六章 5
美琴視点
「恋愛相談?」
「そ、そうなんだけど…」
「嘘! じゃあ美琴、好きな人できたってこと?」
「ま、まぁ、そんなとこ。ってかあやせ、声大きいって」
「これは大事件だよ! あー、ついに美琴にも春が来たんだね」
「春だなんて、そんな大げさな」
あたしとあやせは今ファミレスの店内にいる。初詣の帰りだ。鍵とは鎌倉に行ったけど、あたしはあやせと一緒に地元の神社に行ったのだ。
あやせとは仲がいい。たぶん一番の友達だと思う。
一番の友達だからこそ、こうやって恋愛相談をしているのだ。
「どんな人? その人かっこいい?」
「ま、まぁ、かっこいいと思う。あたしから見たらだけど」
「そっかー。どんな人なんだろう? 美琴が好きになるくらいだから相当かっこいいんだろうな」
「あ、あんま期待しないでよ」
「もしかしてうちの学校の人?」
「そう」
「そっか、もしかして羽柴くん?」
「ち、違う違う。羽柴くんじゃない。もっと系統の違う人」
羽柴くんというのは学校で一番人気のあるサッカー部のイケメンだ。女子に一番人気のある人物だが、あいにくあたしは彼には興味がない。
「ふーん。見てみたいなぁ、美琴が好きになった人か。…で相談って何?」
そうだった。本題から話がそれるところだった。
「その人と恋人になりたいんだけど、どうすればいいか分かんなくて」
…はぁ? 美琴バカなの? そんなの告っちゃえばいいじゃん。美琴人気なんだから、告白されて嬉しくない人なんていないよ?」
「そ、そうかもしれないけど、もし告白して断られたら嫌、っていうか、すごく怖くて」
「……はぁ、美琴って意外と恋愛下手だよね。すごい奥手だね」
「そ、そうかな…。そうかもしんない」
「美琴はどうなりたいの?」
「どうって、そりゃもちろん付き合いたい」
「でも美琴から告白するのは嫌なんでしょ」
「う、うん。できれば向こうの方から好きって言わせたい」
「そっか、じゃあ美琴ができることをするしかないね」
できることか。あたしができることってなんだろう。料理作るくらいしか思いつかない。
「ちなみにその人のことを好きになったきっかけとかあるの?」
「一緒に寝たら、好きになっちゃった」
「一緒に寝た!? はぁ!? もうそこまで進んでるの? じゃあもう付き合ってるも同然じゃん!」
「そ、そうなんだけど…。っていうか、あやせたぶん誤解してる。一緒に寝たってのは、本当に一緒に寝ただけで何も起こってないっていうか」
「いやいやいや、むしろその彼は何をしてるの? 美琴と一緒に寝といて襲わないとか…そんな男いるの?」
「い、いるんだよ。あたしもびっくりした。あたしの方はOKだったんだけど、彼の方から断られたっていうか」
「それっていつの話?」
「去年のクリスマス」
「……ますますその彼の生態が分からない」
あやせに相談して気づく。やっぱり普通はあの場面で手を出すのが普通なのではないか。
「そこまで進んでるだったら、あとは自然に任せていいと思うけどね」
「自然に、か…。でもこのまま彼が告白してこなかったらどうしよう。脈無しなのかな…。あたしってそんな魅力ないかな?」
「どうどう、落ち着いて美琴。そんなことないから。美琴は学校で一番の人気者だから」
「そっか。あやせに言われてなんか元気出た」
「うーん、美琴がこんなに悩むなんてね。っていうか、恋愛相談するの私で良かったのかな?」
「あやせは恋愛のプロっぽいし」
「そ、そんなに買いかぶられても困るよ…」
あやせは今、二十四歳の営業職の男性と付き合っている。犯罪だけど、あやせは本気で彼のことが好きらしい。
「そうだ、ボディタッチを増やすっていうのはどう? 男性は女性から触れられるだけで好きになっちゃう人多いから」
ボディタッチか…。たしかに悪い案ではないように思える。
鍵に通用するかどうかはわからないけど、あやせの言うとおり、試してみる価値はあるかもしれない。
やっぱりあやせは恋愛のプロだ。これからは困ったらあやせに恋愛相談することにしよう。
「ありがとあやせ、心が軽くなった。あやせに相談して正解だったよ」
「そう? 美琴の役に立てたならよかったよ。また困ったことがあったら何でも言ってね。いつでも相談に乗るから」
あやせは天使のような声で言う。なんてできた子なんだろう。でも時たま顔にあざを作ってたりするのが心配だ。
「あやせに恋愛相談してもらったから、ここはあたしが出すよ」
「え。いいの?」
「いいっていいって」
お金は結構あるから、これくらいはしてもいいだろう。それにしてもあやせに相談して本当に気持ちが楽になった。
ボディタッチか……。試してみる価値は十分にあるかもしれない。
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