こんなはずではなかった(公爵視点)
今回は公爵視点です!次回からはまたハンナ視点に戻ります!
こいつでいい。初めはそう思った。
【ハンナ・アディノール】
売女であり、自分の身体で男を誘惑し、家のために情報を引き出そうとする極悪令嬢
そんな噂が絶えなかった。
極悪令嬢、そんな女に会う予定など全くなかった。
なのに、セバスが『お嬢様がお待ちです』と言ってきた。だから1時間後に向かうことにした。
理由は、1時間も待たされれば、怒って帰るだろうと思っていたからだ。
だが、予想とは全く違った。
侯爵令嬢はまだソファに座っていたし、身なりも露出の派手なものではなく、なんなら普通の令嬢よりも露出の少ないドレスだった。
これも一種の作戦かと俺は勘繰った。
すると、令嬢がとんでもない一言を言った。
『証拠なら、わたしの体を見れば良いではないですか』と。
何を言っているんだこいつはと思ったが、自ら墓穴を掘っているも同然だったため了承した。
そして夜、こいつとやり終えた後、シーツをめくって見た。
どうせ血液などついていないだろうと、彼女の口から出まかせなんだろうと思っていた。
そんな疑いの目しか向けてなかったなら、本当に驚いた。まさか本当に初めてだったとは…。
少し悪いことをしたかもしれない。いや、かなり悪いことをした。
だが、極悪令嬢だという噂については証明出来ていない。
彼女が今まで男達にしたことを考えたら安いものだろう。
そんな考えに至った。
『極悪令嬢だという噂は証明出来ていない』そう伝えると、彼女はまた変なことを言い出した。
『分かりました。では、わたしをここの侍女として働かせてください。もちろん重要なことはしません。掃除やら洗濯やらをしますので、そこはご安心ください』
なんだこいつ…
自ら侍女になると言う令嬢は初めて見た。
"この行動にも何か裏があるのか?"
初めはそんなことをおもっていたから、早くボロを出させたくて資料と書類の整理を任せた。
すると、1つのミスもなく完璧に整理されていた。
だんだん噂ばかりを信じてしまったという申し訳なさが積もっていたある日、俺は倒れてしまった。
原因は流行り病だったそうだ。
多分、最近気を張り詰めていたせいでもあるだろう。
普段なら部屋には風邪を移さないため誰も通さないのだが、何故か彼女だけは通していた。と言うかいたのだ。
それから何を血迷ったのか、俺は昔の話を彼女にしていた。
話終わった後はなんて言われるだろう。罵倒だろうか。それとも愚弄するだろうか。
そんな思考しか働いていなかった。
なのに彼女は、俺にもっと周りを信用しろと。仲間を頼れば良いと言ってくれた。
この時、本当に令嬢が本心で言っているのか気になった。だから、『それも男を誘惑するためな磨いた技術なのか』と質問した。
こんな無礼極まりない質問を女性にするなんて、俺はいよいよ狂ったのか。
自分のした質問に後悔していると、令嬢は何も感じていないかのように、『公爵様がそう感じるならそうなのでしょう』と答えた。
この時、何故か感じたことのない恐怖が俺の心身を襲ってきた感じがした。
それから、謝った時も『公爵様はわたしの噂を知っているので、公爵様からしたらそう映ってしまうのも無理はないでしょう…。』と諦めているような反応をする。
彼女は、ただ甘やかされて生きてきた令嬢ではないのか。そんな疑問が生まれた。そして、俺の風邪が治った朝。
彼女が倒れた。
よく見ると、…よく見なくても、顔色がとても悪く、汗もかいている。身体全体が熱い。
何をしているんだと、聞きたくなった。
俺と同じ部屋にいたら移るということくらい分かっていたはずだろう。
そこらへんにいる侍女や執事でも良かったはずだ。
なのに、彼女はそのどちらも選ばず、自分が俺の部屋に残るという判断をした。
何故、どうしてここまでするのだろう。
侍女や執事が病にかかろうとも彼女には関係ないはずだ。
起きたら聞いてみるか。そうして俺は先に溜まっているであろう仕事に手をつけようとした。
だが…
思っていたよりずっと、溜まっていた仕事が少なかった。たまたまか…?
いや、そういえば、俺が床に伏せていた間、令嬢の手にはいつも書類があった。
彼女のおかげだったのか。俺を介抱して、掃除も変わらずやり続け、書類の整理、簡単なものはやってくれていたようだった。
彼女はムリをしすぎている。そして自分を大切にしなさすぎる。
思えば、出会った時からそうだった。売女ではないことを証明するために自分の身体を差し出したり、自分が侍女になって働くと言い出したり、挙げ句の果てには自分が倒れることより侍女や執事に風邪が移ってはいけないからと自分が介抱をする始末。
…待て、待て待て。どうして俺は彼女のことばかり考える?
いや、きっと心配だからだ。様子を見にいけば、この心配もなくなるだろう。
そんな考えに至った俺は、彼女の様子を少し覗くことにした。
すると、彼女が、寝ながら『生きたくない』『消えたい』『殺してくれ』と、泣きながら言っているのだ。
普段の明るい彼女からは想像も出来ないような、暗い言葉。
何か悪い夢でも見ているのか、このままでは本当に苦しそうだ。
だが、寝起きが悪いのか、それとも熱だからか、中々起きなかった。
ようやく起きた彼女は、わたしは大丈夫だからと言い出した。
その言葉に耐えられなかった俺は、言ってしまったのだ。彼女が眠りながら言っていた言葉を。
すると、だんだん状況を理解してきたのか、集中しないと聞こえないような声で『ごめんなさい』と言った。
違う。謝るのは俺の方なんだ。そう伝えようと思ったが、彼女の様子がおかしかった。
まともに呼吸が出来ておらず、額から冷や汗を流していた。
俺の言葉で令嬢を傷つけてしまったのか。焦った俺は大丈夫だから今はゆっくり休めと、そう言った。だが、俺の言葉は届かなかったようで
『わたしは大丈夫だから使用人を部屋にいれないで』と言い出した。
もう聞かずにはいられなかった。
『あなたは家でどんな扱いを受けてきたのだ』
俺の見てきた令嬢たちは、こんなふうに大丈夫だと笑わなかった。
むしろ、自分の利益になるようなことしか行わない。それが貴族の令嬢というものだと、思っていた。
だがどうして、明らかに大丈夫ではない彼女が、大丈夫だと笑うんだ。
そんな絡まり合った疑問の紐が全て解かれていくような話を令嬢はし始めた。
自分が生まれた時に亡くなった母親。
姉しか見ない父親、自分がいないもののように扱われる。
つまり、彼女に愛を与えた人はいなかったのだ。
つまり、そんな彼女に俺は俺の話をしてしまった。
俺は愛されることの嬉しさを知っている。
だが彼女は、分からないのだ。愛情に触れた
ことがないから。
そんな彼女に、これ以上質問など出来なかった。本当はもっと問い詰めたかった。だが、これ以上問い詰めたら、どこかに消えてしまいそうだった。
だからやめておいた。今は仕事に専念することにしたのだ。彼女のことなど考えずに。
考えてしまえば、俺の罪悪感と申し訳なさが増していくばかりだから。
見てくださりありがとうございました!
次話も見てくれると嬉しいです!




