権利なんてない
"うーん、いつ出ていこう"
わたしはもう、これ以上誤魔化しきれないと悟った。だって、あんな言葉を聞かせてしまった。
あの明るい令嬢はもういない。
やっぱりすぐ出ていこうかな。
次入ってこられた時が、全て話さないといけない時だ。そんな時を迎えないといけないのなら…
ここは2階だ。飛び降りても死にはしない。
…少し痛いくらいだ…。継続的な痛みに比べれば、ずっとマシ。
わたしは自分にそう言い聞かせて、窓から飛び降りた。
ーガサガサー
"いったぁ…"
木がクッションになってくれて良かった。
腕は痛いが、足は無事なようだった。
足が動けるなら大丈夫だ。
逃げよう。どうせここにも、わたしを必要としている者などいないのだから。
走りながら考える。
せっかくなら、ハンナ様が戻ってきた時のために、もうお店で雇って貰えば早いのでは…?
そうと決まれば、早速平民街に…
なんて、甘い考えをしていたわたしを恨んでやりたい。
ーがバッー
大きな少しシワシワの手が、わたしの口を覆った。
"苦し…い。だれ、か…"
そんな心の叫びも虚しく、わたしの意識は
途切れた。
◇◇◇
次に目を覚ましたのは、見覚えのある場所。
"屋根裏部屋だ"
まだわたしがガルシア公爵邸に行く前、父に興味を持って貰えなかったわたしは、自分の部屋すら与えられなかった。
だから、自分の部屋の代わりとして、屋根裏部屋を使っていた。
初めは埃っぽかったものの、自分で掃除をしたりしていくうちに愛着が湧き、唯一この家で落ち着くことが出来る場所になった。
なのに…、ここもわたしにとってトラウマの場所となりそうだ。
どうすれば良いだろう。もう1度飛び降りる?
でも今回は屋根裏部屋。高さは3〜4階くらいの高さ。
ここでだけは、この家でだけは…命を捨てたくない。
ーガチャー
さあ、どうやら犯人のお出ましのようだ。
「ご機嫌よう、お父様…」
「………」
父からの返事はない。
返事をしてくれるとも思ってなかったが。
そんな諦めの眼差しで父を見た瞬間、わたしの視界が大きく揺れた。
理解が追いつかなかった。父の目を見ていたわたしの目は、いつのまにか父の足の方に向いていた。
…ああ、そうか。
殴られたのだ。
そのせいか、頭が割れるように痛い。
「お…えは、…ぜ生…てる!」
なんて言ってるんだろう。でもこの感じ、罵声を浴びせられているのだとすぐに分かった。
この配置は、前世のわたしと父の配置と一緒だ。
「ハハ…」
不覚にも笑ってしまった。だってあまりにも、あまりにも理不尽じゃないか?
「…に笑っ…る!」(何笑ってる!)
前世でもわたしは何もしていない。なのに殴られ、蹴られ、髪を引っ張られる。
今世でもまた、同じような構図だ。
「聞いてるのか!」
父が殴ったせいで耳が聞こえなくて、今やっと聴力が戻ったのだから、聞こえるわけがないだろう。
今まで散々無視をしたかと思えば、今度は暴力に出る。公爵邸の侍従たちの貴族のイメージと似てる。
気に入らないことがあれば暴力に出る。
"そのまんまね"
「はい。お父様」
「…!その穢らわしい口で、私をお父様と呼ぶな!」
「ゥ"…」
今度は蹴りか。
2回、3回、4回、5回
とっくに慣れている。蹴られるなんて、前世では日常茶飯事だったのだから。
「お前があの公爵家で大人しく死んでいれば、俺は完璧な幸せを手に入れられたのに…!」
何度も何度も蹴りながら、そんなことを呟いていた。
"完璧な幸せ?わたしは1度だって幸せを感じたことなんてなかったのに、あなたは幸せを感じるの?"
「お前が妻を殺した!お前さえ生まれてこなければ…!」
いや、感じる権利がないのか。
わたしがお母様を殺したから
わたしが生まれてきたから
じゃあ生まれてきたこと自体が罪なのか
もはやそれすらどうでもいいのかもしれない。このままだと、わたしは死ぬ。
「ハァ、ハァ…」
怒鳴り散らかして、それとも暴力を振るって疲れたのか、侯爵が息切れしている。
"…。わたしは、自分が幸せになることも、誰かを幸せにすることも出来ない"
「お前には、ここでくたばってもらう。時間をかけてゆっくりとな。妻が味わった苦しみを、お前も味わえば良い。」
そう言って乱暴にドアを閉めた。
どうやら椅子には座らせて貰えないらしい。
手が結ばれているため自由が利かない状態だ。
"今頃、公爵邸の人たちはどうしてるのかしら"
"あれ…?公爵邸の人たちを思い出すなんて、随分情が移ってたみたい…"
公爵邸の人達のことを思い出したら苦しくなるので、別のことを考えることにした。
そういえば、わたしが攫われた時には晴れてたのに、今は雨が降ってる。それも同じ時間帯に…
てことは、今日で2日目か。
あまり働かない頭をフル回転させて、導き出した結論だった。
"身体が持つか心配ね…"
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