こんなわたしに優しく
するんだろう。
それに、わたしがいつ公爵を信頼出来るようになるのかなんて分からない。1ヶ月、3ヶ月かもしれない。1年後かもしれないのに…
あなたは、アリアと出会う運命なのに…
「大丈夫。そんなに思いつめた表情をしないでくれ。ただ、ハンナ嬢にはこれだけ覚えていてほしい。これからは、1人で泣かなくても良いんだ」
そう言って、ハグをしたままわたしの頭を撫でてくれる。
その言葉は、どれだけわたしを救ってくれたのか、公爵は知っているだろうか。
「心の中で悲しむ必要もない。1人で涙を流す必要もない。泣く時は、俺を呼んでくれ。
そしたらすぐに駆けつける」
やめてほしいものだ。そんなことを言われたら、公爵に縋り付きたくなってしまう
初めて出来た、涙を流す場所。でも、この場所を失った時は、どうしようもない絶望感に襲われるはずだ。それなら、元々ない方が…
「【お前の居場所はここだ】と、ずっと言い続けてやる。」
…公爵はわたしの考えが読めるのだろうか。
わたしが涙を流せる唯一の場所。公爵はそれを、わたしにくれたんだ。
アリア、ハンナ様。
"少しだけ、ほんの少しだけ、この人を好きになる気持ちが分かった気がします…"
「わ…たし…。は…」
無理に話そうとしなくて良いんだと言うように、わたしの背中を優しくさすってくれる。
「ごめん…なさい」
「違う。こういう時はありがとうって言うんだ。」
「ありがとう…ござ…います…」
公爵の服を掴んで啜り泣くわたしに、公爵は涙が枯れるまで側にいてくれた。
泣きたいという思いのままに従ったのはいつぶりだろう。
ムズムズするけど、心が少し楽になって、温かくなった。
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