七章 4
「それで鍵、色々と聞かせてもらうよ」
ファミレスにて。
俺はたつきとちかげから尋問を受けていた。
「話すも何も、この間見たとおりだ」
「石上くんってさ、実は荻原さんと付き合ってるんじゃないの?」
ちかげが聞いてくる。
「そんなわけないだろう」
「でも、あんなスウェット姿見られてもいいって思ってるってことは、相当石上くんに信頼を置いてるってことだと思うよ」
まぁたしかにそうなのかもしれない。荻原のスウェット姿を見るのは初めてではない。
むしろ見慣れた光景と言えた。だから俺としては気にもとめなかったのだが、はたから見たら不自然だったようだ。
「ちかげ、この際だからはっきり言うけど、鍵は荻原さんのことが好きなんだよ」
「えぇ!?……って驚かないよ! むしろそれが自然だと思うよ」
どんどん恋愛方向に話が進められていく。
あぁ、もうめんどくさいな。
俺が荻原のことを好きなのは認めるとしよう。
「石上くんはどうしたいの?」
「どうって?」
「荻原さんと付き合いたいの?」
「……まぁ」
「じゃあ告白すればいいじゃん! 悩むことなんてないよ」
「そう簡単に言うな。俺が告白して、もし断られたらどうするんだ」
「その時はその時だよ。諦めればいいんじゃない」
だから、と続く言葉を抑えた。それができたら苦労はしないのだ。
「まぁまぁちかげ。鍵の言ってることも理解できる」
「……そっかなぁ? でも荻原さんはだいぶ石上くんに気を許してると思うよ」
たしかに、と、俺はクリスマスの一件を思い出す。あの日荻原との距離は急接近した。
だが、あれはある種、気の迷いだと思う。
クリスマスマジックというやつだ。
ただ雰囲気に流されただけ……という可能性のほうが高い。
「気を許してることと、好きかどうかはまた別の話だろ」
「ま、それも一理あるかもね」
「石上くんは荻原さんと付き合って、何がしたいの?」
何が、か……。たしかにあまり考えてはなかったかもしれない。
一緒に遊びに行ったりとかか? 映画館行ったりとか……?
「……たしかに、あまり想像がつかない。俺は誰かと付き合うということをしたことがないから、よくわからない」
ちかげはにやりと笑った。
「付き合うっていうのは、石上くんが想像している以上に楽しいことだよ。
外でデートしたり、家に泊まりに行ったり……。何気ない時間でも、お互いにそれを共有できたりする人がいるっていうのは、素晴らしいことなんだよ。
何より、好きな人がいつも隣にいてくれるっていうことは、一番の幸せなんだと思う」
ちかげの言葉には説得力があった。
たぶんそれは当事者だからだろう。
想像でモノを語っていない。実体験で語っている。
「あちゃー、僕はとんだ幸せ者だなぁ」
「へへ、そうそう、私がいる限りたっくんは一番の幸せ者なのです」
とんだ見世物を見せられたものだ。
「鍵は女王様のどこが好きなのさ?」
たつきの質問に俺は答えることができない。
荻原のどこが好きか……か。俺は一体荻原のどこが好きなんだろうか。
見た目? それとも女王様という肩書き? それとも性格?
はっきりとした答えが出せない。
「その答えが出せないうちは、告白するのは辞めといた方がいいかもね」
たつきの言うことは確かだ。
俺は荻原のどこが好きなのか。
逆に、荻原が俺のことを好きなんだとしたら、一体どこを好きになったというのだろう。
顔? 性格? 俺にはどれとして優れているものがない。
俺には、自信がなかった。他人から好かれるようなものを俺は持っていない。
だから不安なのだ。荻原に告白することが。
改めて、俺は、荻原のどこが好きなんだろう?
明確なものが見当たらない。
「なんとなく好き、じゃダメなのか?」
たつきとちかげは落胆したような表情を同時に浮かべた。
ダメらしい。
「あのね石上くん、それじゃ女の子側にも伝わっちゃうよ。『あ、この人私のこと好きなんじゃなくて、ただ付き合ってみたいから告白してるだけだ』って」
俺は図星を突かれたような気分だった。
たしかに、人に告白するのに、好きな理由が曖昧ではいけない。
では一体、俺は荻原のどこが好きなのか。
明確な答えがあるはずだ。
たぶん、気づいてないだけなんだと思う。
俺はここにきて自分のにぶさを呪った。
俺が荻原を好きな理由――
それはなんだ?
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