なにも知らないご令嬢
「失礼します」
起きていたら礼儀がなっていないことになってしまうので、きっちり挨拶をした。
まだ寝ているのか、公爵の声がしないと思った瞬間
「おはよう」
「…!おはようございます。公爵様」
と声がした。急に喋り出したからびっくりした。
取り敢えず悟られないように笑顔を見せる。
「朝食を持ってきたのですが、熱が低い今のうちに、食べておきましょう。食べ終わったら眠っていて大丈夫ですよ。」
「…ああ」
「ではわたしは掃除をしてきますので、お皿はすぐそこに置いてもらって大丈夫です。何かあればお呼びください。お部屋から名前を呼んでもらえれば聞こえる位置にいるので」
「令嬢」
「はい?」
「すまなかった…。令嬢が俺に向けてくれた優しさも、誘惑するために磨いた技術なのかと聞いてしまって」
「…公爵様はわたしの噂を知っているので、公爵様にそう写ってしまうのも無理はないでしょう…。失礼します」
ーパタンー
驚きのあまり思わず逃げてきてしまった。
だってあり得るだろうか?
あの公爵が、わたしに謝ってきたのだ。
驚くに決まっている。
少し感心していると、慌てた声をしたリアがこちらまで走ってきた。
「お嬢様…!」
珍しい。リアがこんなに慌てて、しかもここには何かある限り来てはいけないとそう言ったはず。
なのに来るということは、何かやむを得ない事情があったのだろう。
「どうしたの?落ち着いて話してちょうだい」
「っはい…、それが、お嬢様のご指示に納得がいかないと講義するものが出てきてしまって、反対にお嬢様もここの主人なのだから、従うのは当たり前だろうという考えの方で揉めていて…私では止められませんでした。申し訳ありません…」
まさかわたしのいない間にそんなことが起こっているとは…。
いや、起こることは予想していた。わたしのことを良く思っていない侍女や執事は、わたしが一緒に仕事をした中で見る限りでは4〜5人
今回の騒動で、今わたしのことをよく思っていない人たちにも信頼してもらえると良いけど。
「大丈夫よ、話してくれてありがとう。そうね…、ここの廊下の掃除をお願いできる?もし公爵様がわたしを呼んでいたら、リアがわたしを呼びにきて」
「分かりました。お力になれず申し訳ありません」
「そんなに謝らないで。それにリアは充分わたしの力になってくれてる。だから大丈夫よ。わたしは行ってくるから、その間ここのことは任せるわね」
「はい、お願いします。お嬢様」
さて、急がないといけない。もし、わたしの言動よりわたしをよく思わない執事や侍女の言葉を信用されたら、わたしの1ヶ月間は台無しになる。
そんなことさせるわけにはいかない。
わたしのハンナ様に幸せな生活を送ってもらうという目標から遠ざかる。
さて、わたしの指示に納得していない人たちは…。
「ちょっと待ちなさい」
「っー!?!?」
みんなが一声に驚いた顔をした。
まさか本人が登場するなんて思わなかったのだろう。
「何があったのか、わたしにも聞かせてくれない?」
「…では、お嬢様も来たことですし、本音を言わせてもらいます」
この子は、多分わたしをよく思わない人のうちの1人
この子が代表で言ってくれるっぽい。
「私は、お嬢様に私たちのお仕事を取らないで頂きたいんです。なにも知らずにのうのうと生きているあなたみたいなご令嬢は、黙って私たちにお世話されていてください」
あなたたちの目にはそう写ってるのね?
"何も知らないご令嬢"
良いわ。わたしの計画通り。
"でも…、お世話されるって言い方は、癪に障るわ…"
けど、今は気持ちを抑える時だ。
「確かに…あなたの言う通りね。わたしがあなたたちの仕事を奪ってたのね…。」
「分かっていただけましたか?だから、あなたは指示もせずここで適当に暮らしていれば…」
「だったらわたし、ちゃんとした侍女になろうかしら」
「はい、ぜひそうして…はい?」
"ふふっ、驚いてる驚いてる"
"これを機に、みんなわたしのこと信頼させて
やるわよ"
わたしは、こういうのが1番得意。
「わたしはあなたが…いえ、ここにいるみんな、この場所で誇りを持ってやっているのを知っているわ」
「何知ったような口を!」
「知ってるわよ。だって、この1ヶ月、わたしもあなた達と一緒に仕事をしてきたのよ?」
「え…」
「リアたちと一緒に掃除して、執事さんと一緒に書類整理、料理人さんと一緒に料理を作ったりした。これは、一緒に仕事をしたって言わないのかしら?」
「そ、れは…」
「わたしはあなたたちと同じように、仕事に誇りをもってやってきたわ。だから、あなたたちの仕事を、 わたしがしてもらって当然、侍女なんだから、執事なんだからやるのが当たり前だなんて思ってない」
「………」
「ここにいる人が今どの地位で、どれだけ偉いのかなんて関係ない。わたしはどんな地位であれ、あなたたちと一緒に仕事出来たのが嬉しかった。」
「お嬢、様…」
「だからお願い。今回ばかりは、わたしのお願いを聞いてほしいの。」
「お願い…命令じゃなくて…?」
ああ、この子たちの貴族のイメージは、貴族は命令するもの。ただ威張り腐っているやつら。気に入らなければ暴力を振るい、暴言を言う。そんな感じだ。
だからわたしのことも、信用出来ない。
だったらそのイメージを取り除けば良いだけのこと。
「そう、命令じゃない。お願いよ。わたしは、あなたたちに、病にかかってほしくないだけ。流行り病は1人かかればすぐに広がる。だから今回セバスさんに伝えてもらったの。あなたたちが流行り病に感染しないように」
「そん…な…」
「だけど、わたしの配慮が足りなかったのよね。ごめんなさい、あなたたちを争わせてしまって。」
「お嬢様!お嬢様が謝る必要は…!」
執事が慌てて言ってきた。
「いえ、わたしの責任よ。でも安心して、あなたたちがわたしの命令に背いたからって、暴力や暴言に出るわけじゃない。だってこれはお願いだもの。だから変に喧嘩しないで。好きなようにしてちょうだい。従うも良し、従わないも良しよ。」
「…お嬢様…申し訳ありませんでした。」
「謝らないで、あなたたちが自分の意見を言えることは良いことよ。これからも何かあれば、対立するのではなく、わたしに話しなさい。」
「はい…」
…疲れた。でも、公爵が倒れているこの状況で、わたしが休むなんて出来ない。
公爵が回復したらわたしも一旦
ーフラッー
「…っ」
「お嬢様…!大丈夫ですか!?」
「大丈夫よ。ありがとう。」
「ですが…!」
「そんなに心配しないで。ちょっと足元がもつれただけだから」
早く歩こう。心配されるのは嫌。
まるで弱みを見せているようで…
わたしは誰かと対立する勇気も、意見をする勇気もない。
だから、少し羨ましかった。あの言い合っている状況が、心から互いに信頼し合っているのだと分かった。
わたしみたいな上辺だけじゃない関係。
わたしには、叶わないことだ。
見てくださってありがとうございました!
お話まだまだ続きます!




