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お泊りデート

「……と、いうわけで、付き合うことになった」

「おめでとう!」

「いやー、鍵がちゃんと告白するなんてね。偉いよ」


 ファミレスにて。俺はたつきとちかげに荻原と付き合うことになったことを報告した。


「誰にも言うなよ」

「言わないよ。言ったところで誰も信じないだろうよ。女王様と鍵が付き合ってるだなんて」


 やっぱり誰も信じないのか。

 だが、それはそれでありがたい気がする。

 変な噂が立たないで済むだろうからな。


「これからが楽しみだね」


 ちかげが言う。まるで自分のことのように喜んでいる。


「……その、俺は恋愛初心者だから、二人には色々相談することになると思う。その時はよろしく頼む」

「任せといてよ! いやーそれにしてもよかったよかった」


 たつきもちかげも、こんなに喜んでくれるとは思わなかった。

 それだけ気にかけてくれていた、ということか。


「でも鍵、油断しちゃダメだよ」


「油断?」


「付き合いたてで、男性側が変なムーブかまして、すぐ別れるなんてよくあることだからね」


「変なムーブってなんだ?」


「たとえば、付き合ったとたんに周囲に俺の女アピール始めちゃったりとかね」


「……なるほどな。だが、俺はそんなことしない」


「あはは! まぁたしかに鍵なら心配ないと思うね。なんか鍵って、いつも誰に対してもおんなじような感じだからさ」


「……それは褒めているのか、けなしているのか」


「ほめてるのさ。僕には到底できそうもないことだからね」


 たつきが褒めてくる。

 俺ははたから見たらそんな感じなのか。

 たしかにテンション感はいつもおんなじような感じかもしれない。


「繰り返しになるけど、今後何か不安になったりしたら遠慮なく言ってね。僕でよければ力になるから」

「……頼もしいな」


 いい友達を持ったものだ、と思う。

 俺は心のなかで深くたつきに感謝した。





 付き合ってから三日経った。

 一月の二十三日だ。俺は何気ない時間を荻原と過ごしていた。


 だから、今日が特別な日になるなんて思いもしなかった。


 家の中。俺と美琴はソファに座っていた。

 時刻は二十時を過ぎたあたりだった。

 俺と荻原の間に会話はない。


 何か話したほうがいいのか、とも思うが、べつに荻原も荻原で話すことはなさそうだたったので、結局何も会話せずにこの時間まで過ごしてしまった。


 付き合うって、こんなんでいいのか。


 荻原の感情が読めない。

 だから、俺は少しばかり不安になる。

 もしかして、嫌われているのではないか。

 俺は知らず、荻原に嫌われるようなことをしてしまったのかもしれない。


 だとしたらまずいな。


 俺は考え込む。

 何かした方がいいのか? 

 分からなかった。

 俺はまだまだ恋愛初心者なんだなと実感する。


「ねぇ、あのさ」


 荻原が口を開いた。


「なんだ?」 


 正直久々の会話に安堵する。口火を切ってくれて助かったというのが本音だ。


「……今日泊まってっていい?」


 荻原が俺の目をまっすぐに見てそんなことを言った。


 たしかに明日は休みだ。泊まっていったとしても、バタバタすることはない。 

 俺は何気なく答えていた。まだこのときは荻原の真意に気づけていなかった。


「いいぞ」

「……ほんと? よかった」


 それきり沈黙。

 俺は正直驚いていた。何か彼女のほうから言葉を続けると思っていたからだ。

 荻原は何も喋らない。

 俺の方も、喋る言葉が見つからない。


 荻原の方をちらりとうかがう。

 その表情は硬かった。

 まるで何かに緊張しているようだった。


 荻原がそっと、ほんの1ミリほど、近くにいないと気づけないほど、俺の方に身を寄せてきた。

 鼓動が速くなる。だんだん何も考えられなくなってくる。


 少し前まではためらっていたことだ。

 だが、今はどうだろう。


 ここは、自分の気持ちに正直になってもいいのではないか。


 俺もほんの少し、荻原に身を寄せた。すると荻原は、俺の肩にもたれかかってきた。


 俺はゆっくりと、荻原の腰の後ろに手を添えた。緊張でどうにかなりそうだった。その手を荻原の肩まで持ってくる。


 俺は荻原を見る。荻原は上目遣いで俺の方を見上げてきた。


 俺は理性をゆっくりと解放する。気づいたときには俺の唇は彼女の唇に重なり合っていた。


 そのまま貪るようにキスをする。息を合わせるように舌を絡ませる。


 何も考えられなかった。


「………ん……………っ」


 彼女の腕に俺の頭が包まれた。俺はそのまま彼女の体を抱き寄せる。


 何も言葉にする必要はない。ただ今は、お互いの本能のままに求め合っていた。


 二分ほど経ったあと、俺は荻原に尋ねた。


「電気消していいか?」


 鼓動がさらに速くなる。声はかすれていた。


 足が震える。心がくじけそうになる。だが、言わないとこの先に進めない気がした。


「……うん……」


 俺はリモコンを操作し電気を消した。 


 俺は再び荻原の唇を塞いだ。今にも心ははじけてしまいそうだった。手のひらにはとてつもないほどの汗をかいている。


 俺はゆっくりと、彼女の頭に回していた手を、首元に沿わせる。そのままおろしてきて、胸の上に手を添えた。


 何かのスイッチが入ったかのように、彼女は俺の服のなかに手を入れてきた。


 それが合図だった。俺の方も手を彼女の服のなかに入れ込む。暖かい体温が指先から伝わってくる。


 背中に触れた。

 彼女の下着の金具に触れる。  

 何度か撫で回したあと、俺は聞いた。


「……その、脱がしていいか?」


 三秒ほどの沈黙があり、彼女は言った。


「……いいよ……」



――――――――――


 時計を見る。

 時刻はいつの間にか2時半になっていた。

 部屋は暗いままだ。

 美琴は今も隣にいる。

 美琴も俺も服は何も着ていない。


「つかれた……」


 美琴が言う。

 たしかに疲れた。

 すでに日付は変わっている。

 今日は休日で何もすることがない。 

 だからゆっくり休むとしよう。


 俺はまだ実感がわかなかった。

 気づけばあっという間だったからだ。

 大人の階段を登るということはこういうことなのかと。

 美琴が脚を俺の脚に絡ませてくる。


「……あんた、こういうことに興味ないのかと思ってた」

「それはどういう意味だ?」

「安心したって意味」


 世の中には性行為に興味を持たない人もいる。

 そうじゃなくて安心した、という意味だろう。

 それにしても、この時間帯は頭が回らない。


「眠いな……」

「……うん、でもお風呂入るのめんどくさい」


 たしかに面倒だ。

 ならばこのまま寝てしまおうか。

 漫画とかでよく見る、ベッドの上でお互い裸のままで目が覚める、みたいな感じで。

 ここはソファだが。


 ただ、このまま寝てしまったら衛生上良くない気がする。

 さすがにお風呂には入るべきだ。


 美琴は再び、俺の唇にキスをする。しばらく時間が経っていたので美琴の唇は冷たく乾いていた。


 数十秒経って、彼女は俺の唇から離れ、頬、そして首筋にかけてキスをする。温かくてくすぐったい。


 これが、恋人になるということか。

 俺のなかの、頭の冷静な部分が思考する。


 美琴はもう、特別な存在だ。

 それは美琴にとって俺という存在も、特別になったということだ。


 俺は彼女を力強く抱きしめる。

 これから美琴のことを大切にしよう。

 なによりも、どんなときも。


 俺は美琴の唇にもう一度口づける。顔を離したとき、美琴と視線が交錯する。熱っぽい瞳で見上げるその顔は、何よりも可愛くて、誰よりも愛おしかった。


「お風呂入れてくる」


 美琴は「……ぅん」と言って体を離した。


 俺は下着だけ身に着けて、それからお風呂にお湯を溜める。


 こんな日々が永遠に続いてくれればいい、

 そんなことを思った夜だった。


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